社会学をベースとするゼミが国際芸術祭へ出展

 760㎢にもおよぶ広大な里山のなかに、300点以上もの世界各国のアーティストの作品が点在する「越後妻有 大地の芸術祭」。1994年にアートで地域の魅力を引き出し、交流人口の拡大等を図る10カ年計画「越後妻有アートネック整備構想」がスタート。2000年に第1回が開催された国際芸術祭だ。2012年の第5回芸術祭から参加している永野聡准教授(産業社会学部)は、今回の芸術祭では地域の資源である「和紙」に着目し、オフラインとオンラインの2つの作品を展開。地域とともに作品を制作するソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)を学生らと形にした。

作品が展示されている小屋(新潟県十日町市)
作品が展示されている小屋(新潟県十日町市)
受付には、学生が制作したポストカードやしおりが並べられていた
受付には、学生が制作したポストカードやしおりが並べられていた

皓雪冽白 ~漉き込む十日町の記憶~

 「今回、新作のアート作品としたため、作品の展示小屋の天井や梁を柿渋(塗料)で、壁を漆喰で学生たちと一緒に塗り直したんです。味が出てますよね」。永野先生は新潟県十日町市・十日町エリアで展示する作品を見ながら、もともと水車小屋だった場所を説明してくれた。永野先生が2012年に初めて「越後妻有 大地の芸術祭」に参加された頃から活用している趣ある小屋には、現在、まちづくり・建築ユニット「doobu-ドーヴ-」と共同制作した作品「皓雪冽白 〜漉き込む十日町の記憶〜」が展示されている。

 「今回は、地域の資源である『和紙』に着目しました。和紙の原料である楮(こうぞ)は、十日町市内で大切に住民が育てた地域の資源。伊沢和紙の職人さんに指導を頂き、学生たちと手漉きの和紙を制作しました。和紙づくりをしたことがない学生も多く、うまく行かない事も多かったのですが、最終的に500枚ほど作る事が出来ました。試行錯誤を重ねるうちに、学生たちはものづくりの面白さを感じてくれたようです」

 永野先生と学生が1枚ずつ漉き込んだ和紙はちょっとしたこだわりがある。それは、原料である楮に先染めという手法を用いて草木染め(地域で採集されたサクラ、クルミ、ツツジなど)を行った点だ。草木染め(先染め)を施した楮で紙を漉き、タペストリーに形を変え、インスタレーションとして光を使った演出とともに作品として披露されている。作品の演出には、学生も知恵を出し合った。

 「このイベントは、国際芸術祭なので、プロのアーティストや芸大も出展されています。実は、社会学をベースにしているゼミが出展しているのは珍しいことなんです。私たちが取り組んでいるのは、地域の方々とアート作品を制作する『ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)』と呼ばれる手法。地域の人たちと一緒に作ったり、運営したりすることを、アーティストチームだけでやるのではなく、地域と連携して取り組むことが評価されていると思っています」

作品の様子
作品の様子

さまざまな人々と関わる中で、難しさと楽しさを学んだ

 永野聡ゼミの学生は、いくつかのグループに分かれて定期的に新潟県十日町市を訪ねている。作品の管理も地域の方々と協力して行い、距離を超えた交流が続く。8月27日・28日の2日間、展示の運営を行っていた学生を代表して、加藤鈴菜さん、下田達也さん、上村一馬さん(いずれも産業社会学部3回生)に本プロジェクトについて話を聞いた。

 「作品のメインである和紙作りは、みんな最初は失敗続きでした。穴あきまくりですよね。6日間ほど、職人さんに和紙作りを教えてもらって、なんとか形にしました。やったことのないことを始めるのはハードルも高いと思いますが、やってみるとだんだん楽しくなってきて。地域の方々も優しい方が多くて、温かさみたいなものも感じました」(加藤さん)

 「芸術作品を作るのは初めてだったのですが、作品を作っていく中で、一緒に参画されているドーヴの方々から学んだことは多かったです。チームビルディングのうまさ、力を合わせて作っていく過程、地域の方との関わり方など、たくさん学ばせていただきました」(下田さん)

 「永野ゼミでのMTGも週1回行っていたんですが、学生同士意見が合わないこともありました。そんなときは、協力してもらっている方々の意見も取り入れつつ、お互いの良い部分を合わせて、目標に向かって取り組めたと思います」(上村さん)

上村一馬さん
上村一馬さん
下田達也さん
下田達也さん

地域の人々とのつながり

 ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)は、アーティストだけではなく、地域の方々との一緒に作り上げる手法の一つである。学生たちは、この取り組みを通して、地域の方々からもさまざまな影響を受けたという。

 「地域の方々にお世話になる中で、地域の方々も取り組みへの理解ややりがいを感じてもらえました。対話を繰り返すことで、私たちの熱量も伝わったと思いますし、私たちも地域の方々に支えられているんだと感じました」(加藤さん)

 「タペストリーに和紙を飾る作業中、京都で計画した寸法が合わないという問題が起こりました。現場に来ないとわからないこともあると知り、アウトプットの重要性を感じました」(下田さん)

地域資源を活用した持続的な発展を

 様々な関係者が、色々な思いをもって一つの作品を作り上げた今回の永野ゼミの取り組み。人と人のつながりは、時に難しさを感じることもあるが、学生たちは地域の方々と一緒に作ったアート作品を通して、地域を盛り上げる一つの手法を学ぶことができた。地域が抱えるさまざまな課題を、地域資源を活用しながら新しい風を吹き込み、地域振興に寄与する永野ゼミの活動にこれからも注目したい。

永野ゼミのみなさん
永野ゼミのみなさん

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