立命館大学総合科学技術研究機構の竹垣淳也プロジェクト研究員、薬学部の藤田卓也教授、理工学部の小西聡教授、スポーツ健康科学部の藤田聡教授らの研究グループは、間葉系幹細胞(MSC)を筋肉へ注入することで、筋肉のタンパク質の代謝回転が亢進することを発見しました。本研究成果は、2021年10月27日、「Scientific Reports」に原著論文として掲載されました。

本件のポイント
〇 本研究グループは、筋機能の向上を目指したMSCの応用に2019年から取り組んでいる。
〇 MSCは筋肉の幹細胞である筋サテライト細胞へと分化でき、また成長因子を分泌する機能を有していることから、筋肥大を引き起こすポテンシャルを有した細胞である。
〇 MSCを筋肉へ注入することで、筋肉のタンパク質の代謝回転が亢進することを発見した。
〇 将来的に、フレイルやサルコペニアなどの老年症候群の予防・改善に繋がることが期待される。

研究の背景

 本研究は、立命館大学が組織を横断して文理融合で研究高度化を進める「立命館大学グローバル・イノベーション研究機構(以下R-GIRO)」の取り組みです。第4期R-GIRO研究プログラム「センサ・マイクロマシンがつなぐ革新的サイバーフィジカルシステムモデルの医療健康分野への展開」では、プロジェクトの一環として、筋機能の向上を目指したMSCの応用に取り組んでいます。
 MSCは筋肉の幹細胞である筋サテライト細胞へと分化でき、また成長因子を分泌する機能を有していることから、筋肥大を引き起こすポテンシャルを有した細胞です。そこで、本研究では、実際にMSCを筋肉へ直接注入した際の筋タンパク質合成と分解の適応を検証しました。

研究内容

 まず初めに、マウスの筋肉に対して、マーカー(緑色蛍光タンパク質)を付けたMSCを注入し、筋肉内に残存している期間を調査しました。その結果、注入から1週間が経つまでは、マーカーの存在が確認されましたが、2週間を過ぎると確認されませんでした。このことから、筋肉へ注入したMSCは、1週間程度は残存することが明らかとなりました。さらに、MSCが残存している筋肉では、どのような変化が生じているのかを、筋タンパク質代謝の観点から検討しました。その結果、筋タンパク質合成の活性化と、筋タンパク質分解系の活性化が生じていることを確認しました。また、筋肉内で、筋タンパク質の合成を賦活する成長因子であるIGF-1の転写が促進し、筋線維への分化を促す因子が増加したことから、注入したMSCが筋肉に直接作用していたことが示唆されます。

今後の展開と社会へのインパクト

 超高齢社会に至った日本では、医療・介護負担の観点から、フレイルやサルコペニアといった老年症候群が大きな社会問題となっています。幹細胞治療は再生医療としてさまざまな応用が試みられていますが、このような老年症候群への応用は未だ行われておりません。本研究成果は、このような課題に対する、今後のMSCの応用の基礎を築く知見であり、疾患に応じた分化の誘導や培養環境の調整により、それぞれ適した改善・治療効果が得られる可能性が期待されます。

論文情報

  • 題目: Intramuscular injection of mesenchymal stem cells activates anabolic and catabolic systems in mouse skeletal muscle
  • 著者: Junya Takegaki1, Kohei Sase2, Yusuke Kono3, Daiki Nakano4, Takuya Fujita5,
    Satoshi Konishi6, Satoshi Fujita2
  • 所属: 1立命館大学 総合科学技術研究機構,2立命館大学大学院 スポーツ健康科学研究科,3神戸薬科大学,4立命館大学 立命館グローバル・イノベーション研究機構,5立命館大学大学院 薬学研究科,6立命館大学大学院 理工学研究科
  • 雑誌: Scientific Reports
  • DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-021-00627-6
  • URL: https://www.nature.com/articles/s41598-021-00627-6#citeas

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