部門別課題の把握とフレームワークプランの検討
chapter5では、目指すキャンパスの実現に向けて、検討・配慮すべき内容を部門別にフレームワークプランとして示す。フレームワークプランは、概ね15~30年程度の中長期的なキャンパス全体の整備方針に基づく計画である。どのようなアカデミックプランにおいても配慮すべき考え方や対応可能な考え方について述べている。
5.3パブリックスペース
5.3.1パブリックスペースとは
一般的な大学キャンパスにおけるパブリックスペースを検討する際の視点について整理を行う。
(1)パブリックスペースの計画上の役割
パブリックスペースが持つ計画上の役割について、一般的に下記の7つのようなものがある。
(2)パブリックスペースの空間デザイン
パブリックスペースの整備効果を最大限に活かすには用途や利用対象に合わせた、扉・窓の位置や仕様、仕上げ材の色や素材、照明や家具のデザインなど、細部の空間デザインが重要となる。新築時だけではなく、改修や家具などの備品更新の際においても、キャンパスイメージの向上へ繋がる重要な要素となる。その効果は下記のようなものが考えられる。
パブリックスペースの計画上の役割
- キャンパスの伝統の表象となる空間の保全と形成
- 空間的秩序の構築
- シンボル的な空間・景観で構成される骨格づくり
- 建造物と外部空間との連関
- 良好な景観とレクリエーション環境の維持、向上
- 空間の魅力やアイデンティティを高める要素
- サステイナビリティ
(「いまからのキャンパスづくり-大学の将来戦略のためのキャンパス計画とマネジメント-」より引用)
パブリックスペースの整備効果
- キャンパスイメージを印象づける重要な要素
- 大学に訪れた人がまず最初に感じるキャンパスのイメージ
- キャンパスの特性を活かす
- 多くの人に利用してもらう
≪参考≫過去の主な議論の抜粋① 学生の学びを促進するキャンパスづくり
「学生の学びを促進するキャンパスづくり」を行うために、次の3つの環境整備を進める際、相互補完的に必要となる機能として、パブリックスペースの整備が必要となる。
3つの環境整備もパブリックスペースとして整備することも考えられる。
① 「学部を軸とした学びの環境整備」
② 「正課・正課外の枠を超えて相互に関連し、学生の主体的参加によって展開される学びの環境整備」
③ 「課外自主活動の活性化・高度化に資する環境整備」
(※「BKC課外自主活動検討部会」より引用)
≪参考≫過去の主な議論の抜粋② 立命館のパブリックスペースを検討する際の基本的な考え方
キャンパス整備計画を進める上での次の5つの基本的な考え方のもとパブリックスペースの検討を進める。
①正課、および正課外から派生する学びの場
「学部単位での縦のつながり」を作るために学部の学びの場の近くにゾーニングする
②正課と課外をつなぐ場
全ての学生が交わる場を別に創出する。あわせて、そこに学生が集まる仕組み・仕掛けを創造する
③課外活動の場
相乗効果を発揮できるよう分野・ジャンル毎に配置する。また、発表の場について、学生の動線上に配置し、全ての学生に向けて活動を「見せる」ことができるようゾーニングする
④コモンズ、憩いの場
キャンパス全体の構造の中で、「コモンズ」「憩いの場」を設ける視点を持つ。また、それらを人の手が加わった持続可能な緑地空間として整備し、キャンパス全体の緑地化を進める
⑤施設の設置
「目的を一つに絞る」と「複数の目的を併存させる」という双方の視点をもち、柔軟に検討する
(※「BKC課外自主活動検討部会」より引用)
5.3.2立命館大学におけるパブリックスペースの必要性
(1)アカデミックプランと連動するキャンパス整備の実現
総合的人間力の育成やグローバル研究大学を目指す大学として、教育、研究、学生生活を支えるキャンパスづくりを行う方針が打ち出され、立命館大学の学園ビジョン実現に向けて、キャンパス整備の中でもパブリックスペースの充実が不可欠である。今後は、学びの立命館モデルなどの現在検討中のアカデミックプランとのすり合わせを行い、立命館大学が目指すパブリックスペースの整備方針について検討を深める必要がある。
