立命館大学図書館

   
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「第66回:現在へ導く本との出合い」嘉門 優 先生(法学部)

インタビュー:学生ライブラリースタッフ 山二、今田、佐藤、九鬼

2018.10.10

―嘉門先生の研究分野について教えてください。

私の研究分野である刑法は犯罪と刑罰を対象とした法律ですが、その刑法が社会で果たすべき役割について研究しています。2017年に強姦罪(現・強制性交等罪)や強制わいせつ罪といった性犯罪が改正されました。しかし、被害者保護の観点からは、ジェンダーフリーが叫ばれる現代において、「性被害」という概念のとらえ方が古いのではないかといった指摘がなされています。他方で、密室で行われることの多い性犯罪については冤罪(えんざい)の危険性もあります。これは行為者の視点からの問題意識ですね。このように、社会にいる多様な人の立場を想像し、それぞれの利益を尊重できるようにするためには、ただ「重く処罰する」というだけでは問題は解決しません。なるべく多くの人たちと意見交換したり、国際的な状況も参考にしながら、刑法のあるべき姿を日々研究しています。

―刑法を研究し始めたきっかけは何ですか。

入学したころは、将来像がはっきりせず、ただ漫然と授業を受けていたように思います。その後、しだいに講義内容を理解できるようになるにつれて、どの法律学も、社会をよりよくしようと、問題解決のために、みんなが知恵を出し合って議論していることが魅力だと感じるようになりました。とくに、刑法学は、犯罪という、社会問題のなかでも目を背けたい部分ではあります。しかし、そういう問題こそ、多くの人がアイデアを出して解決する必要性が高いのではないか、その役割を自分も果たせたら…と思ったのがきっかけだったように思います。

―学生時代、図書館をどのように利用されていたのですか。

初めのころは、あまり図書館を利用しませんでした。しかし、2回生のときに図書館が新しくなり、返却本を元の場所に戻すロボットがいて、それを見たい一心で、図書館に足を運ぶようになりました。最初の動機は不純ではありましたが、書庫に入って古い法律の本を引っ張り出して眺めているうちに、様々な本に出会い、研究の基礎となる発想を得ることができました。みなさんも、立命館にはこれだけ素晴らしい図書館ができたので、まず座りに来るところから始めてみるのもいいかもしれません。「あぁこんなのもあるんだ」という自分が思いもしなかった本と出合えるところが図書館の魅力だと思います。

―先生ご自身が影響を受けられた本はありますか。

数多くあるのですが、学生時代は、内藤謙先生が書かれた『刑法講義 総論』にたくさん線を引っ張って読み込みました。冒頭から刑法の基本原則について述べられ、刑罰を恣意的に使ってはならないという一貫した立場から議論がなされている点に魅了されました。私自身も刑法の限界を考えたいと思い、研究を始めました。その集大成として2018年度中に『法益論』という本を出す予定です。また、ベッカリーアの『犯罪と刑罰』のように、当時の社会状況の中で、今では当然のものとなった罪刑法定主義を主張した勇気や、既存概念を覆そうとしたことに憧れました。最近では、大屋雄裕先生の『裁判の原点』がおすすめです。大屋先生は法哲学の研究をされていて、法学入門を違ったスタイルで書こうとチャレンジされています。

嘉門 優 先生(法学部)

―おすすめの本を教えてください。

大学生になって片道2 時間かかる通学の間にはずっと小説を読んでいました。そのときに『真田太平記』などの歴史書を読むことが好きになりました。法律家はどうしても理屈にこだわってしまって、現実味が無いことを話してしまうことがあります。しかし、議論するにあたって、被害者が苦しんでいたり、冤罪が生まれているのはないかといった自分の経験していないことを想像する力は大切だと思います。私自身、そのような力は、小説を読むことによって培われたように思います。文学作品の中に社会に根ざした価値基準のようなものが現れているということもあります。その意味で、法学と文学は無縁の学問というわけでは無いと思います。後付けかもしれませんが私自身、小説をはじめ様々な本を読んでいたことが、今となっては生きているのがありがたいと感じています。

―最後に、学生へのメッセージをお願いします。

たくさんの本に触れてみるのがいいと思います。手に取ってみて、合わなければ、途中でやめてもいいと思います。いい本に出合えれば、それが私のように一生の仕事になるかもしれません。まずは堅苦しく考えずに楽しむことが一番です。その延長線上に興味を持てるものが見つかるといいですね。

ありがとうございました。ではインタビューは以上になります。

今回の対談で紹介した本

刑法講義 総論』内藤謙著 有斐閣 1983.3
犯罪と刑罰』チェーザレ・ベッカリーア著:小谷眞男訳 東京大学出版会 2011.2
裁判の原点:社会を動かす法学入門』大屋雄裕著 河出書房新社 2018.1
真田太平記第1巻』池波正太郎著 新潮文庫 1987.9