社会・地域連携の取組み 滋賀
2021年度「BKC地域連携事例集」巻頭特集
コロナ禍でも止めない地域連携
立命館大学びわこ・くさつキャンパス(BKC)では、地域と連携した教育、研究、社会貢献、学生活動等の事例を集成し、多くの皆様にBKCを身近に感じていただき、地域と共に発展するキャンパスでありたいとの思いから、地域連携事例集(年刊)を発行しています。
BKCは、キャンパスの地域連携の取り組みを皆様に知っていただくと共に、地域と連携しながら持続可能な社会を実現することを目指しています。
2021年度は、新型コロナウイルス禍のなかでも地域連携活動を止めず、積極的に活動した事例を巻頭特集として、3事例を取り上げました。
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大学生が伝える「立命」の魅力
コロナ禍でオンラインを活用
したイベント運営
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地域に開かれた大学を目指して
アフターコロナを見据えた
新たな教育連携事業
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学生と地域でつくるまちの未来
建築・まちづくりから
地域の持続的発展に貢献
大学生が伝える「立命」の魅力-コロナ禍でオンラインを活用したイベント運営
「立命の家」は、立命館大学の課外自主活動団体が日頃の活動の成果を地域に還元する取り組みの1つで、小学生を対象にプログラミング体験や工作、科学実験など、様々な企画を立案し、毎年夏休みに開催している体験イベントだ。2019年までは対面での開催だったが、2020年は新型コロナ感染拡大によって中止。2021年はコロナ禍により対面での開催は厳しい状況となったが、初めてオンラインで開催した。20回目を迎える今回は、BKCを拠点に活動するプロジェクト団体や学術系団体など8つの団体が体験プログラムを企画し、小学生とその保護者約150名が参加した。
主催:立命の家2021実行委員会
日時:2021年8月19日(木)・20日(金)
形式:オンライン
参加者:小学生とその保護者約150名
立命館大学の課外自主活動団体がそれぞれの活動内容を生かして、プログラミング体験や工作、科学実験などの体験を通して、地域の小学生を対象に、自発的な活動の機会を提供している「立命の家」。今年度は、8つの団体から選出された9名が実行委員会となり、初めてオンラインでのイベント開催を成功させた。同イベントへの思いやコロナ禍で苦労したことなどを、実行委員会の森成昇平さん(草津天文研究会・実行委員長/経済2、いずれも2022年3月現在)、兒玉祐典さん(ライフサイエンス研究会・副委員長/理工3)、中川皓太さん(Ri-one・会計/理工2)、廣瀬巧朗さん(音響工学研究会・広報/理工2)、錦織勇飛さん(RiG++・会計/情報理工2)、イベント開催まで学生をサポートしてきたBKC学生オフィスの西川美裕さんにお話を聞いた。
立命の家の取り組みについて教えてください。
森成 「立命の家」は、立命館大学の課外自主活動団体が日頃の成果を地域に還元する取り組みの1つです。2001年から始まり、毎年夏休みに小学生を対象として実施しています。今回はオンライン開催になりましたが、多くの小学生に参加してもらい、充実した2日間になりました。今回の企画では、立命館コンピュータークラブ・音響工学研究会・ライフサイエンス研究会・ロボット技術研究会・Ri-one・飛行機研究会・草津天文研究会・RiG++の8つのサークルから合計9名が集って、立命の家2021実行委員会を立ち上げ、私が実行委員長を務めました。立命の家に参加する大学生のメリットは、地域との交流ができること、小学生に対して自らの経験を教える立場になれることです。実行委員会は、2021年3月に発足し、8月の中旬までにイベントの全体像を完成させました。先ごろ2022年度の立命の家に向けて次の代の実行委員会が発足しました。
コロナ禍で立命の家に取り組むモチベーションをどのように維持しましたか。
森成 誰かに何か貢献できればという思いで頑張ったと思います。立命の家の準備期間がまさにコロナ禍だったので、7月にはひどくモチベーションが低下していました。そのような状況で、学生オフィスの西川さんから対面で活動していた時の写真を見せていただき、イベントのイメージが沸き、そこから元気を取り戻しました。
西川 オンラインでの活動は思ったより大変で、実行委員に対して私が個別面談をするくらい、皆さんの気持ちの浮き沈みが激しかった時期もありました。当初50名で小学生の参加者を募集していたのですが、結果的に160名近くの申込がありました。それが実行委員の皆さんの励みになったのではないかと思います。