(2)立命館大学のパブリックスペース整備で目指すもの
立命館大学のパブリックスペース整備で目指すものは下記のようなものが考えられる。
現在のびわこ・くさつキャンパスの主要なパブリックスペース
びわこ・くさつキャンパスの主要なパブリックスペースとは、学生、教職員、外来者など誰もが利用できるスペースであるセントラルサーカスやキャンパス・プロムナードなどの屋外のオープンスペース、交流・生活の場となる食堂やラウンジ、生活にかかせないトイレや廊下などがあげられる。さらに、学部内の交流や情報発信の場となるラウンジ(ラボカフェなど)、学びや研究、課外自主活動などの成果を発表・発信するための多様な空間など、不特定多数の人が利用できる専門的な用途のスペースなども含まれる。また、ぴあらなど、学びのためのコモンスペースを整備してきている。
立命館大学のパブリックスペース整備で目指すもの
- 立命館らしさを創出する空間づくり
- キャンパスの特色を活かした空間づくり
- アカデミックプランを実現する空間
- 学生の学部を超えた交流空間としての整備
- 教職員と学生の交流の場の確保
- 居心地の良さ・質の保証
- 安心・安全な生活空間の確保
- キャンパス外との接点づくり
- 立命館大学の生活の質の向上
⇓
学びを促進する活気ある学びのコミュニティのための空間づくり
5.3.3パブリックスペースの検討において考慮すべき視点
(1)大学の多様化するアクティビティへの対応
キャンパスでは多様なコミュニティにおける、主体的な学びや専門的な研究、活動、交流が行われている。
下図のように、大学における様々なアクティビティを整理し、より効果的で効率的なパブリックスペースの空間整備やゾーニングを行う必要がある。また、これまでパブリックスペースとして整備されてこなかったスペースもパブリックスペースとして位置づけることにより、より効果的で効率的なスペース利用が可能になる。
さらに、パブリックスペースの整備においては管理・運営面と合わせた検討を行う必要があり、利用者のニーズや管理・運営主体の意見を含めながら検討を進めることが重要である。
大学におけるアクティビティを、①学生の専門的な学びや活動、教職員の業務、②正課と課外をつなぐ学び、③学生・教職員の日常生活、④多様なコミュニティ形成の4つに分類した。
特に②、③、④は利用主体や目的が多様なため、パブリックスペースとして位置づけられた場所で行われることが望ましい。また、①のアクティビティにおいても、パブリックスペースとして位置づけられた場所で行うことでその効果をより発揮することが期待される。
※上図にはアクティビティの内容は立命館大学に既にある機能と、他大学や他の公共施設などにある機能を合わせて示している。
(2)必要なパブリックスペースの種類と役割
学びを促進する活気ある学びのコミュニティのために必要なパブリックスペースの役割と種類について、下記の通り、A~Dの4つに分類した。上図で整理した2軸のアクティビティのための空間を整備する際は、下図に示すように、主に4つのパブリックスペースの役割に応じて、複数のアクティビティを関連付けながら、より効果的な整備方針を検討することが大切である。
いずれのパブリックスペースも「専門的な学びや研究、活動の場」との連携や相乗りを含めて構想する。
【専門的な学びや研究、活動の場】
教室、実験・実習室、研究室、サークルBOX、体育館、グラウンド等
【学びを促進するパブリックスペースの整備内容】
A 学生の動きにあわせて配置する専門的な学びや研究、活動をサポートする空間
教室、自習室、グループ学習室、ミーティングスペース、作業スペース、情報発信スペース、事務窓口等
専門的な学びや研究、活動をより深め、発展させるための空間を学生の動きに合わせて整備する。授業前後や空き時間、研究の合間に気軽に立ち寄ることができ、先輩から後輩へ知識の継承や教員と学生の交流が生まれることを期待する。
B 学生が動くように配置する交流空間と学部横断的な学びの空間
