水野由香里教授

2022.06.08 TOPICS

アカデミクス出身教員の強みを生かし「学術」と「現象」をつなぐ授業を目指す-水野由香里教授 ②

 水野由香里教授は、ハーバード・ビジネススクール流の「ケースメソッド」を活用したり、中小企業経営者をゲストスピーカーとして招いたり、意欲的な手法で授業を活性化させています。学術畑出身の教員として「学術的裏付けのない単なる企業事例分析の授業はやらない」と語る水野教授ですが、どういった授業を目指しているのでしょうか?

「モノづくり中小企業のイノベーション」を中心に研究

 私の専門分野は技術経営、競争戦略です。その中でも「モノづくりに携わる中小企業のイノベーション」を中心に研究を行い、その成果をまとめた研究書を、これまでに3冊出版しています。教科書も出版していて、今、4冊目の教科書を書いています。
 一方、研究のスタイルとして、「教育と研究を連続させる」ことを特色にしています。どういった手法かというと、——まず企業・組織を選定して調査を実施し、その企業・組織の活動を「ケース教材」にまとめ、このケース教材を使って実際の授業で院生たちにディスカッションしてもらいます。その中で、どういった学術的フレームワークを切り口にして分析すれば最も理論に適合するのか、学術的貢献となるのかの切り口を考察し、研究実績として蓄積していく——というものです。この手法はハーバード大学ビジネススクールの若手教員も取り組んでいると聞いています。
 教育手法としては、「ケースメソッド」と呼ばれているものです。ケースメソッドは、実際に起こったことを自分でシミュレーションして意思決定をする、それを繰り返し行う、——この反復による訓練によって高い教育的効果を得られるため、私の授業でもケースメソッドを活用しています。また、ケースメソッドについてまとめたものが私の4冊目の教科書で、もう少ししたら出版される予定となっています。

2022年度は中小企業経営者のゲストスピーカー招聘に力を入れている

 次に、私が担当している科目の授業内容について、簡単に紹介します。
 基礎科目の中の「技術経営」では、技術のイノベーションをマネジメントするという観点から、企業の戦略や組織のあり方、「人」というそれぞれの要素について、分析・考察を行っています。私の1冊目の教科書である『ベーシック+(プラス) イノベーション・マネジメント』(中央経済社、2021年、共著)をテキストとし、学んでいきます。テキストで学んだ後に、「イノベーション・マネジメント」にふさわしい、実際に新しい取り組みに挑んだ企業のトップをゲストスピーカーに招いて講演をしてもらい、その後、対談をすることで講演の内容を深堀りしていきます。技術経営は、MOT(Management of Technology)のように技術を中心にして事象を捉えていくのではなく、「技術を、いかに収益化していくのか」を追求していく、学際的な学問領域です。
 2022年度は、この授業のゲストスピーカーとして、岡山県に本社がある農業機械メーカーの社長をお招きする予定です。この会社は、耕うん爪(耕うん機の歯の部分)で国内トップのシェアを持っているのですが、農業の市場規模自体がシュリンクしていく中、自社のモノづくり技術を生かし、ベンチャー企業などと組んで新製品の開発、新規市場の開拓に取り組んでいる企業です。
 こうした意欲的な企業のトップのナマの話は、院生たちにとって、中小企業がいかにイノベーションを起こそうとしているのか、そして、企業経営者としての覚悟を学ぶ本当に貴重な機会、教材となるでしょう。私が担当する2022年度の授業では、ゲストスピーカーの招聘に力を入れる考えです。特にビジネスパーソンを対象とするマネジメントプログラムの授業では1回はゲストスピーカーをお呼びしようと思っていて、他の科目でも次のような方々に来ていただく予定です。
 同じく基礎科目の中の「競争戦略」のゲストスピーカーとして、京都府の切削加工会社の副社長を招聘する予定です。その副社長は、両親から承継した社員5、6人の零細鉄工所を、加工作業をデータ化・自動化するシステムを構築することで驚異の、利益率20%を実現する“IT鉄工所”に変えていった立役者です。
 マネジメントプログラムの「国際経営戦略」の授業では、京都市の鶏卵をパッキングする装置メーカーの会長をゲストスピーカーとして招聘する予定です。この会社は、鶏卵を自動で洗浄、選別、包装、非破壊検査する業界初の技術を次々と開発し、国内シェアはトップ、世界シェアも第2位の企業で、世界市場をどのように開拓してきたのかについての話をお聞きしようと思っています。特に、海外に打って出る際、さまざまなリスクやトラップが付きまといます。それらをどのように乗り越えてきたのか、そして、まったく見ず知らずの海外の相手との取引をどのように成立させ、信頼関係を構築してきたのかなど、本音ベースで話をしていただきます。院生の皆さんには今後の事業の海外展開の要諦を学んでほしいと思っています。
 このように、ゲストスピーカーとしてお呼びするのは、それぞれニッチな分野で独自の取り組みを展開し注目を集めている中堅・中小企業の経営者ばかりです。そして、ゲストスピーカーの方にお話いただくだけでなく、後半では、私自身がインタビュアーとなって質問をし、議論を掘り下げて進めていくという構成にしているので、学術的な観点からの核心も汲み取ることができる内容にするつもりです。

現象を裏付けるディシプリンを明らかにしなければ意味がない

 実学を重視するビジネススクールにおいて実際の企業の事例から学ぶことは大きな意味がありますが、学術畑出身の教員である私の授業では、経営学のディシプリン(discipline)に基づいて事例・現象がどのように説明されるのか、事例・現象を裏付けるディシプリンは何なのかを解き明かしていかなければ意味がないと思っています。言ってみれば、「学術」と「現象」の間を行ったり来たりしながら、学術を理解する力、現象を読み解く力の両方を高めていくような授業を目指しています。
 例えば、ビジネスパーソンを対象にした「国際経営戦略」では、次のような授業の組み立てをしています。
 ——企業が展開する国際的な事業戦略にはさまざまなタイプがあり、個々のタイプを特徴付けるさまざまなファクターがある。実際に企業が行った事業展開を学術的に説明しようとするとき、企業行動のどの点に着目し、どのように切り取って、事業戦略を特徴付け、どのファクターに結び付けるのか、一つひとつ整理していき、現象の全体像を理論付けて理解していく。
 こうしたワークを通して、院生の皆さんの頭の中に国際経営戦略の地図が描かれ、将来の事業展開の際に役立つ確実な力になっていくのだと思っています。
 一方、学部卒の院生(キャリア形成プログラムの院生)には、コンサルティングファームなどへの就職を見据え、大量の文書、資料を迅速に読み進め、情報を分析、処理する力を付ける訓練を行う授業も行っています。そのため、1つの授業で『戦略サファリ』(東洋経済新報社、1999年)と、『ビジョナリー・カンパニー』(日経BPセンター)シリーズ4冊を読んでもらい、たくさんの考える材料を提供しています。そして、「君たちが迷ったとき、この本の中の何かがきっと役に立つ。何が役に立つか、それは就職した後に分かるはずだ」と、激励の声掛けをしています。

 ビジネススクールで専任教員として教えるのは、2021年度が初めてでした。高いモチベーションを持った院生に恵まれ、私にとっては手応えを実感する1年になりましたが、院生の皆さんにも同じように感じてもらえていたら素晴らしいことです。そして、次に出会う院生の皆さんにも、取り組みがいを感じてもらえるような授業を提供できるよう、準備を重ねていこうと思っています。

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