フレームワークプラン
Chapter4では、目指すキャンパスの実現に向けて、検討・配慮すべき内容を部門別にフレームワークプランとして示す。フレームワークプランは、概ね15~30年程度の中長期的なキャンパス全体の整備方針に基づく計画である。どのようなアカデミックプランにおいても配慮すべき考え方や対応可能な考え方について述べる。
4.4パブリックスペース
4.4.1パブリックスペース
大学キャンパスにおけるパブリックスペースを検討する際の視点について整理を行う。
- (1)パブリックスペースの計画上の役割
- パブリックスペースが持つ計画上の役割について、一般的に下記の7つのようなものがある。
パブリックスペースの計画上の役割
- キャンパスの伝統の表象となる空間の保全と形成
- 空間的秩序の構築
- シンボル的な空間・景観で構築される骨格づくり
- 建造物と外部空間との連携
- 良好な景観とレクリエーション環境の維持、向上
- 空間の魅力やアイデンティティを高める要素
- サステイナビリティ
(「いまからのキャンパスづくり-大学の将来戦略のためのキャンパス計画とマネジメント-」(日本建築学会編)より引用)
- (2)パブリックスペースの空間デザイン
- パブリックスペースの整備効果を最大限に活かすには、用途や利用対象に合わせた、扉・窓の位置や仕様、仕上げ材の色や素材、照明や家具のデザインなど、細部の空間デザインが重要となる。
- 新築時だけではなく、改修や家具などの備品更新においても、キャンパスイメージの向上へ繋がる重要な要素となる。その効果は下記のようなものが、考えられる。
パブリックスペースの空間デザイン
- キャンパスイメージを印象づける重要な要素
- 大学に訪れた人がまず最初に感じたキャンパスのイメージ
- キャンパスの特性を活かす
- 多くの人に利用してもらう
4.4.2立命館におけるパブリックスペースの必要性
- (1)アカデミックプランと連動するキャンパス整備の実現
- 総合的人間力の育成やグローバル研究大学を目指す大学として、教育、研究、学生生活を支えるキャンパスづくりを行う方針が打ち出され、立命館大学の学園ビジョン実現に向けて、キャンパス整備の中でもパブリックスペースの充実が不可欠である。
今後は、学びの立命館モデルなどの現在検討中のアカデミックプランとのすり合わせを行い、立命館大学が目指すパブリックスペースの整備方針について検討を深める必要がある。 - (2)立命館大学のパブリックスペース整備で目指すもの
- 立命館大学のパブリックスペース整備で目指すものは下記のようなものが考えられる。
大阪いばらきキャンパスの主要なパブリックスペースとは、学生、教職員、外来者など誰もが利用できるスペースである屋外のオープンスペース、交流・生活の場となる食堂やラウンジ、生活にかかせないトイレや廊下などがあげられる。さらに、学部内の交流や情報発信の場となる学部コモンズ、学びや研究、課外自主活動などの成果を発表・発信するための多様な空間など、不特定多数の人が利用できる専門的な用途のスペースなども含まれる。また、ぴあらやリサーチコモンズなど、学びのためのコモンズを整備している。
立命館大学のパブリックスペース整備で目指すもの
- 立命館らしさを創出する空間づくり
- キャンパスの特色を活かした空間づくり
- アカデミックプランを実現する空間
- 学生の学部を超えた交流空間としての整備
- 教職員と学生の交流の場の確保
- 居心地の良さ・質の保証
- 安心・安全な生活空間の確保
- キャンパス外との接点づくり
- 立命館大学の生活の質の向上
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「キャンパス全体をラーニング・プレイスに」
4.4.3パブリックスペースの検討において考慮すべき事項
- (1)大学の多様化するアクティビティへの対応
- キャンパスでは多様なコミュニティにおける、主体的な学びや専門的な研究、活動、交流が行われている。
- 下図のように、大学における様々なアクティビティを整理し、より効果的で効率的なパブリックスペースの空間整備やゾーニングを行う必要がある。また、これまでパブリックスペースとして整備されてこなかったスペースもパブリックスペースとして位置づけることにより、より効果的で効率的なスペース利用が可能になる(「シェア」の発想)。
- さらに、パブリックスペースの整備においては管理・運営面についても合わせて検討を行う必要があり、利用者のニーズや管理・運営主体の意見を含めながら検討を進めることが重要である。
大学におけるアクティビティを、
①学生の専門的な学びや活動、教職員の業務
②正課と課外をつなぐ学び
③学生・教職員の日常生活
