キャンパス整備におけるファシリティマネジメント
良好なキャンパス環境の創造に向け、継続的にキャンパス整備を進めていくには、経営戦略や管理・運営面との調整が不可欠であり、また、学園全体のトータルファシリティマネジメントの検討も必須である。関連各部局との協力のもと、フレームワークプランを踏まえながら検討を進めることが重要であり、具体的なアクションプランに繋げていくための必要予算の算出や評価基準の設定とのすりあわせなども必要となってくる。
6.1ファシリティマネジメントの必要性
立命館大学が目指す良質なキャンパス環境の創造に向け、持続的なキャンパス整備を進めていくためには、そのための財源確保や実行のための経営戦略、施設整備後のファシリティマネジメントが重要である。学園全体のファシリティマネジメント(FM)の方針・体制について検討を重ね、継続的な整備・保全を図ることが求められる。
財務・品質・供給の目標を設定し、PDCAサイクルをまわすことで全学的な体制のもと、目標の達成と更なる改善を目指すことが可能となる。
6.1.1ファシリティマネジメントとは
ファシリティマネジメントとして整理すべき一般的な項目を右記する。これらの各項目について、既存の考え方を整理し、各方針を関連づけた計画が必要となる。ファシリティマネジメントを運用するためには、企画・管理・運営の主管が異なる既存部局の横断的な連携強化により、運用の効率化を図り、さらなる質の向上を目指すことが重要である。
6.1.2運用の効率化を図る推進体制
キャンパス整備・施設保全、キャンパス管理、キャンパス計画においては、各専門家を交えたフィジビリティスタディが必要となる。そのため、次のことを行っていく推進体制が必要となる。
- FMの計画立案
- 各部局担当からの情報収集と現状評価・施設管理のFM推進体制・情報の共有化
- 適切な運営管理:本学においては、キャンパス整備は財務部管財課、キャンパス管理・施設保全は総務部総務課・キャンパス事務課・地域連携課が担っている。
また、キャンパス整備事業を計画的に推進(キャンパス計画)するための専門的検討機関として、キャンパス計画室が設置され、事務局は総合企画部と財務部が担っている。(2015年4月現在)
ファシリティマネジメントの一般的な配慮項目
■財務管理
(資金調達、運用)
- 各段階における施設整備関係経費の確保(企画検討、施設整備、屋外環境整備、運営(光熱水費)、保守点検、維持管理(清掃・備品管理)、修繕・改修、人件費など)
- 財政構造の把握と目的に応じた財源の活用(補助金、自己収入、外部資金)
- 限られた財源の適切な分配と優先度
- 執行状況の把握
■品質管理
(企画、維持・管理・修繕計画)
- 企画から運営、維持管理までの検討組織体制の確立
- 修繕依頼の流れと維持管理主体の明確化
- 修繕計画作成(短期・中期・長期)
- 保守点検、維持管理
- 進捗の共有
- 品質管理の均一化のための規定設定
■供給管理
(施設整備計画、面積の分配)
- 施設概要の管理(構造、用途、築年数、面積等)
- 利用状況の把握(利用目的、管理者、利用者)・施設整備の優先度の明確化
- 必要な面積を適切に分配し、施設の有効活用につなげる
6.2既存施設の考え方
6.2.1既存施設の改修・増改築の対策
「立命館大学キャンパス創造の基本構想」(2011.10.12常任理事会)の到達点を踏まえながら、アカデミックプラン・経営戦略・建築計画の専門的検討などに基づいて、キャンパス整備方針・内容の検討を進めながら最適なフレームワークプランとしてのキャンパスマスタープランを策定する。
フレームワークプランを軸としたキャンパスマスタープランに沿って、短期的なアクションプランを検討し、立命館大学における良好なキャンパス環境整備を実現していくものとする。
6.2.2施設データの管理・更新
施設の維持・管理・運営においては、既存データの管理や活用策の強化が求められる。OICではCAD化された図面や各種建築関連データがストックとして残されており、今後、建て替え計画や改修などを検討するために、既存資料の再整理や共有情報の活用が求められる。
