1601(慶長6)年、徳川家康によって築城された水城「膳所(ぜぜ)城」。本丸が湖中に突き出し、内堀と外堀の間に役所や侍屋敷が並んでいたという。本多6万石代々の居城として長く偉容を誇り、日本三大湖城にも選出されている。
 しかし、1870(明治3)年に廃城となり、現在では城門などの遺構は市内の神社他十数カ所に移築され、膳所城址公園内に遺構が残るのみとなる。
 その膳所城の雄姿を最先端のデジタル技術により復元する「膳所城モデリングVR プロジェクト」が、理工学研究科・理工学部の学生たちを中心に進んでいる。

膳所城をデジタル技術でよみがえらせたい!

 今回のプロジェクトのきっかけは、2016年、理工学部の山本奈美 非常勤講師が代表を務める「株式会社CAD ASSIST」の関係者の言葉がきっかけだった。

山本:一緒に仕事をしている協力会社の代表の方から、膳所城を復元してみたいという相談がありました。滋賀県内だと、彦根城や長浜城が有名で、近年では安土城跡の考古学的な発見も話題となっている一方、膳所城の知名度はあまりないというのが現状です。
しかし、日本三大湖城の一つであり、水城跡の坂本城や大津城よりも資料が比較的残っていると考えられた膳所城であれば、復元できるのではという想いで、プロジェクトが動き出しました。

 しかし、プロジェクトは早々に壁にぶつかってしまう。現存する櫓は当時から改築されており、その図面は再現史料としては役に立たなかったのだ。それに加え、図面を実際にデータ化するには、膨大かつ緻密な作業が必要とされるため、当初は頓挫してしまった。
 そうした中、2020年、立命館大学との産学連携事業の話が進み、学生たちが参画するかたちで、膳所城モデリングプロジェクトが再始動した。

古文書や古地図、図面との格闘の日々がスタート

 プロジェクトがスタートした当初、膳所城に関する図面や史資料は想定以上に散逸しており、その姿がどのようなものだったのかも、分からない状況であった。そのため、遺構自体の調査だけでなく、古文書や古地図の収集、築城の背景や当時の築城事情、関係者へのヒアリングなど、様々な角度から膳所城の復元にアプローチしている。
 現在では、約10名の院生・学部生が関わっており、モデリング、CG、広報のチームに分かれ、作業を行っている。そんなチームのマネジメントを行っているのが、松原実咲さん(理工学研究科前期1回生)だ。

松原:学部生のとき、山本先生の授業を受けて以来、CADの面白さに目覚め、独学で色々と勉強していました。そんな中、山本先生から本プロジェクトに誘っていただき、今年度から参加しています。マネジメントということで、全体の進捗状況を見ながら、新規案件があった場合、誰をどこに配置し、いつまでに完成させるかを山本先生らと相談しながら調整しています。実際にCADを使った具体的な作業はしませんが、チームの動きやタスクの進捗状況などを俯瞰し、円滑にプロジェクトが進むように心がけています。

 また、参加している院生・学生たちの多くは、建築を専門にしているわけではないという。しかも、城という特殊な建築物ゆえに、建築の専門家や宮大工の方たちから建築の知識を教えてもらいながら、図面の読み方、建築の知識を勉強し、地道に復元作業を積み重ねている。

細部の復元はVRで!?

 城の図面や古文書を読み解き、それをモデリングする上で、宮大工の方たちの協力は必須だ。また、図面をはじめとした資料群が散逸している状況下では、類似する城を参考にしながら、多角的にアプローチする必要がある。

 そして、復元のモデリング、CG制作において、VRが大いに活用されているという。

山本:今回のモデリングやCGは徹底的に細部にこだわってやっています。そのため、細かい箇所については、学生たちと宮大工の方たちがVRゴーグルを装着し、実際にモデリングをした3D環境で確かめ、VR環境にアバターとして入り、細部のつくりこみについて質問や助言をうけながら微調整を行いました。PCの画面でやるよりも、多くの人が細部の構造を共有・可視化しつつ作業できるのが魅力ですね。

膳所城プロジェクトをきっかけに、地域産業の発展に

 現在、モデリング・CGは完成に向け、佳境に入っている。2023年度までに、モデリング・CGを完成させた後は、これを使ったVRイベントや地域交流イベントでの活用を検討している。今後のプロジェクトにかける意気込みを聞いた。

松原:大学院では、街づくりやソフトコミュニティ形成など、地域の人がどのようにつながるかという研究をしています。そうした意味で、今回の膳所城プロジェクトでできたものを使って、地域イベントなどを開催したいと思っています。院生・学生の力を総動員して、地域コミュニティの活性化に取り組んでいければと思っています。

山本:膳所城プロジェクトで復元された膳所城のVRを観光資源として活用していければと思っています。例えば、ゲーム性を持たせたコンテンツを生み出し、老若男女問わず楽しめるコンテンツを出していければ、膳所城への興味、さらに滋賀県の魅力を再発見してもらえるのではと期待しています。また、ご年配の方も楽しめるよう、地域イベントでも使っていければと思っています。

 現在、プロジェクトでは、VR制作の前段階であるアニメーション制作を進めることを目的に、クラウドファンディングを実施している。アニメーション動画は大津市科学館で上映を予定しているそうだ。
 約150年の時を経て、デジタル空間でよみがえろうとしている膳所城。そこに訪れる人たちは、威容を誇った当時の様子だけでなく、新たな作り手たちの思いを感じることだろう。

クラウドファンディングの詳細はこちら
https://camp-fire.jp/projects/view/716148?list=search_result_projects_popular

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