教室、ラーニングセンター、(リサーチコモンズ、ラーニングコモンズ)、学習支援機能、グループ学習室、ミーティングスペース、作業スペース、発表スペース、情報発信スペース、多目的ホール、ラウンジ等
ON、OFFの活動に対して、学生を動かし、多くの人や情報に出会える環境づくりを行う。ON空間には、学部横断的な学びへと発展させるための交流空間や情報発信の場を整備し、OFF空間には新たな交流を促す空間を整備する。
C キャンパス全体に配置するアメニティを高める空間
ラウンジ、食堂、カフェ、購買(コンビニ、自動販売機等)、広場、緑地、ベンチスペース、トイレ、パウダールーム、更衣室、メディテーションルーム、託児・保育室、授乳室等
専門的な学びや研究、活動を行うためにキャンパスに長時間滞在するための、リフレッシュ空間やアメニティ機能の充実を図る。また、ゾーン毎のニーズに合わせた整備方針を検討する。
D 地域との交流を促すスペース
教室、発表スペース、情報発信スペース、多目的ホール、ラウンジ、食堂、カフェ、購買(コンビニ、自動販売機等)、広場、緑地、ベンチスペース、屋内外の運動スペース、託児・保育室、授乳室等
学びや研究、活動の実践の場として、地域に貢献する役割を果たすキャンパスとして、地域の人が訪れやすい空間や機能を整備する。また、学生・教職員と地域・一般の方と交流するきっかけを生み出す空間について検討する。
5.3.4びわこ・くさつキャンパスの特性から見たパブリックスペース配置の考え方
びわこ・くさつキャンパスの施設は建物内外において活動が見えにくい構造となっている。今後パブリックスペースを整備する際は、空間的なつながりや視覚的な連続性を確保することにより、互いが刺激し合える場づくりを目指す。また、より効果的な整備場所や利用してもらいたい場所へスムーズに誘導させるための仕組みづくりの検討を行う。パブリックスペースの整備により、びわこ・くさつキャンパスの生活の質(QOL)を向上させ、全ての学びの質の向上につなげることを目指す。
パブリックスペースの基本的な考え方や視点を踏まえながら具体的な整備は下記の3つの方針に沿って検討を進める。
5.3.3(2)で示した、Aのスペースについては、学部や課外自主活動の特定に応じて、適切な場所へ設定する。B~Dのスペースについては優先整備エリア(黄色エリア)へ優先的に配置したり、優先的に整備を進めるものとする。
①BKCのキャンパス特性を活かしてパブリックスペースを形成する
既存キャンパス主要軸や豊かな緑地を活かしながらパブリックスペースを整備することで、キャンパス空間全体に生活の質(QOL)向上を浸透させる骨格の形成を行う。
②パブリックスペースの空間的な序列化を図る
パブリックスペース整備を段階的かつ継続的に実現するため、優先配置が必要な平面的なゾーニングや上下・奥行き方向の断面的な空間特性の序列化を行い、整備の優先順位を明確にすることが望ましい。
③学生のいきいきとした学びや活動、交流が見える空間づくりを行う
多様な学びや研究、諸活動など学生生活の透明化・見える化を図るとともに、そこへ誘導する仕組みづくりを検討し、さらなる交流や対話・刺激を引き出すキャンパスづくりを行う。
5.3.5パブリックスペースの個別課題の把握
(1)現状の整備状況
- 下記の図は、既存施設に整備されている、パブリックスペースの整備状況と現状の課題を示す。
- 正課外の学びの拠点整備が量的・質的な整備の充実が求められている。
- パブリックスペースの空間デザインは重要度の高い要素であるが、検討が不十分である。
(2)今後の検討の進め方
- 学内にあるパブリックスペースの整備規模や利用状況の把握、デッドスペースの把握を進める必要がある。
- より快適で、魅力的なキャンパスを目指すための検討を行う。
- 限られた面積を有効活用するため、施設の利用率をあげるため、施設の連携利用の可能性について管理・運営面と合わせて検討を行っていく必要がある。
- 緑地の活用方法やスムーズなキャンパス内移動を考慮した空間整備について検討を行うことが大切である。
