2.大学院教育・研究環境・キャリア支援の充実
R2030チャレンジ・デザインで掲げる「次世代研究大学」の実現に向けて、大学院教育の充実、研究環境の高度化、大学院生のキャリア形成支援、経済的支援を一体的に進めていくことが重要です。これは、大学院のみを独立して強化するということではなく、学部での学び、大学院での研究、社会での実践を接続し、研究と教育の高度な再結合を通じて、学部生・大学院生一人ひとりの成長と社会への貢献を支える取り組みです。
本節では、学部から大学院への接続、博士人材のキャリアパスの多様化、研究環境の整備、経済的支援と研究活動支援の充実という四つの観点から、大学院政策の方向性を整理します。
これらの取り組みを、個別の支援施策として並列的に捉えるのではなく、大学院での学びと研究をより豊かなものにしていくための相互に関連する条件として捉えられるのではないか、という点も、R2030後半期に向けて学部生・大学院生のみなさんと議論したい論点です。たとえば、研究環境の整備は研究の質を高めることにつながり、経済的支援は研究に専念できる時間と条件を支えます。また、研究コミュニティや交流の場は、自らの研究の意味づけや視野を広げる機会となり、キャリア形成支援は、研究を通じて獲得された力を、アカデミア、企業、行政、地域、国際社会など多様な場面へ接続していく役割を持ちます。
こうした観点から、研究環境、経済的支援、研究コミュニティ、キャリア形成支援が相互に結びつくことによって、次世代研究大学としての研究力と、学部生・大学院生が研究を通じて成長し、その力を社会の多様な場面で発揮していくための基盤をどのように高めていけるのかも、全学協議会に向けた論点の一つとして確認していきたいと考えています。
(1)学部から大学院への接続を強める
大学院進学を検討するうえでは、学部での学びが大学院での研究にどのようにつながるのか、進学によってどのような専門性やキャリアの可能性が広がるのかを、早い段階から具体的に理解できることが重要です。そのため、学部段階から大学院での研究活動に触れる機会や、学部生と大学院生が交流する機会を広げ、大学院進学を具体的に検討できる環境を整えていきます。
学部から大学院への進学をより円滑に接続する仕組みとして、学士課程と大学院教育を一体的に設計する「4+1プログラム」や「3+2プログラム」の導入を検討します。これは、学部4年間と修士課程1年間、または学部3年間と修士課程2年間を組み合わせ、学部での学びを途切れさせることなく大学院での研究へとつなげる仕組みです。研究をさらに深めたい学生や、専門性を高めたい学生にとって、時間・費用の両面でメリットを持つ可能性があります。
また、各研究科の将来構想に応じて、研究科等連携課程を活用した新たな学環、すなわち研究科の枠を越えた学際的な博士後期課程の学位プログラムの設置も構想されています。これにより、従来の研究科単位では扱いにくかった新しい研究領域においても、学位取得や研究活動を展開できる可能性が広がります。
(2)博士人材のキャリアパスを広げる
大学院に進学し、修士号や博士号を取得した後に、どのようなキャリアを描くことができるのかを具体的に示すことは、大学院進学を考える学生にとっても、現在研究に取り組む大学院生にとっても重要です。博士人材の活躍の場は、大学や研究機関に限られず、企業、行政、国際機関、地域社会などへ広がっています。後半期においては、こうした多様な進路を学部生・大学院生が具体的に理解し、自らの研究や専門性を社会の中でどう活かすかを考えられる支援が求められます。
本学の大学院キャリアパス推進室では、大学院修了者のキャリアパス多様化に向けた取り組みを進めています。国内外を代表する企業や、産業技術総合研究所などの国の研究機関への個別訪問・交流を重ね、産業界・社会が求める人材像の把握に努めてきました。なかでも、かんぽ生命保険との「企業寄付型博士インターンシップ」は先進的な事例であり、本学の提言により、同社では博士課程修了者のための給与体系も新たに整備されました。
行政との連携では、2025年度に経済産業省近畿経済産業局の協力のもと、京阪神の企業を招いた座談会を開催し、博士人材の活躍を後押しする機運が高まっています。また、京都を代表する企業と大学で構成する「京都クオリアフォーラム(KQF)」では、博士学生と企業の人事担当者や研究開発担当者が交流する「博士キャリアメッセ」が年2回開催され、2025年度には本学の博士学生が「堀場賞」を受賞するなど、具体的な成果も生まれています。
さらに、博士号を持つ企業研究者と博士学生が合宿形式で議論を交わす「KQFドクタートレーニングキャンプ」なども、企業の研修センターで実施されています。こうした企業・行政・研究機関との接点を拡大し、大学院入学時点からキャリアを意識できる個別面談の制度化や、企業との交流機会の拡充を進めることで、博士人材の多様な進路形成を支えていきます。
(3)大学院生が研究に集中できる環境を整える
大学院で質の高い研究を行うためには、研究時間、研究費、研究スペース、指導体制、研究者同士の交流機会など、複数の条件が整っていることが不可欠です。とりわけ、学際的な視点や社会課題との接続が求められる現在においては、大学院生が所属研究科の枠を越えて、多様な研究者や院生と出会い、議論できる環境が重要になります。
