立命館大学の日常風景を伝える「大学風景」。今回は、経済学部 関麻衣准教授のゼミナール(以下ゼミ)に伺いました。

関麻衣准教授

ーー早速ですが、関先生のご専門について教えてください。

(関先生)専門は実証ミクロ計量経済学です。経済学では、データから原因と結果の関係を統計的に推定して明らかにする「因果推論」による研究が進んでいます。この「因果推論」を活用して、政策や企画の効果を定量的に明らかにすることを狭義のエビデンスと称します。ゼミでも、エビデンスに基づく政策や企画立案、EBPM(Evidence Based Policy Making)の重要性と限界を教えています。さまざまな社会課題に取り組む行政やNGOでは、民間企業に比べて人員や予算に限りがあることも少なくない。だからこそ、EBPMを活用して、より効果の高い施策を実行することに意味があると思っています。

ーーそもそも関先生が「経済学」に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

(関先生)小学生の時から社会課題や政策に対する問題意識がありました。でも、当時の自分にはそれらを分析する手法がなかったんです。大学進学後、どの学問分野で社会課題にアプローチしようかと考えていたところ、ある授業で経済学に出会いました。問題を単純化して本質を見極め、理論モデルに落とし込み、仮説を立ててデータで検証する。そんな経済学の手法が自分に合っていると思い、この道に進みました。


ーー関ゼミの取り組みや特徴について教えてください。

(関先生)ゼミではチームに分かれ、食品ロスや監査法人のシグナリング効果、京都のオーバーツーリズムや教育格差などさまざまな課題ついて研究しています。でも、必ずしも高度なデータ分析や完成度の高い研究を求めているわけではありません。学生が主体的に見出した課題に対してデータ分析し、意見の違いがあってもそれを乗り越えてチームとして一つの形にまとめてプレゼンテーションや質疑応答ができるようにする。うまくいかないことがあっても、何が問題だったのかを自分たちで検証する。失敗も含め、ゼミでの経験が、研究にあたっての基本的な素養や社会人に必要なスキルの習得につながると思っています。

また、他大学のゼミと合同の発表会なども実施しています。他大学の先生、学生からの意見や質問が学生たちにとって刺激になると考えています。発表会の準備や運営については、学生たちが主体となっています。私は学生たちが自分たちで企画を考え、実行する最初の一歩がとても大事だと思っています。一部の学生たちが他ゼミの学生と共同で始めた自主ゼミやマシンエコノミクスという団体も、学びを深めたいという学生たちの思いがきっかけでした。学生には、ゼミを通じて自分で考え行動する経験を積み重ねてほしいと思っています。

ーー関先生のゼミ生に対する思いを詳しく教えてください。

(関先生)経済学部のゼミでの学びは幅広い分野に応用できると思います。課題をクリティカルシンキングで捉え、最新技術を応用して分析する。この経験があれば、技術進歩に的確にキャッチアップし、新たな社会課題が生起してきたとしても、乗り越えることができると思います。 また、どのような道に進んでもゼミでのグループワークの経験は生きてくると思います。考えが合わない人とも同じゴールを見据えながら、チームとして全員の力を最大化する。そういったスキルをゼミのグループワークで身につけてほしい。完成度の高い研究成果を生み出すことよりも、それを目指す過程で困難に直面したり、失敗したり、克服したりという経験こそがとても大事だと思います。実社会に出る前に、ゼミという安全な場でさまざまなことを学び、経験し、根拠ある自信を培って成長してほしいと思います。

ーー最後に経済学を学ぼうとする人たちへメッセージをお願いします。

(関先生)自分や自分の周りのことだけでなく、広い視野を持ち、社会に関する疑問を持ってほしいと思います。慣れた環境だけに閉じこもっていると、内在する社会課題に気づきにくい。でも、実際にはどのような国やコミュニティ、組織にもさまざまな課題が存在しています。社会がどのように動いているか、人々がどういうことに苦しんでいるか、そういったことにきちんと目を向けてほしいと思います。



