フレームワークプラン
Chapter4では、目指すキャンパスの実現に向けて、検討・配慮すべき内容を部門別にフレームワークプランとして示す。フレームワークプランは、概ね15~30年程度の中長期的なキャンパス全体の整備方針に基づく計画である。どのようなアカデミックプランにおいても配慮すべき考え方や対応可能な考え方について述べる。
フレームワークプランの概要
大阪いばらきキャンパスのフレームワークプランを、次の7つの分野について示す。ゾーニング・建物配置、交通、パブリックスペース(屋外のオープンスペースなど)は土地の有効活用の観点から基本方針を共有することが重要である。また、大学キャンパスが社会へ果たす役割として配慮が必要な分野として、安全・安心、環境配慮の考え方を取り入れたキャンパスの検討を行う。さらには、大学のアイデンティティを創出するキャンパスデザインや緑地計画についても検討を行うことが大切である。
- 1.ゾーニング・建物配置
- ①キャンパスの特性を活かしたゾーニング計画
②キャンパスの緑地を活用した土地利用計画
③持続可能なキャンパスの実現に向けた建物配置計画 - 2.交通
- ①キャンパス内の安全・安心に配慮
②生活環境の快適性向上と環境負荷低減
③全体的なキャンパスの魅力向上
(歩車分離、歩行者動線・パブリックスペースの再整備、周辺道路からのアクセス、駐輪場・駐車場の集約化など) - 3.パブリックスペース
- ①キャンパス特性を活かしてパブリックスペースを形成する
②パブリックスペースの空間的な序列化を図る
③学生のいきいきとした学びや活動、交流が見える空間づくりを行う - 4.キャンパスデザイン
- ①空間の質
②建物外観デザイン
③屋根・庇デザイン
④建物高さ・壁面線・建物ボリューム
⑤サイン計画
⑥ランドスケープデザイン
⑦眺望・景観・借景 - 5.緑地計画
- ①細かな移動と滞留に適した緑地空間づくり
②芝生広場など憩いの空間づくり
③地域・社会に向けたプロムナードの顔づくり
④木陰の広場づくり
⑤緑の散策路の整備 - 6.安全・安心
- ①ユニバーサルデザイン・バリアフリーへの配慮
②交通への配慮
③施設の維持管理、老朽化への対応
④防災・防犯への配慮 - 7.環境配慮
- ①省エネ・省資源に配慮した環境共生建築
②エコキャンパス
③周辺環境との調和
4.1ゾーニングと建物配置
4.1.1キャンパスの骨格軸
土地の歴史を参照した骨格軸
大阪いばらきキャンパスの敷地は、南を近畿自動車道、西をJR東海道線、北を都市計画道路(茨木松ヶ本線)を超えるためのアンダーパスによって規定された不整形な土地である。広域交通インフラの線形が、ローカルに存在してきた格子状の都市構造を分断し、切り取られるように不整形な敷地形状を生んだといえる。
しかし、これらの広域交通の線形は都市の近代化以降に持ち込まれたものであり、茨木のまちには、条里制を反映した南北と東西の柔らかい格子状の都市構造が存在してきた。古くからあるまちに新しい大学キャンパスを開設し「都市共創」というコンセプトを追求する上では、既存の市街地との連続性を担保することが重要である。
大阪いばらきキャンパスの基本計画においては、サッポロビール工場の立地時と同様、敷地が最も長く接するJRと平行な軸線による施設配置案も検討したが、最終的に、周辺のアーバンファブリック(条里制の名残)に同調する南北軸・東西軸を採用している。南北軸を「学びの軸」、東西軸を「市民交流の軸」と呼び、その二軸に沿った建物配置を採用し、茨木のまちにローカルに存在してきた都市構造に従った計画としている。
十字型の軸線による、自律性をもちながらまちに開かれた場づくり
南北軸の「学びの軸」、東西軸の「市民交流の軸」による十字型の軸線は、単に周囲の都市構造に従うだけでなく、「自律性をもちながら、まちに開かれた場」をつくる効果を持っている。
この効果は、二つの軸を交点に座標空間の原点のような強い中心性をもたせることと、同時に各軸がまちの既存の軸とつながることで空間的な延伸性を表現することによって生まれる。
そのため、この効果を弱めるような敷地境界のフェンスや塀、外部に対して閉鎖的な建物の配置は、キャンパスマスタープラン上、不適切であり、今後とも「塀のないキャンパス」としての姿が保たれることが重要である。
4.1.2二つの軸によるゾーニング
「学びの軸」と「市民交流の軸」
長期的な敷地計画においては、JR茨木駅に近い北側から建設を進め、南側をリザーブスペース(将来の建設用地)とすることが現実的である。そのため、将来にわたって教学・研究施設が展開する方向である南北軸を「学びの軸」と設定し、教室や研究室などの機能を結ぶ軸とする。
一方、周辺市街地の歩行者にとって利用しやすい接道面は北東側に限られ、特に東側に広い市街地が広がっている。そのため、市民のアクセスは主に東側からを想定することが合理的である。そこで、東側に接道する東西の軸を「市民交流の軸」として設定し、他の施設よりも地域に開放されやすい図書館やレストラン、また食堂や体育施設などを結ぶ軸とする。
ゾーニング計画
骨格となる「学びの軸」と「市民交流の軸」の二軸に従い、キャンパス全体のゾーニングを以下のように設定する。
4.1.3建物の配置と構成
軸ごとの建物配置と機能割り当ての考え方
<学びの軸>
学びの軸に沿って、教学・研究を主目的とした建物であるA棟を配置する。
A棟は、コンコースと板状ボリューム(東西と南北のスラブ)による構成とする。こうして、類似した仕様の教学・研究施設を効率的に収容し、反復的拡張が可能な構成とし、同時に将来的な拡張性を担保する。
ただし、建物内部のゾーニング規則に従い、A棟内にも教学・研究以外にも公共性の高い機能が適宜配置される。
<市民交流の軸>
市民交流の軸に面する建物群は、機能的にも公共性が高く、集団的な利用の機会が多い施設とする。そのため、東西軸に沿って、アクセスのしやすい比較的低層の箱型ボリュームを並べ、互いにブリッジや廊下を介して接続させる。
周辺市街地と連続した街並みの形成
骨格となる「学びの軸」と「市民交流の軸」の二軸は、周辺市街地と連続する空間であることから、軸に沿っては公共性の高い街並みとしての空間や、景観の創造を心がけた計画と管理運営を将来にわたって行う。特に、岩倉公園との一体的なデザインや管理運営については特段の意識を払うものとする。
また、学びの軸は、岩倉公園からキャンパスの南側に位置する春日神社に至る、連続したオープンスペースをつくりだす軸でもある。そのため、都市の緑地軸としての価値と役割を意識した景観形成や管理運営を行っていくものとする。
さらに、春日神社周辺の緑地は都市公園として都市計画決定されていることから、キャンパスの南端部は緑地景観を含め、これとの連続性を意識した管理運営を行っていくことが求められる。