中川 モチベーションというよりは作業の「提出期限を守らないと!」という焦りが大きかったです。西川さんがおっしゃる通り、申込者数を聞くと一気に気が引き締まりました。また、準備期間中、オンラインで声しか聞いたことがなかった実行委員のみんなとイベント当日に顔合わせできたことが新鮮で嬉しかったです。
廣瀬 立命の家の状況を気にかけてくださるサークルの先輩のおかげで、僕は他の実行委員と比べると比較的モチベーションは高かったと思います。イベントを開催することが楽しみで、そのことがモチベーションの維持にもつながったと思います。
コロナ禍での取り組みを通して一番苦労したことや学びとなったことを教えてください。
森成 苦労したことはオンラインでの開催です。昨年は立命の家が中止になり、それまでは対面での実施だったため、前例がない中での開催でした。さらに小学生とのオンラインでの交流も経験がないため、Zoomでのやりとりには非常に苦労しました。
廣瀬 これまでの実行委員は、打ち合わせを重ねながら徐々に仲を深めていくと聞いていたのですが、直接会うのがイベントの当日だけでした。そのため、当日までは実行委員間での連携の取りづらさも少しだけあったかもしれません。
森成 初対面のメンバーだったので、もともとの繋がりがなく、イベント実施まではそれぞれ寂しい思いをしていたと思います。
参加された小学生の反応はいかがでしたか。
兒玉 僕は、オンラインでの実施であったため個人的に「(小学生が)適切にできているかな?」と気にしていた部分が多かったのですが、参加した小学生のアンケ ートで良い反応が多くとても嬉しかったです。
錦織 私たちが実施した内容としては個別に集中しながら作業する企画だったのですが、終了後に「ありがとうございました!」と参加した小学生から言ってもらえて嬉しかったです。アンケートに「サポートをありがとう」と書いてあり、実施後にやりがいを感じました。
廣瀬 僕は、想定外の小学生の反応に驚きました。スピーカーを作ったのですが、出来上がりに差が生まれた印象も受けました。もっと細かいマニュアルがあってもよかったかなと思いました。
森成 対面開催時にはあった、小学生との交流時間が無くなってしまったんです。小学生ともっと関わりたかったなと思っています。
西川 実行委員の皆さんは自己評価がとても厳しかったようですが、参加者のアンケートでは嬉しい声をたくさん頂きました。初めてのオンライン開催という状況で、小学生向けのZoomマニュアルを彼らが作ってくれました。小学生にもわかりやすいようにふりがなをつけるなど工夫して作成しています。実行委員側は進行に徹するので、Zoom上では、個別の企画の感触が掴みにくかったのかもしれません。しかし、小学生のことをよく考えてイベントを準備してくれたことは小学生にちゃんと伝わっていたと思います。
これからどのようなチャレンジをしていきたいですか。
中川 立命の家のように知識や経験を人に伝える活動をもっとしたいです。その1つとして自分の行っている研究内容をブログで公開したいと考えています。
廣瀬 立命の家が終わり、人と交流することが増えて新しいバイトも始めました。僕は来年度もサポーターとして立命の家に引き続き携わっていきます。
西川 私自身は、もうちょっと彼らの活動を上手く支援できたのではないかと反省しています。今後はさらに運営をスムーズにできるよう、引き続きフォローしていきたいですし、これからも彼らの活躍に期待しています。
最後にBKCの地域連携として大学生に取り組んで欲しいことを教えてください。
西川 地域の方々との交流が学生の学びと成長につながることを期待しています。視野の広がりやコミュニケーション能力といった個人の成長、企画運営力や後輩への指導力など団体の組織力向上を目指してほしいです。また、「立命の家」のような活動は、地域密着型キャンパスとして地域貢献の役目も担っています。地域の方々との交流を通じて相互に発展できるように多様な連携が進むことを願います。学生が主体となって様々な活動に意欲的に取り組んでいけるように引き続き支援をしていきたいと思います。
【立命の家2021】プログラム一覧
立命の家2021では、実行委員会に所属する8つの団体がそれぞれの日頃の活動内容を生かした企画を実施した。
・立命館コンピュータクラブ(RCC)「スクラッチでプログラミングをやってみよう!」
・音響工学研究会 「紙コップスピーカーを作ろう!」
・ライフサイエンス研究会 「なんでこうなるの?ワクワクドキドキ科学の不思議発見隊」
・ロボット技術研究会 「Arduinoを使ってみよう」
