立命館大学図書館

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井澤 裕司 先生(経済学部)

 

今回のテーマ : 『経済学部で学ぶ学生のために』

読書は知識やノウハウを詰め込むためのものと思っている学生諸君が多いように思うが、実は読書の真の目的のひとつは「追体験」にある。著者の実体験あるいは思考のプロセスを読者があたかも自分自身の体験のように感じとることが読書の醍醐味なのである。人間が短い一生の間に経験できることはたかが知れている。本を読むことによって自分の人生経験を豊かにすることができるし、本を読まないことはそれだけ自分の人生を狭めているのである。様々な人の追体験を経ることで、他者の気持ちも理解できるし、想像力も発揮できるようになる。人が成長するということはそういうことではないだろうか?
「もし私が他の人よりも遠くを見ているとしたら、それは巨人の肩の上に立っているからだ」(アイザック・ニュートン)
少しずつでも図書館という巨人の肩を目指して登って行こうではないか!


『将棋の子』 (講談社文庫 ; お89-2)
大崎善生 [著](講談社、2003年)

棋士(将棋のプロ)という極めて特殊な世界を学生の時に知っておくことは、「プロになる」ということがどれ程重い意味を持つのかを改めて思い知らせてくれる。と同時に、自分自身が天才であることを疑わなかった者が、さらにその上をいく天才の中の天才がいることを知ってしまった、そういう普通の天才の悲哀も感じ取ることが出来る。うっかり電車の中で読んでいると涙が出て恥ずかしい思いをする、そういう本でもある。
同じ作者の『聖の青春』も超がつく名作である。併せて読むことを強く勧める。

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『ちょっとピンぼけ』(文春文庫 ; キ1-1)
ロバート・キャパ著 ; 川添浩史, 井上清一訳(文藝春秋、1979年)

追体験を目的とする読書としては自伝が極め付きであろう。自分の人生からは想像もできないような他人の人生を覗いてみることで自分自身も成長させてくれるはずである。最近は渡辺陽一氏によって戦場カメラマンという存在もポピュラーにはなったが、本書は、その戦場カメラマンという特殊な生き方を知るうえで古典的な位置を占めている。沢田教一『ライカでグッドバイ』や一ノ瀬泰造『地雷を踏んだらサヨウナラ』なども併せて勧める。

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『アルジャーノンに花束を』 (ダニエル・キイス文庫 ; 1)
ダニエル・キイス著 ; 小尾芙佐訳(早川書房、1999年)

お金が沢山あるからといって幸せになれるかどうか分からない。同様に人間も頭が良くなって本当に幸せになれるかどうかは分からない。しかも本人だけではなく周りの人も・・・
感動的とか切ないとか、本書の読後感は色々あるのだろうが、将来の自分の生き方を見つめる縁とするためにも、やはり学生時代にぜひ読んでおきたい本である。

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『孔子』 (新潮文庫 ; 5587, い-7-36)
井上靖著(新潮社、2010年)

偉人のさらに上をいく聖人の生き方は、いくら伝記を読んでも我々凡人には「追体験」は難しくなる。孔子というのは確かに聖人ではあるのだろうが、ブッダやイエスとは違って極めて人間臭い聖人である。孔子の伝記は人間の世界に踏みとどまっている。折角立命館へ入って来たのだから、本当はぜひ白川静『孔子伝』を読んで頂きたいのだが、いささか白川先生の著作は敷居が高いということであれば、まず本書を読んでみるのはどうだろうか。

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『ツァラトゥストラはこう言った』(岩波文庫 ; 6911-6913, 6955-6957a, 青-33-639-2,3)
ニーチェ著 ; 氷上英廣訳(岩波書店、 1967-1970年)

教科書や参考書は読んで分からなければ書き手の責任である。古典は何度読んでも分からないが、それは読み手の責任であろう。それが人類の長い歴史の中で古典として生き残ってきたということの重みである。
私も学生時代に岩波文庫のニーチェを順番に乱読した時期があった。何度読んでもさっぱり分からなかった。文字通りなんにも分からなかった。そんなものを推薦図書に挙げるのは如何なものかという批判はありうるだろうが、全く歯が立たないものがあると悟った時の一種の「爽快感」のようなものを経験することも大切ではないだろうか。分からないのだがポイと捨て去ることもできなくて、全く歯が立たないものの存在を悟らされるという経験は、自分というものが世界の中心にあって一番偉いという公理で出来上がっている近代的個人主義とは無縁のものである。古典が生き残るのはおそらくそういう理由からなのであろう。

