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須佐 大樹 先生(経済学部)

2023.05.01


『ミクロ経済学入門の入門』
坂井豊貴著(岩波書店、2017年)

ミクロ経済学の考え方・エッセンスについて、短時間で気軽に学ぶことのできる、坂井豊貴先生による入門書。
まえがきで述べられているように本書の特長は3つあり、1)ゲーム理論が個別のトピックとして説明されるのではなく、各トピックに溶け込むように用いられていること、2)理論で閉じずに、現代の日本が抱える諸課題(課税や医療など)に対し、ミクロ経済学を用いて何が言えるのかまで論じていること、そして3)格差や貧困についても触れていること、である。これらがとても上質だけど気軽な雑談みたいに、流れるような文体で、ほぼ数学的な記述を無くして(登場したとしても小学2年生程度の算数レベルで)、また極めてコンパクトに纏められている。
また、「入門の入門」シリーズとして『経済数学入門の入門』(田中久稔著)や『ゲーム理論入門の入門』(鎌田雄一郎著)もある(BKCメディアセンターに所蔵されているようです)ので、そちらも興味があればぜひ読んでみてほしい。。

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『格差の起源』
オデッド・ガロー著(NHK出版、2022年)

「人類はなぜ急激な経済成長を成し遂げたのか?」「しかしながら、経済的繁栄は一部の国にとどまり、国家間の経済格差が今なお大きく存在するのか?」という2つの問に対し、“統一成長理論(Unified Growth Theory)”を構築し、答えを与えたオデッド・ガロー氏(ブラウン大学教授)による著作。
人類史のほとんどの期間、ほとんど全ての人間は生きるか死ぬかギリギリの所得水準だったが、19世紀以降に突如として劇的な経済成長を遂げ、現代に至る。それを可能にした要因に迫るのが本書の第一部である。そして、それに続く後半第二部では、国家間の深刻な経済格差についての考察が、制度や文化、地理的な視点から展開されていく。
現代の経済学そのものはアダム・スミスの『国富論』から250年余の歴史しか持たず(ミクロ経済学などのいわゆる近代経済学はさらにずっと短い)、その分析対象も近現代のみとつい思い込んでしまうのであるが、本書はその遥か遠い過去の人類史から紐解き、「なぜ格差が生じるのか」という誰しもが不思議に思うであろう謎に対して、分析の光を当てるという圧倒的なスケール感に驚き、また経済学の懐の深さを本書を通じて感じ取って欲しい。

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『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
若林正恭著(文藝春秋、2020年)

キューバをメインとし、文庫本として出版される際にモンゴルとアイスランドが旅の行き先に加えられた、芸人・若林正恭氏による紀行文。解説はDJ松永氏。
「新自由主義」と「競争」という言葉で息苦しいほどに埋め尽くされた国を発ち、社会主義共和制の国へ向かう。タイトルに象徴されるように、制度的にも地理的にも遠く離れた(ほとんど真逆の)国で、ある理由により著者は「生」と「死」を想う。
巻末の解説もぜひ読んで欲しい。単行本で買った際には付いていなかったDJ松永氏による解説が読みたくて、文庫版でも改めて買いました。
小説やエッセイを読むにあたって、自分なりにこれはと思う作家に出会ったら、その作家の作品を執筆された時系列順に追いかけながら読んでいく、という読み方が個人的に好きで、何人かいる私の「追っかけ対象」のひとりに若林さんは入っています。時間の流れとともにテーマや文体が絞られて、練り上げられていく様子や、また移り変わったり、再構築されていく様を感じ取ることができます。図書館の蔵書検索をそんな目的で使いながら本を読んでみるというのもいかがでしょうか。

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『社会科学の考え方』
水田洋著(講談社、1975年)

アダム・スミス研究の第一人者であり、経済学者・社会思想史学者である水田洋先生による社会科学入門。経済学や政治学は社会科学に分類されるが、個々の学問分野に分岐する前の根源として共通する考え方、課題に迫る。
いまや経済学に限らず様々な学問分野の直観的で、具体的で、十二分に説明的な分かりやすい入門書が数多く出版されているが、それらと同じものと思って本書を手に取ると、入門する「門」までの道のりの遠さや、その門の前に広がる知の荒野の境界線の無さぶりに、ちょっと面食らってしまうかもしれない。でも、そういう「一度や二度じゃ噛み切れないけど、なんかスゴイものを食わされたってことだけは分かる」的な読書体験もまた必要だよね、というわけで選書した。
また、この本は1975年に出版されており、いま新品ではほとんど手に入らない。でも、図書館では読めるので、良いですよね。大学の図書館って。

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『基礎からわかる論文の書き方』
小熊英二著(講談社、2022年)

「論文とは何か」――その定義や機能の解説から始まり、論文を書き上げるまでの各ステップを学生との対話形式も含めつつ構成された、社会学者・小熊英二先生による論文の書き方入門。
大学受験で文系だった人でも、文章を書くのが得意、または書き方をすでに知っているというひとは少ない。それもそのはず、高校までの段階で論説的な文章を書くためのトレーニングはほぼ行われないからだ。しかしながら、いったん大学に入学してしまうと、やれレポートやれ卒論という具合にやたらと文章を書くことが求められ、苦労する。ついでに言うと、ゼミや研究室で指導する教員の立場としても、「文章の書き方を教える時間は無い(あるなら専門分野の研究・勉強してほしい)んだよなぁ」と思いつつ、添削の段階でとんでもなく苦労する。全く誰も幸せになっていない。
というわけで、学生のみなさんがこれを読み、論文の書き方を理解したり少なくともイメージを得ることには、自分ばかりでなく教員も助けるという強力な「正の外部性」があります。ぜひ。

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