・Ri-one 「プログラミングを体験してみよう」
・飛行機研究会 「めざせ!紙飛行機マスター!」
・草津天文研究会 「惑星模型を工作しよう!」
・RiG++「スーパーりぐメーカー~アクションゲームを作ってみよう~」
地域に開かれた大学を目指して-アフターコロナを見据えた新たな教育連携事業
BKC地域連携課では、立命館大学びわこ・くさつキャンパス(BKC)での体験学習・施設見学等の機会を提供することで、キャンパス周辺の小中学校との交流や大学生の地域貢献を後押ししている。
大津市立青山小学校30周年記念事業では、鳥人間コンテストで実績のある立命館大学飛行機研究会の協力のもと、紙ひこうきの理論についての出前授業と実際に紙ひこうきを飛ばす企画を実施した。また、大津市立青山中学校との教育連携事業を初めて実施し、中学2年生の生徒約160名と教員11名がBKCにある7学部の体験授業と学生食堂での昼食、施設見学に参加した。施設見学ではオープンキャンパス学生スタッフの案内のもと、自然に囲まれた広々としたキャンパスと大学の研究設備や施設を見学し、大学生とコミュニケーションをとりながらBKCの魅力を感じる機会となった。
BKCにおいて、大学や学生と地域をつなぐ役割を担っているのが、BKC地域連携課 地域連携グループだ。キャンパスが位置する草津市をはじめとした行政や地域と連携し、地域に貢献する大学として、地域住民の方々や、周辺地域の小中学校との具体的な取り組み、さらには新たな連携事業に向けた企画・調整を行っている。今回は、コロナ禍での小中学校との新たな教育連携事業と学園ビジョンR2030を意識した今後の抱負について、BKC地域連携課担当課長(地域連携グループ)の布施亮介さんにお話を伺った。
BKC地域連携課の役割について教えてください。
布施 BKC地域連携課では、大学と地域を繋ぐ役割として、周辺の大学や行政と連携して活動をしたり、地域のもとへ積極的に足を運んだりしています。2024年にはBKC開設30周年を迎えますが、地元草津市の町内会、自治会、まちづくり協議会の方々との繋がりを深めています。他にもびわこ文化公園でつながる滋賀医科大学や龍谷大学との交流に力を入れています。
コロナ禍でこれまでの地域連携の取り組みに変化したことなどはありましたか。
布施 積極的に地域と繋がりを持ちたいと思っていますが、コロナ禍で企画する行事やイベントが急にオンラインに切替えざるをえない状況になったり、中止という苦渋の決断をすることもありました。そのような状況でしたが、延期になってもなんとか希望を持って企画や準備を進めるようにしています。のちほど紹介する取り組みも、コロナ禍で先を見通すことが難しく、どのように進めていくか苦労しました。せっかく相談いただいたのに実施できないとなれば、一緒に企画した方々とその後の連携においてどうしても距離ができてしまうことを懸念していました。
厳しい状況下で工夫したことや取り組みに関わった大学生の反応について教えてください。
布施 コロナ禍でも工夫しながらなんとか実現できた企画のひとつが、青山小学校の開校30周年記念事業での教育連携です(p.34)。当初、同校では2021年11月中旬に記念式典を予定していましたが、コロナ感染拡大の影響をうけ、行事が縮小となってしまいました。そこで、記念事業として、鳥人間コンテストに挑戦している立命館大学飛行機研究会の協力のもと、オンラインを併用して紙ひこうきを使った特別授業を実施しました。特別授業では「紙ひこうきの理論&実践」と題して大学生が飛ぶ仕組みを教えながら小学生と一緒によく飛ぶ紙ひこうきを製作し、青空の下、運動場でたくさんの紙ひこうきを飛ばしました。この時も飛行機研究会の皆さんに小学校に出向くことを快諾してもらい、大学生の皆さんも地域連携に積極的だったことには感心しました。他の学校からもよく大学との連携事業について相談をいただくのですが、大学生に協力を相談すると前向きな返事をくれます。コロナ禍でなかなか思うように活動できていない大学生たちも、何かしたいという思いがあるのだと感じました。
コロナ禍における取り組みを通して発見などあれば教えてください。
布施 地域の方々が私たち立命館大学と何かしたい、と思っていてくださることを改めて把握できました。コロナ禍で活動が制限される状況でも、何か一緒にできませんか、とお話を持ちかけてくださる地域の皆様や小中学校の先生方の思いにはとても感謝しています。また、最近では、コロナ禍で疎遠になっていた方々や学校との交流が戻ってきたと伺いました。実際に大学生が朝、通学路に立って挨拶運動を実施しているようです。コロナ前には、児童・生徒と大学生の交流が活発にありましたが、厳しい状況が続く中、小中学校も色々と大学生と一緒に取り組みたいことはあるが、立命館大学のどの部署に、どのように頼めばいいかわからず困っていますという声を聞くことができました。改めて私たちBKC地域連携課が積極的に関わっていけるという発見もありました。
