2019.09.05 NEWS

ビオローゲン結合型光合成色素と白金微粒子とによる新規の可視光駆動型水素製造に成功

太陽光による水素製造により、人工光合成の可能性が広がる

 生命科学部の民秋均教授と大阪市立大学人工光合成研究センターの天尾豊教授らのグループは、「太陽光エネルギーにより水を分解し水素を製造する人工光合成技術」を達成するための技術として、ビオローゲン結合型光合成色素を分子設計・合成し、これと白金微粒子とを複合化させ、可視光駆動型水素製造に成功しました。本研究成果は、2019年8月20日にRoyal Society of Chemistryが発刊する『Photochemical & Photobiological Sciences』に掲載されました。

 今回の研究では、電子受容体であるビオローゲンを共有結合させてクロロフィル誘導体につないだ革新的光増感剤と白金微粒子とを複合化することによって、新たな光水素製造技術につながる知見が得られました。

 太陽光エネルギーを利用し、二酸化炭素をメタノールへ効率的に変換する人工光合成技術を確立するためには、既存の色素分子や触媒の単なる組み合わせではなく、革新的光増感剤の設計開発が必要となります。今回の成果を基盤として、水素製造のみならず二酸化炭素還元への応用も進めていくことで、脱化石燃料や脱核燃料につながることが期待されます。

研究概要

 光合成生物には、エネルギー密度が低く断続的に照射される太陽からの光を効率的に受容し、そのエネルギーを高効率かつ超高速で伝達するために、色素分子が多数位置された「アンテナ」と呼ばれる器官が存在しています。光合成アンテナ部で光を吸収する色素分子には、マグネシウム(Ⅱ)を中心金属とするクロロフィルがあります。植物の光合成の光捕集を担うクロロフィルは天然で年間約10億トンも合成されている色素であり、可視光領域に2つの大きな吸収帯を持っています。従って、クロロフィルは可視光を効率よく吸収し増感できる優れた色素分子です。太陽光エネルギーを用いた水素製造では紫外光を利用した無機触媒によるものが多いですが、可視光を利用することが望ましいことからクロロフィルと水素製造用無機触媒との複合により効率的な水素製造技術確立が期待できます。

 今回の研究では、クロロフィル誘導体(Pyro-a)に、電子受容体であるビオローゲンを共有結合によって繋ぐことで光増感機能向上をはかるとともに、水素製造用触媒機能を持つ白金微粒子との複合化により可視光駆動型水素製造反応に応用しました。今回合成した各種ビオローゲン結合型クロロフィル誘導体の構造(1〜3)を図1に示します。

図1
図1
図2
図2

 図2にはビオローゲン結合型クロロフィル誘導体(1〜3)とビオローゲンの結合していないクロロフィル誘導体(Methyl Pyro-a)の紫外・可視吸収スペクトルを示しています。可視光領域400〜700 nmに強い吸収帯を持つことがわかります。

 化合物1〜3、メチルビオローゲンと白金微粒子を含む水溶液に可視光照射すると水素製造が見られました(図3)。ビオローゲンの結合していないクロロフィル誘導体(Methyl Pyro-a)を用いた場合と比較して、ビオローゲン結合型クロロフィル誘導体を用いると水素製造反応効率が向上していることがわかります。

 
  
   図3    
図3
  
 

 特に化合物3を用いることで他の化合物と比較して効率的に水素製造反応が進行していることがわかりました。また、化合物1と2では可視光照射することによってビオローゲン部位がクロロフィルから脱離するのに対して、化合物3は可視光照射してもビオローゲン部位の脱離が起こらず、安定的に可視光を吸収・増感するため、水素製造反応効率が向上したものと考えられます。
 以上のように、電子受容体であるビオローゲンを共有結合させてクロロフィル誘導体につないだ革新的光増感剤と白金微粒子とを複合化することによって、新たな光水素製造技術につながる知見が得られました。

【発表雑誌】Photochemical & Photobiological Sciences (Royal Society of Chemistry)
【論文名】Visible-light driven hydrogen production using chlorophyll derivatives conjugated a viologen moiety in the presence of platinum nanoparticles
【著者】Shusaku Ikeyama, Shota Hizume, Tatsuya Takahashi, Shin Ogasawara, Yutaka Amao, Hitoshi Tamiaki
【掲載URL】http://dx.doi.org/10.1039/C9PP00176J

関連情報

NEXT

2019.09.04 TOPICS

株式会社アシックスとの低酸素環境下トレーニングに関わる共同研究を実施

ページトップへ