第Ⅰ章
2026年度全学協議会の意義と位置づけ
―これからの立命館大学を考えるために―
1.大学を取り巻く社会・高等教育環境の変化
現在、大学を取り巻く社会環境および高等教育環境は、学生一人ひとりの学び方や将来の生き方に直結するかたちで、大きく変化しています。この変化は、遠い話ではなく、「なぜ今この学びが求められているのか」「大学で身につけた力は、社会でどのように生かされるのか」という問いとして、すでに大学での学びや研究の中に入り込んでいます。
まず、少子化を背景とした人口減少社会の進行は、日本の大学全体に大きな影響を及ぼしています。18歳人口は今後も減少が続くと見込まれており、大学はこれまでのように18歳で大学に入学する学生を前提とした教育・研究モデルを維持することが難しくなっています。これは、大学同士の競争が厳しくなるという話にとどまらず、「大学で学ぶことの価値を、社会に対してどのように説明できるのか」「どのような学びが、今後の社会に本当に必要とされるのか」という根本的な問いを突きつけています。学生のみなさんにとっても、大学に入学すること自体をゴールとするのではなく、「大学で何を学び、どのような力を身につけるのか」を考えることの重要性が、これまで以上に高まっていると考えられます。
加えて、近年の国の高等教育政策は、科学技術・イノベーション政策とも連動しながら、大学の人材育成機能と研究機能を、社会の成長や新たな価値創出の中核として位置づける方向へ大きく動いています。そこでは、大学に対して、基礎研究の力を高めることに加え、その成果を社会課題の解決やイノベーション創出へとつなげていく機能が求められています。こうした政策動向は、大学を単に知識を教授する場としてではなく、社会の将来像を構想し、その実現に向けて人材育成・研究・社会連携を一体的に展開する場として捉え直す動きであると言えます。
次に、経済・産業構造の変化とデジタル技術の急速な進展は、社会で求められる能力のあり方を大きく変えています。大規模学習による生成AIの活用が急速に広がる中で、専門知識や知そのもののあり方が大きく変化し続けています。一方で、正解が一つに定まらない課題の解決すべき根本的な問いに向き合い、他者と創造的に協働しながら思索・行動する力が強く求められるようになっています。例えば、みなさんが授業で行うグループワークやプロジェクト型の学修、あるいはPBL型授業での試行錯誤は、こうした社会状況と深く結びついた学びだと言えます。
この変化は、大学教育だけでなく高校教育にも影響を及ぼしており、国の政策においても、これまでの「文系」「理系」を早い段階で分ける学び方から脱却し、AIやデータサイエンスの活用を前提に、文系・理系を問わず数学的・情報的素養を身につけることの重要性が議論されています。これは、単に理系人材を増やすということではなく、どの分野を学ぶ学生であっても、データや技術を理解し、社会課題を多面的に捉え、他者と協働しながら価値を生み出す力が求められていることを示しています。
また、世界的な環境問題や地域課題、社会的分断といった複雑な課題が顕在化する中で、一つの専門分野を極めるだけでは、その解決が図れない局面が増加しています。そこで、異なる分野の専門知識や立場をつなぎ合わせ、価値観の異なる他者と互いに尊重し合って対話を重ねながら合意を形成していく姿勢は、将来どのようなキャリアを歩むにしても必要なこととなっています。このことは、大学での学びが、専門性の深化と同時に、分野横断的な視点や他者と協働して行動するような社会との接点を持つことを求められていることを意味しています。
さらに、科学技術や研究をめぐる環境も大きく変化しています。科学技術は新しい製品やサービスを生み出すだけでなく、経済成長、社会課題の解決、さらには国家間の関係や安全保障にも影響を与える重要な要素として位置づけられています。このため、近年の日本では、基礎研究の重要性を再認識しつつ、社会や産業に直接役立つ研究に焦点が当たる傾向にありますが、大学として、基礎研究の重要性を改めて見つめ直し、評価していくことが必要になっています。また、学生にとっても、研究や学問は「大学の中だけで完結するもの」ではなく、社会との関係性の中で意味を持つものとして捉え直されつつあります。卒業研究や修士論文、博士論文に取り組む経験が、単なる課題提出ではなく、研究における問いそのものを見つめ直し、自分の視点を確立して取り組むべきものと言えます。そしてこの問い続ける力こそが、研究の社会における具体的な価値よりも重要だと言えます。
立命館大学は、こうした問いに対して安易な答えを用意し、それを学生に伝えるという姿勢ではありません。大学の役割そのものが問われている今だからこそ、学生一人ひとりとこれらの問いを共有し、共に考え、実践を通じて向き合い続ける立場にあると考えています。
変化の激しい社会の中で「真に活躍する人材」とは何か、そのために大学は何を提供し、何を支え、どこまでを学生自身の問いとして委ねるべきなのか。こうした問いには、あらかじめ用意された正解はありません。本学は、学部生・大学院生を単なる支援の対象としてではなく、大学の学びの意味を共に問い直す当事者として位置づけ、社会とも接続しながら、そのあり方を試行錯誤し続けていきます。
このような社会・高等教育環境の変化の中で、私学としての立命館大学は、何を守り、何を変え、どのような大学の役割を果たしていくのかが問われています。AIの急速な進展、人口動態の変化、国際社会の不安定化、価値観や社会構造の揺らぎは、大学に対して、従来の延長線上で制度や施策を改善するだけではなく、教学・研究のあり方そのものを問い直すことを求めています。
立命館大学がこれからどのような学びと研究の場であるべきか、学生一人ひとりがこれからの社会で学び続け、挑戦し、新たな価値を生み出していくことを、大学としてどのように支えていくのか。その答えは、あらかじめ一つに定まるものではありません。だからこそ、この問いを学生のみなさんと共有し、それぞれの実感や課題意識を持ち寄りながら、ともに考えていくことが、2026年度全学協議会の出発点となります。
目次Index
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第Ⅰ章
2026年度全学協議会の意義と位置づけ
―これからの立命館大学を考えるために―
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第Ⅱ章学園共創のプロセスとしての全学協議会のあり方
―2022年度以降の議論の積み重ねを踏まえて―
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第Ⅲ章2022年度から2025年度における立命館大学の取り組みについて
―学び・研究・学生生活の充実に向けたR2030前半期の歩み―
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第Ⅳ章R2030後半期に向けた教学・研究・学生生活の重点施策
―学部生・大学院生との対話を踏まえ、「いま」を充実させつつ「これから」の展開を構想する―
- 第Ⅴ章R2030期間の財政運営と立命館大学の2027年度以降の学費・財政政策について
- おわりに2026年10月に開催される公開での全学協議会に向けて
