多様性から創造性へとイノベーションを創出する大学づくりを目指して

2017.06.12 TOPICS

多様性から創造性へとイノベーションを創出する大学づくりを目指して ~様々なボーダーを超えたダイバーシティ研究環境の実現に向けて~

 立命館大学は、学園中期計画(R2020)の後半期計画において、多様性から創造性、イノベーションを創出する学園となることを大きな目標として掲げています。その実現のための基本課題のひとつとして、ダイバーシティ環境の創出を掲げています。こうした考えのもと多様な価値観を尊重する男女共同参画環境の実現に向け、2016年5月に吉田美喜夫総長を委員長に、「男女共同参画推進委員会」が立ち上がりました。学園に所属する教職員・学生院生らが働きやすい、学びやすい環境を創造することを目的にさまざまな議論が展開されています。
 今回は、その取り組みのひとつとして、昨年12月に女性研究者の研究環境のサポートを目的として開設した「リサーチライフサポート室」の田中弘美室長(学校法人立命館理事補佐、立命館大学特命教授)に目標や取り組み内容、今後の展開などについて伺います。

田中弘美 リサーチライフサポート室室長
専門:情報学
コンピュータビジョン・コンピュータグラフィクス・バーチャルリアリティの隔合、触覚通信,VR手術シミュレーション、織物の質感表現、デジタルミュージアムの研究に従事

リサーチライフサポート室を開設した目的を教えてください。

 第一に、立命館大学に在籍する多くの女子学生・院生の活躍を励ますことです。そのためには、身近なロールモデルとして女性教員がいきいきと輝いている姿を今よりもっと増やすことが大切だと考えています。また、性別に関係なく誰もが働きやすく意欲を持って活躍できる環境をつくりだすことは、グローバル化の観点からも重要な学園課題です。
 こうした環境をつくるには、女性教員の比率をさらに高めていくことが必要です。立命館大学は、学園の中期計画(R2020)後半期期間における「教員行動計画」において、2020年度末までに女性教員比率を22%以上にすることを目標に設定しました。その実現のためには、採用計画などの数値目標だけでなく、教育・研究とさまざまなライフイベントとの両立をしやすいような環境整備も重要です。リサーチライフサポート室は、こうした活動の推進を担っています。

具体的にどんな取り組みを行っていますか?

 本学は、2016年度に文部科学省の科学技術人材育成補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(特色型)」に採択されました。リサーチライフサポート室は、事務局として研究者たちへのヒアリングや各学部の学部長との懇談会などを重ね、以下の基本方針を立てて、制度・施策の具体化を進めています。

立命館大学 男女共同参画基本方針

  • 男女共同参画の実現に向けた意識改革と情報発信
  • 国際的視点を含めた男女共同参画に資する教育・研究の推進と研究力の向上
  • 学修・教育・研究・就業と家庭生活との両立支援
  • 人的構成における男女格差の是正、女性研究者の採用・上位職登用の推進
  • 女性研究者の裾野拡大の推進

 例えば、研究と出産・育児・介護などのライフイベントを両立するための重要な課題のひとつが、研究に充てる時間の確保です。そこで、こうしたライフイベント期間中の研究活動の支援の観点から、研究高度化施策として、「ライフイベントに関わる研究活動支援員制度(通称:リサーチサポーター制度)」を2017年4月に新設しました。さらに、女性研究者の研究リーダーとしての能力を開花させ、上位職への積極的な登用に繋げるための「研究マネジメント塾」開設に向けた準備を進めているところです。
 また、こうした女性への支援だけでなく全学的な意識改革も重要となります。そのためにも、アンケートやセミナーの実施などを重ね、全体で課題や実態を共有していきたいと考えています。
 ちなみに、女性研究者の育成・支援は国の施策でもあり、文部科学省は2006年度に自然科学系の新規採用における女性の比率を(その時点の24.6%から)30%にすることを目標に掲げ、出産・育児期の女性研究者の支援に対する補助事業を継続して行っています。事業が始まった当初から取り組んでいる国立大学などから見れば、本学はまだまだ遅れていますが、リサーチライフサポート室の開設を機に動きを加速していきたいと考えています。

2016年度は学内啓発やアンケート・ヒアリング調査を実施
意識啓発を目的に学内で実施したシンポジウムの様子

田中室長が描くダイバーシティ研究環境とは?

 科学技術のイノベーションを活性化していくためには、多様な視点や優れた発想を取り入れていくことが不可欠です。多様な人材のなかで一番身近で、数の多いのが女性です。ダイバーシティ研究環境の実現に向けてまずは、女性研究者の割合を増やし、努力が正当に評価される制度や仕組みを整え女性教職員が働きやすく意欲を持って活躍できる職場環境をつくりだす。それがひいては女子学生の憧れとなり、将来のキャリアデザインへとつながっていくと考えます。
 大学で研究を続けるには、研究成果を論文にまとめて発表し実績を積み上げることで大学教員としての道を切りひらいていくのが通例です。20~30代の頃は男女を問わず身分も不安定で、さらに出産や子育てで研究が停滞することに危機感を抱く女性研究者が多いのも事実です。私自身の経験からも、それを乗り越えるためには家族の理解・協力はもちろん、優秀な研究支援員の存在なども不可欠ですし、そのうえで研究者としての覚悟を持って取り組むことが求められます。
 大学ランキングが発表されるようになり、日本だけでなく世界を相手とした競争が始まっています。生き残りをかけ“多様な視点が活かされる組織づくり”が求められている今、それができる企業および大学が、社会からも認められ、支持され、成長することができます。立命館にはAPU(立命館アジア太平洋大学)の開学を例に挙げるまでもなく多様性を受け入れる素養があります。女性に限らず、様々な背景、文化、出身、年齢、性別、人種などから多様な人材が分け隔てなく採用され、自由闊達に自分の考えを打ち出したり、議論できる場が与えられ、実力に応じ平等な機会が得られる大学、職場環境にすることこそが重要だと考えます。

取材後記

 ご自身も二人の子育てをしながら研究を続けてこられた田中室長。教え子でもあり、現在専門研究員として一緒に研究をされている田中士郎さんが、「田中先生は厳しい一面もありましたが、面倒見が良く、私たちに研究の面白さを伝えてくださいました。企業で女性研究者としてキャリアを築いている研究室の同窓生も“学生時代に田中先生がいきいきと研究されている姿を見て、自分自身も研究者としての道を進みたいと決意した”と話していました」と人柄を紹介してくださいました。

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