そうした中でも新たな教育連携をされたと伺いました。
布施 それが青山中学校との初の連携事業となった「立命館大学BKC体験授業」です(p.35)。この事業はキャリア学習の一環として、BKCにある7学部の学部体験と学食での昼食など、約160名の中学2年生を対象にキャンパスライフを体験してもらいました。この企画では、BKCの教育・研究の成果や知的資源、木瓜原遺跡といった歴史的価値等に触れてもらうことで、立命館大学への関心が高まり、より身近に感じてもらう機会になったのではないかと感じています。今後コロナ禍に負けないようにキャンパス周辺の小中学校との連携をさらに深め、多様で新たな事業も展開していきたいです。
BKCで地域連携活動をする大学生に伝えたいことはありますか。
布施 大学生が自主的に地域と連携しながら活動していると地域の方々によく教えていただくので、BKC地域連携課としても、そのような繋がりを把握したいと考えています。また、これから何かしたいと思案している大学生の皆さんも、活動する場、発信する場としてキャンパスの外へ目を向けてほしいです。BKC地域連携課は、大学生の皆さんに様々な機会を提供できればと思っていますので、まずは私たちに積極的に相談してもらえると嬉しいです。立命館大学の主役は大学生です。主役である大学生が日頃お世話になっている地域で交流し、活躍することで地域のためにより貢献できるように私たちも共に歩んでいきたいと考えています。
今後のBKC地域連携活動での抱負を教えてください。
Topic|学園ビジョン R2030「挑戦をもっと自由に」 -Challenge your mind Change our future-
立命館学園は、建学の精神「自由と清新」のもと、「平和と民主主義」を教学理念に掲げ、先進的な教育・研究に取り組んでいる。2010年には、2020年に向けた学園ビジョンR2020として「Creating a Future Beyond Borders 自分を超える、未来をつくる。」のもと、より積極的に学園創造を進めてきた。
現在、立命館学園は、その精神と理念、歴史を受け継ぎ、2030年にめざす新たな学園ビジョンとして、「挑戦をもっと自由に」を掲げている。
学生と地域でつくるまちの未来-建築・まちづくりから地域の持続的発展に貢献
立命館大学理工学部 藤井研究室・金研究室
滋賀県長浜市・鍛冶屋町の「歴史環境保全型まちづくり」に向けた基礎的調査と活動拠点整備
立命館大学理工学部建築都市デザイン学科・建築設計研究室(藤井研究室)、立命館大学理工学部環境都市工学科・都市地域デザイン研究室(金研究室)が、長浜市鍛冶屋町で取り組んでいるまちづくりプロジェクト。
人口減少や都市一極集中現象に伴い、地方の都市や集落ではまちの魅力を創出することで持続可能性につなげる動きがある。その一方でまちの持続的発展においては、地域の歴史文化、資源などの十分な調査が不可欠である。
鍛冶屋町には、鍛冶で栄えた歴史、「太閤踊り」や「とんてんかんin鍛冶屋」の文化、山の清流から流れる水質が優れた水と貴重な生物といった自然環境などのまちづくりを考える上では欠かせない資源や背景がある。
そこで、鍛冶屋町では歴史環境保全型まちづくりをテーマに、①地域文化と資源の基礎的な調査とその活用方法の検討、②今後も持続的に大学が地域に関わるための官民学連携の活動拠点の創出を目指している。
鍛冶を一大産業として栄えたまち、長浜市鍛冶屋町。かつては100件ほどの鍛冶が存在し、町の産業の8割を占めていたという。武具や槍、農具など時代とともに形態を変えその技術を伝承してきたが、昭和中期に一斉に廃業し、現在は少子高齢化と後継者不足が深刻になっている。その一方で、伝統的な行事や四季を感じるくらし、地域コミュニティの共助の文化などが今なお残っており、過疎化の中でもまちの持続を目指し、移住者も増えつつある。今年度から実施している「鍛冶屋町プロジェクト」では、都市地域デザイン研究室がまちづくりの方向性の検討に、建築設計研究室が坐外堂を活用した拠点づくりに取り組んでいる。学生・住民と一緒に地域の未来を考える、藤井健史助教と金度源准教授に話を聞いた。
プロジェクトで取り組んでいることを教えてください。