④多様なコミュニティ形成の4つに分類した。
特に②、③、④は利用主体や目的が多様なため、パブリックスペースとして位置づけられた場所で行われることが望ましい。また、①のアクティビティにおいても、パブリックスペースとして位置づけられた場所で行うことでその効果をより発揮することが期待される。
※上図にはアクティビティの内容は立命館大学に既にある機能と、他大学や他の公共施設などにある機能を合わせて示している。
- (2)大学の多様化するアクティビティへの対応
- 学びを促進する活気ある学びのコミュニティのために必要なパブリックスペースの役割と種類について、下記の通り、A~Dの4つに分類した。左図で整理した2軸のアクティビティのための空間を整備する際は、下図に示すように、主に4つのパブリックスペースの役割に応じて、複数のアクティビティを関連付けながら、より効果的な整備方針を検討することが大切である。いずれのパブリックスペースも「専門的な学びや研究、活動の場」(※)との連携や相乗りを含めて構想する。
- ※専門的な学びや研究、活動の場
- 教室、実験・実習室、サークルBOX、体育館、グラウンド等
【学びを促進するパブリックスペースの整備内容】
4.4.4パブリックスペースの配置と計画の考え方
(1)キャンパス全体のパブリックスペースの配置
大阪いばらきキャンパスでは、実践教育の拠点である「街のようなキャンパス」として、多様な出会いから豊かな交流が育まれる仕組みづくりが求められている。キャンパスと岩倉公園は「緑のプロムナード」によって一体的なパブリックスペースとなっており、キャンパス内には、学生の主動線としての「コンコース」、使い手によって更新可能なオープンエンドな機能のある各種の「コモンズ」、地域と密接したスペースとしての「ホール」、学生、地域協働での緑化事業を行う「里山」や「ガーデニング」など多種多様なパブリックスペースが整備されている。
(2)コモンズ
OICにおけるコモンズ空間は以下のとおりである。
(3)情報環境
「情報環境」は、「キャンパス全体をラーニング·プレイスに」を目指すOICにおいて、特に重要なインフラである。情報環境整備に際しては、各種ディバイスが検索ツールではなく、LMSの利用をはじめとした学生の学習ツールになりつつあること、将来的には誰もがディバイスを所持することも想定し、”BYOD(Bring Your Own Device )”を促進できる情報環境づくりに努め、全館無線LAN対応としている。印刷環境についてもオープン·スペースに複合機を配置し、コピーだけでなく、大学のネットワークに接続すれば学生のラップトップPCやスマートフォンからプリントアウトできるシステムの構築を図っている。デスクトップPCの配置も、従来は、特定の空間でなければPCが使えなかったが、複合機同様にオープン·スペースの随所に配置し、利用できるようにしている。
一方で、ICTを活用した成果物の精緻な「作りこみ」など高度な作業が必要になる場合もあるため、コモンズ空間の一つとしてICT-Lab.を設け、教員·学生の支援を行うスタッフを配置している。ICT-Lab.には、映像·音声の編集、グループでの作業が可能な空間や、ノートPCの貸出用無人ロッカー、大判印刷機などの設備があり、多様なアクティビティに対応できるようにしている。また、ICT教育支援の専門スタッフを配置し、Learning Studio等の特徴的な「教室」の活用支援、ICTツールの活用支援をはじめている。
このようなOICの特長としての情報環境整備については、今後とも重要な課題として認識し、更新を続けていく必要がある。
(4)学習環境としてのパブリックスペースの設計における考え方
OICの計画時には、キャンパス全体に広がる「学習環境」は、教室、コモンズ、情報環境の3つで構成されるものとして位置づけ、三位一体で検討をすすめてきた。施設計画の検討にあたっては『学びの空間が大学を変える』(山内祐平・他(2010)、ボイックス株式会社)で述べられた学習環境を構成する四つの要素「活動」「共同体」「空間」「人工物」に、独自に「共有」という要素を加えて整理した。以下、実際の計画の特徴をこれらの側面から概観する。
第一に「活動」はアクティブ・ラーニングを指す。アクティブ・ラーニングは、多様な考え方で構成されるが、開設にあたっては、図4-4-2の定義、特に取得した知識を他者に教えるというアプローチに着目した。本学の学びの特徴の一つである「ピア・ラーニング」とも合致する。
第二に「共同体」は、キャンパス内で生まれる学内外をまたいだ共同体として捉えた。OICが壁のない、地域に開かれたキャンパスであることからも、キャンパス内は、学内構成員に限定されず、市民や行政・企業、卒業生など多様なコミュニティが生まれる可能性が担保されている。