研究コミュニティや交流の場は、単に人と人が出会う機会にとどまりません。異なる研究分野や研究方法に触れ、自らの研究の位置づけを相対化し、研究成果をどのように発信し、社会や他分野と接続し得るのかを考える機会でもあります。大学院生が所属研究科の枠を越えて多様な研究者や院生と議論することは、研究の質を高めるとともに、研究を通じて獲得される力をより広い文脈で意味づけることにつながります。
本学では、大学院生が学内の研究所・研究センターのプロジェクトに積極的に参画できる機会を拡充しており、2023年度には約260名の博士課程院生がさまざまな研究プロジェクトに携わりました。共同研究室や研究拠点は、異なる研究科・専攻の大学院生が集まり、分野を越えた知見や国際的なネットワークが育まれる場でもあります。
後半期においては、こうした研究環境をさらに実質化するため、RA(リサーチアシスタント)の雇用拡大や博士助手制度の検討などを、施設整備とあわせて進めていきます。大学院生が研究に集中し、専門性を深めるとともに、異分野の知や社会との接点を通じて研究の可能性を広げられる環境づくりが重要です。
(4)経済的支援と研究活動支援を充実させる
大学院での研究生活には、長期にわたる集中と継続的な努力が必要です。そのため、経済的な不安を軽減し、研究に必要な費用や発表機会を支える仕組みは、大学院生が研究を深めるうえで重要な基盤となります。
本学では、文部科学省の補助事業「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」に基づく本学独自の「立命館先進研究アカデミー学生フェローシッププログラム(RARA×SPRING)」を通じて、博士後期課程院生を対象に月額18万5千円の研究奨励費、生活費相当額に加え、年間34万円の研究費を支援しています。
また、次世代AI分野の研究に取り組む博士後期課程院生向けには、「立命館先進研究アカデミー学生フェローシップ/次世代AI分野プログラム(RARA×BOOST)」として、月額20万円の研究奨励費、年間150万円の研究費を支援しており、2025年度には125名の博士後期課程院生が、両プログラムによる支援を活用しました。その他、企業との産学連携による資金や民間財団からの資金による支援も導入し、今後はこうした外部資金を活用した経済支援の充実により、大学院生が研究に集中できる環境を広げていきます。
さらに、「博士課程院生研究支援奨学金」は、優れた研究計画を持つ博士後期課程院生の経済的負担を軽減し、博士論文の早期完成を後押しする制度です。学会発表支援としては、博士課程・修士課程の院生を対象に国内外の学会発表奨励制度が設けられており、研究成果の積極的な発信を経済面から支えています。外国語論文の投稿支援や研究会活動支援制度もあわせて活用することで、国際的な研究活動をより充実させることができます。
これらの支援制度については、大学院キャリアパス推進室のウェブサイト等を通じて年間計画とともに一覧化し、大学院生が必要な時期に必要な支援へアクセスしやすい情報提供を進めます。
このように、大学院教育・研究環境・キャリア支援の充実は、研究環境、経済的支援、研究コミュニティ、キャリア形成支援を相互に結びつけながら進めることが重要です。これらの連関を強めることで、大学院生数の拡大を単なる量的拡大にとどめず、次世代研究大学としての研究力と、学部生・大学院生が研究を通じて成長し、その力を社会の多様な場面で発揮していくための基盤を高めていきます。
大学院教育・研究環境・キャリア支援の充実は、大学院生だけでなく、学部生が将来の学びや研究を具体的に展望するうえでも重要です。次節では、学部生・大学院生を含む学生生活全体に視野を広げ、入学初期からの経験、課外自主活動、国際的な学び、安心して挑戦できる基盤について整理します。
目次Index
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第Ⅰ章
2026年度全学協議会の意義と位置づけ
―これからの立命館大学を考えるために―
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第Ⅱ章学園共創のプロセスとしての全学協議会のあり方
―2022年度以降の議論の積み重ねを踏まえて―
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第Ⅲ章2022年度から2025年度における立命館大学の取り組みについて
―学び・研究・学生生活の充実に向けたR2030前半期の歩み―
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第Ⅳ章R2030後半期に向けた教学・研究・学生生活の重点施策
―学部生・大学院生との対話を踏まえ、「いま」を充実させつつ「これから」の展開を構想する―
- 第Ⅴ章R2030期間の財政運営と立命館大学の2027年度以降の学費・財政政策について
- おわりに2026年10月に開催される公開での全学協議会に向けて

