フレームワークプラン
Chapter4では、目指すキャンパスの実現に向けて、検討・配慮すべき内容を部門別にフレームワークプランとして示す。フレームワークプランは、概ね15~30年程度の中長期的なキャンパス全体の整備方針に基づく計画である。どのようなアカデミックプランにおいても配慮すべき考え方や対応可能な考え方について述べる。
4.6ランドスケープ
4.6.1ランドスケープゾーニング
大阪いばらきキャンパスでは、キャンパスが岩倉公園と一体的に計画されたことから、ランドスケープ(緑地や外部空間)のデザインに関して、公園と大学にまたがった入念な検討が行われ、図のようなランドスケープのゾーニングが行われている。今後の改修計画においても、このゾーニングを参考として、各々のゾーンの特徴を強化、促進していくように取り組むことが求められる。また、必要性がある場合には、新たな長期的計画と整合させたゾーニングの修正を行うことが望ましい。
4.6.2キャンパスランドスケープで重視すべき点
(1)キャンパスのアイデンティティとしてのランドスケープ
大学では、キャンパス内の建築と景観自体が、学生の記憶にのこるアイデンティティに満ちたものであることが望ましい。大阪いばらきキャンパスにおいては、「学びの軸」と「市民交流の軸」の二つの軸と、「緑のプロムナード」および「岩倉公園」との一体性が、その骨格的な役割を果たしている。
一方、一般にキャンパスが長年にわたって利用されるほど、建設計画の積み重ねによって狭隘化が進み、緑地や空地は断片的な「残余」の空間となりやすい。大阪いばらきキャンパスでは幸いにして現段階では明確な骨格が与えられている。今後の改修計画においても、前項に示したランドスケープのゾーニングを参考として、各々のゾーンの特徴を強化、促進していくように取り組むことがのぞましい。
なお、敷地南側の春日神社周辺の緑地は地域住民の財産区であるが、都市公園として計画決定されている。キャンパス内もリザーブスペースは用途が未だ確定していない。春日神社への参道の役割を南側の歩道が果たしていることから「鎮守の森再生エリア」の設定によってこの部分と春日神社の緑地との連続性を位置付けているが、南端部の緑地は大学キャンパスとしての用途や周辺市街地との関係上の役割などは未だ明確化されずに残されている。
今後のリザーブスペースにおける整備計画や、春日神社の公園整備などの進展とあわせてこの部分にも明確な役割と景観上のアイデンティティを向上させていく必要がある。
(2)キャンパス生活の質を向上する緑地
大学キャンパスは学生および教職員が長時間にわたって過ごす空間なので、いかにアイデンティティ溢れる景観であっても、居心地の良い空間でなければ役割を果たさない。ランドスケープおよび緑地によって向上できる生活空間としての質の代表的なものとして、視覚的アメニティ、微気候、居場所が挙げられる。視覚的なアメニティには樹木や地被植物、花卉(かき)類などを利用した緑視率の向上や季節感の演出、水景施設などが寄与する。
また、微気候の調節に関しては高木による木陰の創出や地被植物や反射性の低い床材などによる照り返しの低減などが代表的である。
これらによって環境を整えることと、適切なベンチや腰掛けられる段差の設定などを組み合わせて、学生、教職員および来訪者にとって心地のよい居場所をつくりだすことができる。
建設時にも、この点について一定の検討が行われているが、学生や教職員、地域住民に対するヒアリングやワークショップを継続的に行い、キャンパス生活の質の向上により大きく貢献するランドスケープの整備と管理を続けていくことが望ましい。
(3)都市緑地の一部としての大学キャンパス
キャンパスのランドスケープは、キャンパス内の空間における機能的、経験的価値を向上させるものであると同時に、キャンパスを含む市街地においても重要な役割を果たし得る資源である。キャンパス内の緑地の計画を行う場合には、都市的な文脈を把握した上で、既存の緑地や空地のネットワークへの接続などを含め、周辺地域と協調して価値を高め合う計画が望ましい。