データ分析を主体的に学ぶ関ゼミの学生たち。そんな関ゼミに所属する大谷和暖さん・宍戸勇斗さん・三角一誠さんにも話を伺いました。

ーーどうして関ゼミを選択されたのでしょうか。

(三角さん)経済学部ではゼミを選択する際、各ゼミの特徴がまとめられた冊子が配られています。私はマーケティングにも興味があったため、データを分析して売り上げなどへの影響を調査するスキルが身につけられると思い、関ゼミを選択しました。

(宍戸さん)1回生の頃からAI・機械学習に興味があり、独学していました。ただ、統計学の知識が不足していたため、挫折してしまったんです。そこで、統計学を学ぶことができる関ゼミを選択しました。

(大谷さん)ゼミの紹介冊子に統計分析ツールを用いると記載があり、全く自分の知らない新しい知識が得られると思い、関ゼミを選びました。





ーーみなさんから見て関ゼミはどんなゼミでしょうか。

(大谷さん)関ゼミの学生は、それぞれが自分の意見を持ち、向上心が高い人が多いと思います。また、関先生との距離が近く、いつも的確にアドバイスをもらっています。

(宍戸さん)関ゼミは研究に真摯に向き合うゼミだと思います。研究発表の際には、必ず研究テーマの社会的意義や新規性などについて細かく問われます。研究はグループで進めますが、各人が関先生から助言やフィードバックを受け、常に主体的にステップアップしていくことを求められます。研究活動を通じて一人ひとりが改善のサイクルを回し、結果的にグループとしても成長していきます。

また関ゼミではデータ分析に関する考え方や手法を学ぶことができ、それがきっかけとなって、関連するプログラミングや機械学習といった領域にも興味を持つ学生が出てきました。関先生にアドバイスをもらいながら、自主ゼミで新たな領域のテーマについて研究したり、経済学AI研究会「マシンエコノミクス」 という団体を立ち上げ、他のゼミの学生たちとも一緒に研究したりしています。興味があることをとことん研究できる、それが関ゼミだと思います。

(三角さん)興味が近い学生同士でグループを作り、グループワークによる学術的な話し合いを通じて、それぞれが面白いと思う研究要素を見出し、新たな知見を得てさらに深堀する。そういった研究スタイルが定着していると思います。また関ゼミでは、他大学などとの合同ゼミも行っています。関ゼミはデータ分析による研究を行いますが、他大学のゼミでは行動経済学であったり、海外のフィールドワークを基にした社会課題解決を研究していたりと視点が大きく異なります。合同ゼミで研究分野が異なる先生や学生と学術交流することで、より多くの示唆を得ることができたと感じています。さらに合同ゼミでは、スケジュールやプログラムの調整、タスク管理など開催にあたってのやり取りを学生間で行います。データ分析などの専門知識だけでなく、グループワークやタスク管理などのスキルを身につけることができるのも関ゼミの特徴だと思います。





ーー関ゼミを通じて成長したことや身につけられたことは何でしょうか。

(大谷さん)関ゼミに入る前は、社会課題を認識していても、その解決の手段としてデータ分析の手法を用いることは思い浮かびませんでした。課題解決に向けたアクションにつながる要因を分析し、データを用いて解決方法にアプローチできるようになったのは関ゼミのおかげです。関ゼミで学んだデータ分析の手法やクリティカルシンキングといったスキルは、社会に出てもそのまま生きると思います。

(宍戸さん)因果推論を学んだことで、問題とされることに対して批判的に見ることができるようになったと思います。問題の根拠として示されたデータをうのみにせず、それは統計的に有意か、因果関係が逆ではないか、サンプル数は十分か、といった批判的思考をもって見ることができるようになりました。さまざまな社会課題や問題の重大さに敏感になりつつも、ミスリードに惑わされないスキルが身についたと思います。

(三角さん)私たちは時代の転換点を迎えていると思います。さまざまな技術革新などが生まれているなかで、過去に有効とされていたことがこれからも有効かどうかは分からない。これまでの取り組みを分析し、なぜ効果があったのか、これからも有効に機能するのか、などを正しく評価することで、未来に通用する解決策を見出すことができると考えています。これからの時代を生きていくためのスキルを関ゼミで身につけられたと思います。

NEXT

2023.08.30 NEWS

SLIMの打ち上げに向けたイベントを開催しました

ページトップへ