フレイルやサルコペニアを認める地域在住高齢者は口腔機能低下や嚥下に問題がある可能性が高いことを証明
立命館大学総合科学技術研究機構医療経済評価意思決定支援ユニットの堺琴美助教らの研究チームは、フレイルやサルコペニアを認める地域在住高齢者は口腔機能低下や嚥下(※1)に問題を抱えている可能性が高いことを明らかにしました。本研究成果は、2022年7月14日23時(日本時間)に、科学雑誌「Cells」に掲載されました。
【本件のポイント】
- 地域在住高齢者において、フレイルやサルコペニアのそれぞれと、舌の力など個々の口腔機能や嚥下の問題との関連を示した。
- 過去に実施された研究を網羅的に検索し、利用可能なデータを使用してメタアナリシスを実施。
研究の背景
高齢者において心身が弱った状態であるフレイルと、筋肉量や筋力が低下しているサルコペニアという症状が、要介護や死亡の原因となりうるために注目されています。フレイルとサルコペニアは、主に歩行などの身体機能低下に注目して生まれた概念ですが、口腔や嚥下もフレイルやサルコペニアに関連して機能が低下している可能性があります。地域在住高齢者のフレイル、サルコペニアと口腔機能、嚥下の問題の関連を調べた研究は増加していますが、それらのデータをまとめて一定の結果を示した研究は存在しませんでした。
研究の内容
いくつかの電子文献データベースを使用して、関連する研究を網羅的に調べるというシステマティックレビューを実施しました。その結果、本研究に関連する24件の研究を特定しました。そのうち18件の研究が日本で実施された研究でした。研究デザインは、20件が一時点での関連を調べる横断研究(※2)であり、他の4件は、研究参加者を数年にわたり追跡することで因果関連を探索しようとする前向き研究(※3)でした。データは頻度論およびベイジアンメタアナリシスの両方を使用して統合し、以下の結果が示されました。
【フレイル、サルコペニアと口腔機能、嚥下の関連(頻度論およびベイジアンメタアナリシスからの結果)】
サルコペニアまたはフレイルを認める人は、そうでない人と比較して、口腔機能における舌圧(舌の力)が低いことが統計的に有意に示された。
フレイルを認める人は、そうでない人と比較して、舌や口唇の巧緻性低下があり、嚥下に問題を抱えていることが多いことが統計的に有意に示された。
前向きに参加者を追跡して、フレイルやサルコペニアと個々の口腔機能や嚥下の問題との関連を調査した研究は少なく、また、報告された情報も不十分であったため確信性の高い一定の結論を導くことは困難であった。
社会的な意義
地域在住高齢者におけるフレイル、サルコペニアと口腔機能、嚥下の関連を調査する研究において、今までの研究からどのようなことが明らかになっており、どのような部分のエビデンスが乏しいのかを示しました。本研究結果は、今後の当該分野におけるより有意義な研究の推進への貢献が期待されます。また、地域在住高齢者のフレイルやサルコペニアにおける口腔および嚥下の状態が本研究で示されたことで、高齢者の政策に役立つことができる可能性があります。
論文情報
- 論文名 : Association of Oral Function and Dysphagia with Frailty and Sarcopenia in Community-Dwelling Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis
- 著 者 : Kotomi Sakai1、Enri Nakayama2、Daisuke Yoneoka3、Nobuo Sakata4、Katsuya Iijima5、Tomoki Tanaka5、Kuniyoshi Hayashi6、Kunihiro Sakuma7and Eri Hoshino1
- 所 属 : 1 立命館大学総合科学技術研究機構、2 日本大学歯学部大学院、3 国立感染症研究所、4 筑波大学医学医療系、5 東京大学高齢社会総合研究機構、6 京都女子大学宗教文化研究所、7 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院
- 発表雑誌 : Cells
- 掲載日 : 2022 年7 月14 日(木)23 時(日本時間)
- D O I : 10.3390/cells11142199
- U R L : https://www.mdpi.com/2073-4409/11/14/2199
用語説明
1)食物を飲み込むこと
2)研究参加者の一時点におけるデータを収集して分析する研究
3)研究参加者において将来発症するようなイベントを調査する研究