第三の「空間」は、具体的な建築空間と捉えた。特に美馬のゆり氏による講演(2013年4月13日)にて紹介された「寺子屋」「お茶の間」を参照した議論がなされた。あらゆるアクティビティを享受する柔軟性、機能を限定しない多様性、造り込みすぎない曖昧さが空間の計画に反映された。
第四の「人工物」は、造り付けでない可動の設備などに反映された。環境変化と多様性への対応(「型」のない学びの環境づくり)のため、什器類だけではなく、ディスプレイやAV操作卓を可動式にし、また、教室によってはスピーカーも可動式とした。また、学習には一人の時間・場所も必要となる。図書館の他に、コンコース上にも意識的に学習可能な空間を配置した。
最後の「共有」は、「活動」「共同体」「人工物」を「空間」の中で共有することとして捉えた。従来、空間に境界を設けて機能を棲み分け、各区間を特定の部門が専有・管理してきたがOICでは「コモンズ」を中心に機能ごとの棲み分けをあえて行っていない。空間の境界を曖昧にし、必要に応じて必要な利用者が使うという考え方で、タイムシェアリングとも言える方法を適用している。
(5)OICの特徴的なパブリックスペース ー概要と設計意図ー
コンコース
長さ200m、幅18mの南北を横断するコンコースは約6000名の学生の主動線であり、いつでも、どこでも、誰とでも学び、学び合えるようにしている。これは、「キャンパス全体をラーニング・プレイスに」の考え方を象徴する空間である。「木陰」のように、溜まりとなる空間を分散配置している。
空のプラザ
学びの軸と市民交流の軸の交差点に位置する。シンボリックな外観の大屋根がかかった広場で、多くの人々が行き交い、食堂やレストラン、コンビニエンス·ストア、図書館といったパブリックな機能に囲まれている。また、公園にも開かれているので、ダンスなどの学生の活動に加え、市民も参加するイベントに用いられる。「学び」と「交流」の共存を象徴するする屋外空間である。
まちライブラリー
一般社団法人まちライブラリーの協力のもと、「まちライブラリー@OIC」を開設した。開設当初の蔵書0冊からスタートし、その後市民が読了した本にコメントを添えて持ち寄り、本棚に“植本”し、図書館を育てていく仕組みである。本をテーマにした勉強会やワークショップなどのイベントも開催している。これらを通して、本を通しての参加者相互の学びあい、地域の魅力発見など、大学と地域を繋ぐ場として機能しはじめている。2017年現在の会員数は380名で、蔵書数は2000冊を超えている。
OICライブラリー(図書館)
大阪いばらきキャンパスの知と文化の創造・発信・交流の拠点であるB棟(立命館いばらきフューチャープラザ)の2階から4階にある。「学びが見える、学びに触れる、学び合える」図書館をコンセプトに開設した。図書資料を最大約80万冊収容できるスペースがあり、総座席数は約1,100席配している。
ピア・ラーニングルーム「ぴあら」には、グループワークエリア、フリーエリア、情報検索用PCエリア、サービスカウンター、セミナールームがあり、仲間(ぴあ:Peer)とともに学ぶ楽しさ、成長する喜びを感じる場として活用されている。
(6) 各種コモンズの設計意図
気づきから環境行動を生み出す
OICの計画に際しては、実践教育の拠点「街のようなキャンパス」という基本理念のもと、出会いから豊かな交流が育まれるしくみづくりが求められた。公園に面して大屋根と屋内外テラスを持つ学生の主動線は「コンコース」と呼ぶ4層の縁側空間になっている。一方、コンコースを直交方向に貫く外部空間「緑のキャナル」は、テラスが段々にセットバックし、光と風とみどりの気配が内部空間に行きわたるようにしている。
また、講義室や研究室、コモンズなど様々な内部諸室機能に呼応したファサードは、時間や季節により表情を様々に変化させ、窓や障子の開閉や屋外テラスの活用など環境行動を促し、自然に対する気づきを生み出している。
オープンエンドデザイン
教育環境が変化し、使い手(学生・教職員・市民)が変化する教育施設において、空間を作り込みすぎず、使い手によって更新可能なオープンエンド(半作り)のデザインを学生の居場所となるコモンズの設計に展開した。
コモンズの設計では、原始的な学びが大きな樹の木陰ではじまったという考え方をヒントに、「こかげ」を内装コンセプトとし、必要な場所に必要最小限の環境(光、家具、備品)を配置する計画とした。コンコースの天井は下地材を露出した天井とし、イベント時には吊りサインが可能である。照明も配線ダクトにより位置変更、増設が可能な計画とした。