藤井 私たちは、それぞれの研究室として2つの柱があります。金先生の研究室では、鍛冶屋町のまちづくりの方向性を提案するために、まち歩きと住民の方へのヒアリングといった現地調査を行っています。鍛冶屋町の文化・歴史といった背景を掘り下げて整理すること、つまり目の前に見えている形のあるものだけではなく、その裏側の何か目に見えないような部分を捕まえることを重視しています。私の研究室では、大学として息長く継続して関わっていくための拠点づくりを行っています。使わせていただいている古民家「坐外堂」はとても立派な建物なのですが、築150年なので修繕が必要な箇所も多々あります。単に古民家の改修をするのではなく、学生と新しいアイデアを出しながら進めています。
鍛冶屋町をフィールドにするきっかけはなんだったのでしょうか。
金 鍛冶屋町の方が、大学・学生と一緒に町を活性化したいという思いで、本学のリサーチオフィスに直接相談に来られたことがきっかけです。町の要望の中から建築・まちづくりの分野に取り組んでいる私と藤井先生が研究室として関わることになりました。
鍛冶屋町を訪れてどのようなことを感じられましたか。
藤井 町としてのポテンシャルをすごく感じました。わずかながらでも移住されてくる方が毎年いるということは過疎化が進む集落ではとても珍しいことです。自然環境と融合した、昔ながらの暮らし方が残っているところに魅力を感じている方がいるということだと思います。また、集落は外に対して閉じてしまうイメージがあると思うのですが、鍛冶屋町はかなりオープンな方々で、すごくウェルカムな雰囲気があることも大きな特徴ですね。
コロナ禍での活動で苦労されたことはありますか。
金 地域をフィールドに現地で活動するプロジェクトなので、感染者の推移を見ながら何度も訪問する時期を調整しました。実施にあたってはソーシャルディスタンスを十分取れるようにしたり、インタビュー調査のシフトを組んで場所を分散させるなど、できる限りの対策を徹底しました。様々な懸念はありましたが、無事実施できたことは地域の方の協力があってこそだったと思います。
学生の活動に対して地域の反応はどうだったのでしょうか。また、どのように地域とコミュニケーションをとっていこうと考えておられますか。
金 学生の活動で町が何かすぐに変わることは期待できないですが、町の人は成果に期待してしまうこともあるわけです。今回の調査でも成果が十分見えないことで懸念されることもあったと思います。そんな中、いま現在の活動が今後自分たちの地域にどう役に立っていくのかということを解釈して私たちに代わってまわりに伝えてくださったのが町の代表の方です。そのおかげで地域の方からも協力が得られるようになったのだと思っています。私たちが訪れた時にいつも顔を出してくださったり、力を貸していただけるのはとてもありがたいです。
学生にとって地域とはどのような意義があるとお考えですか。
藤井 生きた題材があるフィールドで学べることは学生にとってかなりモチベーションになっているようです。教員としては、学生が主体的に活動し、自分のアイデアが実現したという実感を持てることを特に大切にしています。坐外堂の改修においては地域の工務店さんと連携しているのですが、改修に向けた実務的な相談は学生も交えて行っているところです。大学の学びを社会で生かすための貴重な経験ができていると思いますね。
地域における大学や大学生の活動の役割をどのように考えておられますか。
金 地域の資源というものをよく理解した上で、現代社会に合わせて改良・継承していけなければ、課題に対して解決策を出すことはできません。例えば鍛冶屋町すが、上水道の整備とともに廃れていて、泥が詰まることによって局所的な雨で水が溢れてしまう危険性が考えられます。地域の資源は生かしていかないと時として悪戯してしまうことがあるのです。地域の人では気づけなかった資源を新しい視点で発掘して、生かすことで地域の課題を解決する、そこに私たちの価値があると思っています。
今後の展望について教えてください。
金 地域から学びと研究の場を提供していただいていることに真摯に答えながら、10年20年後においても町が魅力的に発展していくように、私たちにできることを1つずつ取り組んでいきたいです。
藤井 健史
立命館大学 理工学部 建築都市デザイン学科 助教
立命館大学理工学部環境システム工学科卒業、立命館大学大学院理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。専門は、建築設計・都市計画・空間解析(キーワード:可視領域、緑地環境評価、街路景観解析)。
金 度源
立命館大学 理工学部 環境都市工学科 准教授
国立韓国伝統文化大学校伝統建築学科卒業、立命館大学大学院理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。専門は、文化遺産防災学、コミュニティデザイン(キーワード:都市地域デザイン、歴史まちづくり)。