DAST技術の独自展開によりバイオケミカル分野への幅広い応用を期待!微量液滴間の接触によりヒスタミン供給量を調整し、液滴内の細胞カルシウム振動の変化を初実証

2022.08.20 NEWS

DAST技術の独自展開によりバイオケミカル分野への幅広い応用を期待!微量液滴間の接触によりヒスタミン供給量を調整し、液滴内の細胞カルシウム振動の変化を初実証

立命館大学理工学部の小西聡教授、立命館大学大学院理工学研究科の玉寄あすかさん(博士課程 前期課程2021年度修了生)、京都大学薬学研究科の樋口ゆり子准教授らの研究チームは、Hela細胞が入った数マイクロリットルの微量液滴に別の液滴を上側から接触させ、ピペットを用いないで異なる量のヒスタミンを供給し、供給したヒスタミン量の違いより、誘導される細胞のカルシウム振動現象強度に違いが出ることを実証しました。本研究成果は、2022年7月26日(現地時間)に、「Sensors and Actuators:B.Chemical」(オンライン版)に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 本研究は、droplet-array sandwiching technology(以降DAST※)を基本技術としています。DASTでは、基板やチップ上に多数の微量液滴をアレイ状に整列させ、上下に対向配置した対向基板上の同様の微量液滴アレイとの距離を制御して接触/分離を操作します。基本は基板上の液滴アレイの一括操作です。
  • 我々の研究チームは、独自にDASTの微量液滴の形状を電気的に個別に制御する技術を開発し、液滴アレイの一括操作だけでなく、独立操作を可能としました。この個別液滴操作技術を用いれば、液滴の接触時間を個別に制御することができるため、上側液滴から下側液滴に供給する物質の量を個別に調整することができます。
  • 本研究では、液滴間接触時間により調整した下側液滴のヒスタミン量(濃度)に依存して、下側液滴の底面に接着したHela細胞のカルシウム振動の強度が変化する現象を顕微鏡で検知することに成功しました。今回の成果は、独自に発展させたDAST技術のバイオケミカル分野への幅広い応用可能性を具体的に示したものとなります。

※参考:小西聡ほか,Selective control of the contact and transport between droplet pairs by electrowetting-on-dielectric for droplet-array sandwiching technology, Scientific Reports 11,12355(2021)
https://www.nature.com/articles/s41598-021-91219-x

研究成果の概要

本研究は、DASTを基本技術とし、上下液滴間の接触による試薬供給制御を用いて、異なる量の試薬刺激に対する下側液滴内の細胞振動挙動の制御の可能性について実証することに成功しました。微量液滴アレイ技術として、多数の液滴間の操作に展開することが可能となり、DASTを用いた高スループットバイオケミカルアッセイ系への応用可能性を提示しました。

図1 DASTを用いた液滴アレイの上下接触分離によるピペットを用いない試薬、細胞の操作。
図1 DASTを用いた液滴アレイの上下接触分離によるピペットを用いない試薬、細胞の操作。(a)液滴アレイ形成用のぬれ性パターン基板上の液滴アレイ形成。細胞を含んだ上側液滴と試薬を含んだ下側液滴の形成。(b)上下基板の対向配置。(c)上下液滴の接触による上側液滴から下側液滴への試薬供給。(d)上下基板を離すことによる上下液滴の分離(試薬供給量の時間制御)。試薬液滴に輸送された細胞が試薬への反応(カルシウム振動等)を開始。

研究の背景

従来のDASTにおいては、液滴アレイを一括して操作することに限られており、個別に液滴間の接触融合時間を制御する機能や、液滴内の物質量を調整する機能はありませんでした。我々の研究チームは以前に、微量液滴の形状を電気的に制御する技術によって、液滴間接触/分離の個別制御に成功しました。アレイ上の多数の液滴に対して、上側液滴から下側液滴に供給する物質量を個別に制御できるため、さまざまな物質濃度の液滴を調整することが可能になりました。

研究の内容

上下液滴間接触/分離の個別制御機能を新たに備えたDAST技術の応用可能性を示すために、本研 究では試薬の濃度によって挙動が影響を受ける細胞活動に着目しました。今回、培地中のヒスタミン濃度によるHela細胞のカルシウム振動の強度変化を実証することに成功しました。上下の液滴の接触時間を長くして下側液滴のヒスタミン濃度を高くした液滴では、より蛍光強度の高い振動を確認することができました。

図2 液滴内細胞の試薬刺激振動現象実証手順。
図2 液滴内細胞の試薬刺激振動現象実証手順。DASTの上下液滴ペアの一つの操作図。(a)細胞混 濁液の液滴準備。Hela細胞を播種している。(b)細胞培養後、蛍光プローブを導入。(c)上側ヒ スタミン液滴と下側細胞含有液滴を接触。(d)ヒスタミン供給量に対応した接触時間経過後、上下 液滴を分離。Hela細胞のカルシウム振動挙動の蛍光観察(計測)。

社会的な意義

DASTは、従来の生化学アッセイ工程を液滴操作によって置き換えていく可能性を有しています。今回、典型的な生化学反応の一つである細胞のカルシウム振動をDAST技術の液滴内で実現し、上下液滴の接触時間制御による液滴内刺激試薬濃度の違いによる細胞カルシウム振動挙動への影響を確認することができました。このことにより図3に示すように、DAST技術の液滴がディッシュのような生化学反応容器として機能し、ピペットの代わりに液滴間接触/分離を用いた試薬濃度調整が可能になり、典型的な生化学反応を実証できたことから、今後さらなるバイオケミカル分野への幅広い応用へと波及していくことが期待されます。

図 3 生化学アッセイの従来ツールを液滴で代替し、大量の微量液滴によるハイスループット技術へ
図 3 生化学アッセイの従来ツールを液滴で代替し、大量の微量液滴によるハイスループット技術へ

論文情報

  • 論文名:Cellular calcium oscillations in droplets with different chemical concentrations supplied by droplet-array sandwiching technology
  • 著者:小西 聡 1,3、 樋口ゆり子 2、 玉寄あすか 3
  • 所属:1 立命館大学理工学部、2 京都大学薬学研究科、3 立命館大学理工学研究科
  • 発表雑誌:Sensors and Actuators: B. Chemical
  • 掲載URL:10.1016/j.snb.2022.132435
  • DOI:https://doi.org/10.1016/j.snb.2022.132435

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