防災公園市街地施設整備事業という国の補助事業を活用した大阪いばらきキャンパスでは、周辺市街地との連続性を中心的な課題として検討し、塀のないキャンパス、公園と一体化したキャンパスという方針が当初から位置付けられた。そして、周辺の既成市街地の街路構造や、緑地資源との連続性なども意識した計画とデザインが、茨木市、UR、立命館および関係の専門機関との密な協議を通して進められた結果、大学のキャンパスと公園との境界が見つけにくいほどに一体化した姿が実現されている。
このように、所有と管理の主体が異なるオープンスペースを一体的に計画・デザインし、都市内の連続する緑地ネットワークを構築する先行的事例は、歴史的には数多くある。エメラルドネックレスと愛称されるアメリカ、ボストンの緑地系統にはハーバード大学の樹木園の土地が含まれている。また、神奈川県の港北ニュータウンにおける緑地系統「グリーンマトリックス」には、学校などの公共施設の管理地だけでなく、民間の住宅開発や社寺仏閣が所有管理する緑地が取り込まれている。
さらに、都市の公共空間の管理運営に民間活力が動員される事例も急激に増加している。そうした中で、今後のキャンパスにおいて、そのオープンスペースの公共的価値を十分に意識した計画と管理によって周辺地域の景観的、生活環境的な価値を向上させることは、公益性の高い組織である大学法人としての次世代に向けた責務の一つである。
また、大学キャンパスの緑化整備には、単なる大学のブランドイメージの向上にとどまらず、コモンズの一類型としての重要性がある。人が集いたくなるような優れた風景の中に、優れた人材が多く居合わせることで、その共通の風景体験を互いの信頼の基盤とする交流が生まれ、イノベーションにつながることが期待される。
特に、「都市共創」「地域・社会連携」を謳う大阪いばらきキャンパスでは、そのような風景が大学だけでなく、地域との協働によって、キャンパスの内外にわたって育まれていくのが理想の姿でもある。大阪いばらきキャンパスでは現在も、茨木市や周辺に関わる民間企業と大学との共同で、都市内のオープンスペースの管理運営やエリアマネジメントに関する定期的な勉強会(OICオープンスペース研究会)を行い、こうしてつくられた公園とキャンパスの複合的なオープンスペースに関して、より良い発展的な管理運営のあり方についての意見交換が継続されている。
(4)地域住民が参加してつくるランドスケープ
大阪いばらきキャンパスでは、開設以前の計画段階からの取り組みとして「育てる里山」「ガーデニング」の二つのプロジェクトにおいて、市民参加による緑地の創造と管理を継続している(詳細については、「6.3.2市民参加の緑地管理」を参照)。「都市共創」「地域・社会連携」を体現する風景として、今後も継続し、長期的に保っていくことが望ましい取り組みである。
(5)長期的な緑地整備計画と管理
緑地整備は短期間で効果が現れるものばかりではなく、特に新しいキャンパスや、植栽基盤が貧弱な場合には、土壌や地下排水整備、適切な樹種選定などを含めた育成が必要となる。こうした緑化工事は思いの他高額になるので、実施には、明確な骨格ヴィジョンと段階的計画が必要である。びわこ・くさつキャンパスでは、BKCマスタープラン2015ver.1においてキャンパスの骨格的な空間軸の部分と、それらが交差する中心部を緑化に関して高い優先順位をもつエリアとして定めた。これ以降、びわこ・くさつキャンパスでは「BKC将来構想検討委員会」の下に「BKC緑地計画具体化ワーキンググループ」という名称の全学的会議体を設置し、学生へのヒアリングやワークショップを企画しながら、幅広い所轄部署が参加してマスタープランの実現に向けた継続的な計画の検討を行っている。
大阪いばらきキャンパスの場合、建設計画策定時に公園と一体化した大学キャンパスとして入念な設計が行われているが、それを踏まえた将来に向けた緑地の整備と管理に関する計画策定の取り組みは全学的に位置付けられてはいない。
大阪いばらきキャンパスにおけるランドスケープや緑地の重要性を考慮した場合には、長期的な緑地整備および管理の計画をマスタープランに含めることが、今後の課題である。