社会・地域連携の取組み 滋賀

立命館大学びわこ・くさつキャンパス(BKC)では、地域と連携した教育、研究、社会貢献、学生活動等の事例を集成し、多くの皆様にBKCを身近に感じていただき、地域と共に発展するキャンパスでありたいとの思いから、地域連携事例集(年刊)を発行しています。
BKCは、キャンパスの地域連携の取り組みを皆様に知っていただくと共に、地域と連携しながら持続可能な社会を実現することを目指しています。2022 年度は、Withコロナということで、地域における催事が徐々に再開され、地域連携活動も活発になり、今年度の事例集も盛りだくさんの内容になりました。それらの中で、巻頭特集として3事例を取り上げました。


2022BKC事例集巻頭3-1

紫香楽宮は、今からおよそ1,250年前の奈良時代中頃、現在の滋賀県甲賀市信楽町の北部に聖武天皇が造営した都です。745年元旦に都となってから、相次ぐ山火事や地震で情勢不安定により、紫香楽宮はわずか4ヶ月で幕を閉じた幻の都となりました。史跡紫香楽宮跡がある信楽町牧、宮町、黄瀬地区は都建設当時の景観が大きく損なわれることがなく、現在は良好な水田風景や豊かな里山が残っています。紫香楽宮跡を甲賀市の新たな地域資源として活用すべく、2020年には史跡公園を設置する方針を決め、紫香楽宮活用委員会が発足されました。さらに、2020年には、私有地となっている史跡の一部を、甲賀市が買い取り、史跡公園を2025年頃に運用する方針が決められました。2021年度から、史跡公園への来訪者を出迎えるにあたり、「紫」のイメージを定着させるため、ラベンダー植栽による環境整備、および、史跡を案内するホームページや紫香楽宮のPR動画作成を黒川ゼミも協力して行いました。

[紫香楽宮跡活用委員会]
委員長:水野藤志夫(紫香楽宮跡整備活用実行委員会 委員長)
事務局:金谷英三(新事業企画実行委員会 委員長 / ボランティア団体「ラベンダーの郷 紫香楽」会長)
協 力:立命館大学経済学部 黒川ゼミ「紫香楽宮まちづくりチーム」・甲賀市歴史文化財課

2022BKC事例集巻頭3-2


立命館大学経済学部 黒川ゼミが2018年から協力している「紫香楽宮跡地の史跡公園事業化」。2020年、2021年度には「環びわ湖大学・地域コンソーシアム」の 地域連携課題解決支援事業、2022年度には立命館大学グラスルーツイノベーションプログラムに採択されてきた。コロナ禍で学生の活動が制限されていた中、黒川ゼミ「紫香楽宮まちづくりチーム」は、地域資源の発掘、活用の可能性を若い視点で調査を実施。紫香楽宮跡では、都あかり、天平ふれあいマーケットなどのイベントが行われている。まちづくりに紫香楽宮跡を積極的に活かすため、既存のイベントの活用に加えて、類似史跡公園、植栽をテーマとした公園、観光施策などの調査を実施。その成果を紫香楽宮跡活用実行委員会を通じて、甲賀市役所、地域住民などへ発信している。これまでの調査・研究の道のりや、今後の展望について黒川清登教授に話を聞いた。

2022BKC事例集巻頭3-3

これまでの取り組みについて教えて下さい。

黒川 私たちがこれまで取り組んできたことは大きく3つです。1つ目は、文化財としての価値のみならず、地域の経済振興の観点から史跡公園のあり方を提言するための調査です。2つ目は、公園周辺の景観整備です。これまでラベンダー植栽を行っている「ラベンダーパーク多可(兵庫県)」、「道の駅あいとうマーガレットステーション(滋賀県)」などの類似公園で視察・調査行いました。「ラベンダーパーク多可」への視察では、信楽地区と類似の気象条件や標高でラベンダーが育っており、懸念していたラベンダーの植え付けについて見通しを立てることができました。3つ目は、地域が一体となって公園の事業化を進められるよう地域住民・行政・観光振興会・商工会・JAなどを含めた組織づくりです。積極的に現地に赴き、事業の必要性についての説明を行いました。はじめは、周辺の地域の方も紫香楽宮・甲賀市をアピールできる地域資源として認識している人が多くありませんでしたが、徐々にラベンダーの植栽など、活動に協力してくれる地域住民の方も増えてきています。

