‘最高の一足’で共に戦う

2019.07.11 TOPICS

‘最高の一足’で共に戦う 株式会社アシックス 田﨑 公也さん(1993年経済学部卒)

 株式会社アシックスで、選手の足形計測やヒアリングを行い、「唯一のシューズ」を作り出すのはアスリート・カスタムチーム カスタムメイドスペシャリストの田﨑公也さんだ。「計測から納品まで約3週間。足形はちょっとした体重の増減でもすぐ変わる可能性があります。最新の情報で設計したシューズをいち早く届け、選手のパフォーマンスに寄与したい」と話す。

 田﨑さんは主に陸上選手のシューズを担当。入社以来、プロモーション部(現在のスポーツマーケティング部)や東北エリア営業販促担当などを経験し、2000 年から現在のカスタム生産部に移った。オリンピック選手のシューズカスタムに関わるようになったのは、2008 年北京オリンピックの女子100m日本代表の福島千里選手(現・セイコー所属)からとのこと。同社では、北京オリンピックまで市販品をベースにカスタマイズしていたが、2012 年のロンドンオリンピックへの取り組みを機に、シューズを一からカスタマイズしていく方法に変更した。
 「実は、2016 年のリオデジャネイロオリンピックで桐生祥秀選手(現・日本生命所属)のシューズを作ったのですが、なかなか桐生選手の足に合わなかったという苦い経験があります。本番はそれまで使っていた足になじんだシューズで走ったわけですが、日本代表の選手に気持ちよく走ってもらえるシューズを提供できなかった僕たちの責任は大きい」と振り返る。何度も試作をして完成させたのに、なぜ、足に合わなかったのか――。生産に携わるスタッフと検証を重ね、半年という期間を費やし、原因の特定と改善を行った。この失敗があったからこそ2017年の「100m 9秒98」という偉業を支えたシューズの誕生につながったのだ。

 田﨑さんは中学時代からアシックスの製品カタログを愛読していたくらいのシューズマニア。また、高校・大学と陸上部でやり投の選手だった。「究極のやり投用シューズを作りたい」。入社当時と同じ熱量で今もシューズ作りに携わる。「選手それぞれ身体の感覚や求めていることが異なるので、選手の言葉をかみ砕き、理解し、形にすることがこの仕事の醍醐味であり、永遠のテーマだと思います」。お互い納得できるシューズを作るため、選手と作り手がとことん話し合い、一つのものを生み出すというスタンスを貫く。「これまでの知見や経験で選手が求めていることの先が読めることがありますが、結果、それが正しかったとしても、本当の意味で選手の想いに沿ったシューズではない。経験を重ねても新人の頃と変わらず、真っすぐな気持ちで選手の声に耳を傾けたい」と表情を引き締める。

 田﨑さんが所属するカスタム生産部では、計測から素材の裁断、縫製、接着、成型など一連の作業が一流のスタッフによって分業制で行われている。材料、生地、裁断方法などを仕様書に落とし込み、製作スタッフに伝えられるが、時には自らサンプルを作ることもあるという。「シューズは一足一足手作業で作られます。1mmでもずれがあると選手の身体に違和感が生じてしまう。繊細な作業で、思い通りのシューズを作ることは難しい。口頭だけでなく自分が持っている技術を形にして残していくようにしています」。モノづくりには、機械化の前に確固とした手技・技術を伝承する必要があると田﨑さんは言う。「テクノロジーが進歩していく中で、モノづくりを伝承する方法も変わってきています。僕らは『先輩の背中を見て学べ』と言われて育ってきましたが、今の人には、それだけでは通用しないこともあります。僕らの世代はこれまでやってきたことを言語化、ビジュアル化して次世代に伝えていく役割を担っているのだと感じています」。
 同社は東京2020オリンピック・パラリンピックゴールドパートナー。2020 年に向け、新しい企画やモノづくりが始まっている。「選手は競技と、そして自分と全力で向き合っている。だからこそ、僕たちも全力で選手と向き合う。選手が求めている理想のカタチで足元を支え、一緒に戦っていきたい」。もうすでに、戦いは始まっている。

出典元:校友会報「りつめい」No.276(2019年4月号)
写真撮影:舟田佳代

PROFILE

田﨑公也さん
1993年経済学部卒業
株式会社アシックス フットウエア生産統括部 カスタム生産部 アスリート・カスタムチーム カスタムメイドスペシャリスト

鳥取県出身。父も立命館大学法学部卒の校友。1993 年に株式会社アシックス入社後、他部署を経て、2000 年から現部署にて勤務。「オール立命館校友大会2018 in 仙台」では、杜の都全日本大学女子駅伝の応援企画として、過去にシューズ制作を手掛けた女子陸上競技部OGの小島一恵さん(2010経営卒)とトークセッションを行った。座右の銘は「一期一会」。

関連情報

NEXT

2019.07.10 TOPICS

ヨット部新艇庫竣工式を開催

ページトップへ