コモンズには「ピアボックス」という400角のキューブを200個配置した。これは学生の発案で生まれたものである。1面がホワイトボードの椅子、机、物置、棚、台であり、アイディアを書き留めたり、イベントの告知、掲示板として多機能な利用が可能な家具である。空間・照明・サイン・家具において学生が更新可能な作りとしている。
(7)その他のパブリックスペース
OICには、以上の他にもホールやカフェ、レストラン、屋内の広場的な多目的空間など多様なパブリックスペースが計画されている。
(8)パブリックスペースの効果と課題
2015年のOIC開設後、パブリックスペース(コモンズ)に関してアンケート調査を行ったのでその集計結果の概要について、考察を含めて以下に記す。なお、アンケートの対象者はOICを利用する学部生とし、2016年4月1日~6月30日までの間に、学生自治組織を通じて配布・回収した。有効回答数は399である。
■活動内容と場所の対応
授業の前後、昼休み、授業終了後にどのような活動を、どこで行なっているかについて集計してみると、以下のような傾向が明らかになった。
- 学習のために利用する場所では、OIC Library と「ぴあら」を含めたコモンズでの利用が多い。学生の教室間移動の主動線となる「コンコース」を基軸に多様なパブリックスペースが配置されているため、学生たちは状況に応じて学習環境を選択していると考えられる。
- パブリックスペースでは、学習だけではなく、課外活動、雑談・休憩など様々な活動が時間帯によらず展開している。OICにおけるコモンズの設計意図として、個々の場所は、特定の機能に極力限定せず、柔軟性・多様性・曖昧さをコンセプトにしており、多様な活動を享受できるよう設計・運用がなされている。
上記の結果を踏まえると、計画当初から想定したとおりの利用実態といえる。特に、OICでは飲食施設も広義のコモンズとして位置づけて運用しているが、食事が中心ではあるものの、学習を含む諸活動が行われていることがわかる。
■什器と活動の関連
様々なアクティビティを支え、学生の居場所選択に大きな影響を与えているのは、椅子・ソファ・机・テーブル・PCといった什器による環境の違いにあると予想されるが、具体的に以下の点が明らかになった。
- 学習面においては、PCの依存率が高い。PCが学生たちの学習ツールとして機能していることが伺える。これは、「キャンパス全体をラーニング・スペースに」を実現すべく情報環境を整備した結果と考えられる。
- ICTツールを単独で活用するのではなく、本・文献 ・書類・テキストなど「アナログ」と組み合わせた活用が見受けられる。
- OIC Cafeteriaで学習する理由として、お茶が飲めるから、食べながらできるから、といった記述や、自動販売機があるからという記述がみられた。飲食ができることがパブリックスペースに利用者を誘導する大きな要因になっていると推測される。
■活動を通じて得た力量
パブリックスペースにおける活動を通じて得たと感じている力量は、協調性が最も高い結果となった。これは、多くの活動がグループで行なわれることに関連していると推察する。特に飲食施設において協調性を獲得できたという回答が多く、昼休みを中心に食事中のコミュニケーションが、学生たちにとって非常に有益なものと認識されている。
また、協調性や積極性など、グループ活動を通じて得られるであろう力量は、コモンズなどのオープンな環境で得られたとする回答が多い。一方、専門知識等の取得についてみると、OIC Libraryで得られたとする回答が多く、多様な学びのためには、個人で学習に取り組む場もコモンズの中に必要であることを示唆している。
学生のアンケート調査によって明らかになった点として重要なのは、活動スタイルと目的・内容、グループの人数、用意されている什器などに応じて場所を自ら選択していることである。OICにおけるコモンズの計画に際しては、機能を特定させないこと、オープンなコモンズではできるだけ境界(特に壁)を設けないこと、また、空間の使い方を明示しないことによって活動を限定させないことを心がけた。アンケート結果から実際の状況をみると、キャンパス全体に学習環境や活動スペースが広がり、学びや様々な活動に触れること、見えることが一般的な認識になっていることが伺える。今後は、成果や取り組みを学生たちが主体的に「見せる化」(成果の発信)するための仕掛けづくりを行なうことで、より能動的な学習が進むものと考えられる。
OICではパブリックスペースの充実に力点を置いているが、今後も利用者に対する調査を継続し、再整備に反映させることが望ましい。
参考:立命館大学大阪いばらきキャンパスにおけるラーニング・プレイスの考え方と利用実態(その2)、 河合孝一郎・武田史朗・及川清昭、2017年度日本建築学会学術講演梗概集
Room(1〜8)は利用者を限定せず多目的に利用できる