2022BKC事例集巻頭3-4

研究に取り組まれたきっかけを教えて下さい。

黒川 2017年12月、甲賀市主催のあいこうか生涯カレッジにて「超高齢化社会とまちづくり―タイ東北地方の高齢化社会のもとでの新たなエコツーリズムへの挑戦―」をテーマに講演したことがきっかけです。2018年に本格的に調査協力を開始してから、紫香楽宮跡の活用方法を模索してきました。信楽町雲井自治振興会の皆さんとは、みやこあかり、収穫祭、太鼓祭り、虫送り、雲井竹宵いの夕べ(七夕まつり)、「ナゾトキ7(セブン)」(小学生対象の史跡巡り)など、数々のイベントで黒川ゼミ生の研究対象として、イベント企画・実施に協力するとともに、アンケート調査を行い、その成果は卒業論文などで発信してきました。

これまでの研究での発見や成果について教えて下さい。

黒川 ラベンダーを核とした新たなまちづくりの可能性を発見できたことです。まちづくりは、まず「地域の資源を見直そう」というところから始まります。甲賀市の地域資源といえば、信楽焼・忍者・朝宮茶の3つがよく言われており、それらを軸にまちづくりが進められてきています。これまでは、既存の3つの地域資源に紫香楽宮とのつながりを組み込むことで観光ルートに紫香楽宮を加えようという発想で進めてきましたが、なかなかうまくいきませんでした。そこで、紫香楽という名にも入っている「紫」をイメージとした新しいまちづくりに取り組むことにしました。雲井自治振興会の会長さんからの「紫といえばラベンダーはどうだろう?」というちょっとした一言でラベンダーの可能性の検討が始まりました。いろいろ植栽したところラベンダーは鹿に食べられないことが判明し、獣害対策にも効果があります。さらに、調査を進める中でラベンダーを通じた園芸の魅力発信、ハーブを活用した食の開発、ラベンダーなどの癒し効果やアロマセラピーの魅力発信など、新しい観光資源になり得る可能性を秘めていることが分かってきました。

2022BKC事例集巻頭3-5

活動する上で苦労したことを教えてください。

黒川 コロナ禍の2020年に活動が始まったため、ゼミに所属する学生が現地に出向いて調査をしたり、地域の方に話を聞いたりするなどの活動が難しかったことです。月に1度行っている進捗報告はオンラインで行うなど地域と学生の繋がりを絶やさぬように工夫をしていました。コロナの中でも積極的に活動してくれた学生には感謝しています。
また、史跡公園を過疎地に作るという事業は幅広い専門知識が必要になってきますし、集客ができなければ、意義を問われてしまいます。そこで、歴史的価値の提供に加え、どのように集客するか、単なる観光ではなく「学ぶ観光(Learning Tourism)」として具体化していくことに腐心しました。

2022BKC事例集巻頭3-6

大学が地域と繋がっていくことの良さについて教えてください。

黒川 学生にとって地域と関わり実践的に活動することは大きな刺激になっていると思います。学生やゼミOB生が中心となって、SNSやローカルメディアの「紫香楽ファン!」を通じて情報発信を行っています。YouTubeで公開している紫香楽宮のPR動画は、甲賀市教育委員会事務局歴史文化財課の監修のもとに制作しました。関係者からの意見を踏まえて、動画の修正が度重なりましたが、著作権や肖像権などのネットリテラ シーの大切さを身を持って感じられ、関わった学生にとっては、大きな成長につながったのではないかと思います。

2022BKC事例集巻頭3-7

黒川先生の今後の研究の意気込みを教えてください。

黒川 まずは、関係する学問分野のつながりを増やしていきたいです。史跡公園・公園造成には、理工系でまちづくりや都市計画、史学分野などの専門家の視点が必要であると考えています。これまでの本学生命科学部(土壌診断)、京都大学(まちづくり)との連携に加え、協力者の拡大を検討しています。さらに、史跡公園の先行事例として、奈良文化財研究所、恭仁京関係者(くにのみや学習館:京都府木津川市)、国営飛鳥歴史公園。人が集まる公園づくりに向けて、ラベンダー多可(兵庫県)、草津川跡地公園 de愛ひろば(草津市)、びわ湖大津館 イングリシュガーデン(大津市)等との連携を進めていく予定です。
 そして、ラベンダーの植栽にはより多くの方の協力が必要です。紫香楽宮跡をラベンダーの郷にすることを目指して立ち上げたNPO団体「ラベンダーの郷 紫香楽」の会員を増やし、活動の具体化、各イベント・講習会の企画と立案に引き続き注力していきたいです。

2022BKC事例集巻頭3-8


黒川 清登
立命館大学 経済学部 教授

筑波大学社会工学類卒業(マクロ計量経済学)、筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了(学術博士)。株式会社三井住友銀行に勤務中は上海、大連に、国際協力機構(JICA)ではロンドン駐在など、アジア、アフリカ、太平洋諸島などの途上国を中心に100ヶ国以上渡航している。2013年より現職。まちづくり、中小企業振興、地域経済振興、高齢化社会問題、災害に強いまちづくりについて研究している。

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