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『雇用,利子および貨幣の一般理論』(岩波文庫 ; 白-34-145-1, 2)
ケインズ著 ; 間宮陽介訳(岩波書店、 2008年)

経済学の古典はアダム・スミスの『国富論』と『道徳情操論』に尽きると思うが、その次に挙げるとすれば、ケインズかシュムペーター。さしあたりケインズは『人物評伝』、シュムペーターは『社会主義・資本主義・民主主義』あたりから始めて見るのがよいだろう。そして馴染んだところで、『一般理論』を手に取ってみよう。言うまでもないが、どちらも知識や情報を得るための読書ではない。人間や社会、歴史をどう見るのかの箴言集の様相を帯びている。シュムペーターはどれを読んでも超一流の学者だと思わせるが、ケインズはどれを読んでも「エリート」だと感じさせる。どちらから読み始めるかは好みの問題か・・・

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『三酔人経綸問答』 (岩波文庫 ; 青-110-1, 青-33-110-1)
中江兆民 [著] ; 桑原武夫, 島田虔次訳・校注 (岩波書店、 1987年)

この世は矛盾に満ち満ちている。それらを解きほぐそうと足掻いているのが社会科学であるのかもしれない。だが現実の歴史を振り返ってみると、そういう社会科学者の営みは時として未熟さを感じさせる。近代日本の歩みも例外ではない。本書に登場する三酔人の誰に感情移入をするかというのは頻繁に行われる問いかけだが、3人ともに共感し、同時に3人の誰にも違和感を感じるという矛盾した状態がずっと続いているのが近代日本なのだろう。これからの日本の歩みを考える上でもぜひ読んでほしい本である。

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『大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか』
R・E・パーカー著 ; 宮川重義訳(中央経済社、 2005年)

経済学は歴史に規定される。大恐慌があったからマクロ経済学がある。大恐慌がなければ今のマクロ経済学は無かったのである。経済学は紙と鉛筆の空想から生まれたわけではない。それが社会科学というものであり、たとえばガリレオ・ガリレイが生まれていなくても天動説は不変であるという自然科学とは根本的に異なっている。マクロ経済学が生まれる前と生まれた後の経済システムと経済学の変質について考える契機を与えてくれる良書である。

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『予想どおりに不合理 : 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』増補版
ダン・アリエリー著 ; 熊谷淳子訳(早川書房、 2010年)

経済活動は生きるためにあるのだとすれば、経済分析の公理体系(分析の大前提)には、人は何のために生きるのかということに対する洞察が無ければならないだろう。本書は、単にいま流行りの行動経済学の紹介本ということではなく、経済学というものが経済学者の個人的な体験や想いの中から生まれてくるものであることをあらためて知らせてくれる。現代の経済学がどこへ向かおうとしているのかを知る上でも強く勧めたい。

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『作品としての社会科学』
内田義彦著(岩波書店、 1981年)

1970~80年代を学生として生きてきた実感から言えば、その当時、社会科学という言い方には清新な感じとともに、微妙な違和感もあったのである。それは社会科学が、イデオロギーと思想から脱却し、より「自然科学」へ向かおうとする課程であり、そのような試みには希望もあったし眩しい輝きも放っていたが、それは部分的にしか正当化できないものだった。ここで部分的と断るのは、そのような試みと格闘していた人々には自然科学というものに対する楽観的な理想化があったからであり、その意味でそれもひとつの「イデオロギー」を形成していたのではないかと思うからである。そういう雰囲気を感じ取ることのできる1冊が本書である。たとえば現代では忘れ去られているようにも思われる「政治的、思想的に意味のある学問的テーマ」というような言葉はポジティブにもネガティブにも捉えることができるのだが、いま改めて埃を叩いて引っ張り出してみたい言葉なのである。

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