6.2.3空間の質の向上に向けたライフサイクルコストの検討
建物は竣工後から解体廃棄されるまでの期間に建設費よりも多額の費用がかかるため、完成してからの維持・保全が重要である。建物やオープンスペースを含めた施設全体の運営や修繕・更新を、計画性をもって行うことによって、発生するライフサイクルコスト(LCC)や建物の寿命は大きく異なる。
建物をより長く活用するためには、適切なファシリティマネジメントが重要となる。
6.3緑地管理
6.3.1都市景観のストックとしての緑地管理
OICの緑地は、単に大学キャンパスのアメニティとしてだけでなく、岩倉公園や周辺市街地と連続した都市景観の一部を担う緑地ストックとしての価値を持っている。また、OICの緑地の質向上によって都市景観の価値が向上することは、大学キャンパスのイメージ向上に直接的に寄与するものである。
したがってOICの緑地管理においては、可能な限り質の高い管理を目指さなくてはならない。4.6.2の「(5)長期的な緑地整備計画と管理」にも述べているように、OICにおいても、樹木の生育状況の評価や、キャンパス内の微気候を含む生活空間の質の評価を継続的に行う必要がある。その結果を踏まえて20~30年後のキャンパス緑地のヴィジョンを改めて確認した上で、それを実現するための整備と管理の計画を立てることが望ましい。
6.3.2市民参加の緑地管理
OICでは、開設以前の計画段階からの取り組みとして「育てる里山」「ガーデニング」の二つのプロジェクトを展開し、市民参加による緑地の創造と管理を継続している。
これらはOICの特徴としても重要な活動であり、今後とも継続していくことが望まれる。また、大学キャンパス管理の一環として、これらに支援を行っていく必要がある。
なお、これらのプロジェクトはキャンパス開設前の助走期間中から開始している。大学関係者だけでなく市民や行政による参画や協力を得て、各プロジェクトの礎が固められてきた。これらを通して、キャンパスに対する市民の期待も早い段階から高まり、キャンパス開設を心待ちにしていたメンバーが、OICオープンとともに、活発な活動を展開してきたことも、記憶すべきことである。
育てる里山プロジェクト
茨木市千提寺の高速道路整備対象地であった山地から実生(種から芽生えた若木)を採取し、キャンパス内に移植することで、数十年後に里山を再現することを目指した取り組みである。月2回の活動で既に2000本を越える実生の移植を完了した。同様の目的をもつ既存の里山保全活動市民団体の複数からの参加を得て、2018年3月現在の会員数は80名に達している。
ガーデニングプロジェクト
キャンパス開設に先立ち、立命館大学関係者を指導者として市民と学生によるガーデニングクラブを立ち上げ、月2回の活動を継続している。キャンパス内に設けた5つのガーデニングエリアにそれぞれテーマを設定し、テーマに応じた四季おりおりの草花を植え育てている。植栽作業だけでなく、鑑賞会も実施し、会員募集も兼ねた一般向けガーデニング講座や、学外のガーデニング施設への見学ツアーによる勉強会も行っている。草花の手入れや多様な活動を通して会員相互の親睦を深めている。2018年3月現在の会員数は250名である。
6.4キャンパス整備の推進体制
6.4.1施設整備の推進体制
フレームワークプランで示した整備方針をプロジェクト毎にあてはめ実現していくためには、
①管理運営面との調整
②既存施設との調整
③全学課題との調整
などの調整事項において関連する複数の部局を横断した推進体制が必要である。
6.4.2施設や環境を最大限に活かすための管理・運営体制
継続・更新・発展する大学経営を支え、整備されたキャンパスを最大限に活用するためのファシリティマネジメントが必要である。長期的なキャンパスコンセプト実現に向けたキャンパス整備の手順や管理・運営体制、計画・管理・運営の一体的な評価体制の確立が必要である。