現状より整備方針を検討してきたが、改めて整備方針と現況を照らし合わせて課題を抽出する必要がある。今後、危険度合いの色分けや具体的な整備の優先順位、建設計画との関係、学部ラウンジの整備方針などの検討を行う。また、さらに詳細な現状を把握する必要がある。
①専門的な学びや活動の拠点
主に、教室、実験・実習室、研究室、サークルBOX、体育館、グラウンドなどが当てはまる。今後は、専門的な学びや研究、活動をより効果的・効率的に行えるようスペースの連携利用やゾーニングの検討を行う必要がある。
②正課と課外をつなぐ学びの拠点
【現状と課題】
- 自主的に学ぶスペースが不足している。
- 学びや研究、活動成果を発表したり、情報発信する場が不足している。整備されている場も効果的に活用できていない。
- 一時的に利用者が多い時間帯はスペースが足りなくなる。
- 本来の整備目的のように利用されていないケースがある。
- スペースを生み出し、整備できることから少しずつ取り組んでいる。
- 利用しにくい場所にある。
- 学生の活動が、建物の構造的にスペースの外から見えにくい。
【今後の検討課題】
- どのような学びを実現したいか、整備によりどのような効果をもたらしたいか、アカデミックプランや管理・運営面とのすり合わせが必要である。
- 学びのコミュニティ形成のために効果的な空間デザインや整備場所について検討が必要である。
- ニーズの把握と利用実態の把握を行う必要がある。
- スペースの連携利用の可能性について検討を行う。(教室を利用していない時間帯を有効活用できる仕組みなど)
- 現在の整備場所が適切か検証する必要がある。
- 整備目的を発揮させるために、本来どこに整備をしたら効果的か検討する必要がある。
BKC建物内に現在整備されているパブリックスペース(一例)
③学生・教職員の日常生活の場
【現状と課題】
- 大学を訪れる全ての人が毎日利用する機能・施設であり、立命館大学のイメージを印象づけやすい空間である。
- 多くの場所は生活に必要最低限の整備に留まっている。
- 初めて来た人にとって、移動しにくい構造となっている。
- 各建物が独立しており、広いキャンパスを効率的に移動することができない。
【今後の検討課題】
- キャンパスにおける多様な学びや研究、活動を支える空間として、生活に必要な最低限の整備を行うだけでなく、アメニティの充実、生活の質の向上、立命館大学のイメージについて検討を行う必要がある。
- キャンパス内移動がしやすいよう動線計画に配慮するとともに、キャンパス案内図の設置や目印の整備などにより、初めて来た人にとってもわかりやすいキャンパスについて検討する。
- ニーズの把握と利用実態の把握を行う必要がある。
- 現在の整備場所が適切か検証する必要がある。
- 整備目的を発揮させるために、本来どこに整備をしたら効果的か検討する必要がある。
BKC建物内に現在整備されているパブリックスペース(一例)
④多様なコミュニティ形成
【現状と課題】
- 学部や学生、教職員の枠を超えた交流空間が不足している。
- 教室近くに居場所が少ない。
- 屋外の居場所が少なく、雨天時や暑い日差しを遮った屋外の憩いの空間がない。
- 一時的に利用者が多い時間帯はスペースが足りなくなる。
- スペースを整備しているが利用率が低い場所がある。
- 本来の整備目的のように利用されていないケースがある。
- 教室近くにベンチを配置したり、各学部エリア近くにラウンジを整備するなど、スペースを生み出し、整備できることから取り組んでいる。
- 地域との連携や交流からの視点での整備が進んでいない。
【今後の検討課題】
- どのようなコミュニティを形成したいか、整備によりどのような効果をもたらしたいか、アカデミックプランや管理・運営面とのすり合わせが必要である。
- ニーズの把握と利用実態の把握を行う必要がある。
- 現在の整備場所が適切か検証する必要がある。
- 整備目的を発揮させるために、本来どこに整備をしたら効果的か検討する必要がある。