新しいパワー半導体材料ルチル型GeO2 系混晶半導体の開発とバンドギャップ制御

立命館大学総合科学技術研究機構の金子健太郎教授(研究当時、京都大学大学院工学研究科 講師)、京都大学大学院工学研究科の高根倫史博士課程学生、若松岳同修士課程学生、田中勝久同教授、東京都立産業技術研究センターの太田優一副主任研究員、立命館大学理工学部の荒木努教授らの研究チームは、次世代パワー半導体材料として注目されているルチル型GeO2(r-GeO2)を中心としたルチル型酸化物半導体混晶系(GeO2-SnO2-SiO2)を新たに提案するとともに、実験と計算の両面からの本系の有用性を実証しました。

 本研究成果は、2022年8月26日(現地時刻)に米国物理学会の国際学術誌「Physical Review Materials」にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】

  • 酸化ガリウムを凌駕するr-GeO2において、混晶作製によるバンドギャップと導電性制御を行った。
  • GeO2-SnO2-SiO2による、パワー半導体応用を目指した新しい混晶系を提案した。
  • 混晶系の物理定数について実験と計算の両面から行い、デバイス設計の指標となる知見を得た。

研究成果の概要

r-GeO2は、4.7 eVもの大きなバンドギャップを持つと同時に、pn両型伝導が可能であるという理論的な予測がなされており、さらにバルク結晶の成長が可能である事から、低損失かつ高耐圧のパワーデバイスを実現する次世代パワー半導体材料として注目を集めています。本研究では、全組成範囲におけるr-GexSn1-xO2混晶薄膜の合成と物性の解析、および、第一原理計算を用いたr-GexSn1-xO2、r-GexSi1-xO2混晶のバンドアライメント解析により、GeO2-SnO2-SiO2混晶系におけるバンドギャップなどの各種物性制御を実証するとともに、r-GexSn1-xO2混晶における導電性制御の可能性、r-GexSi1-xO2混晶の障壁層としての有用性を明らかにしました。今後、パワーデバイスへの応用を目指した、r-GeO2をはじめとするルチル型酸化物半導体に関する研究・開発のさらなる発展が期待されます。

ルチル型酸化物混晶系(GeO<sub>2</sub>-SnO<sub>2</sub>-SiO<sub>2</sub>)の結晶構造と結晶における電子の移動についてのイメージ図
ルチル型酸化物混晶系(GeO2-SnO2-SiO2)の結晶構造と結晶における電子の移動についてのイメージ図

研究の背景

AlGaNやGa2O3、ダイヤモンドをはじめとする超ワイドバンドギャップ(UWBG)半導体(バンドギャップ>3.4 eV)は、極めて大きな絶縁破壊電界値を持つことから、低損失かつ高耐圧のパワーデバイスを実現する次世代半導体材料として期待されています。注1) 一方、従来のUWBG半導体では、基板が高価であること、pn両型伝導の制御が困難であることなどの問題がデバイスの開発や応用において大きな障壁となっています。その中で昨今、新規UWBG半導体としてルチル型構造注2)のGeO2(r-GeO2)が、大きな注目を集めています。その理由として、r-GeO2が、①β -Ga2O3と同程度の大きなバンドギャップ(4.7 eV)を有すること、②pn両型伝導の可能性ならびに高い電子/正孔移動度が理論的に予測されていること、③β -Ga2O3を超える熱伝導率を有すること、④安価な手法でバルク結晶が合成可能であることなどが挙げられます。加えて、2020年からr-GeO2薄膜の成長も報告されており、現在、パワーデバイス応用を目指したr-GeO2の研究が加速しています。

研究の内容

本研究では、はじめに、ヘテロ接合デバイスなどさらなる幅広いパワーデバイス応用を見据え、r-GeO2を中心とした新たな混晶注3)系(GeO2-SnO2-SiO2)を提案しました(図)。それと同時に、この混晶系の有用性を実験と理論の両面から実証することを目指しました。

まず、実験的な手法として、ミスト化学気相成長(ミストCVD)法注4)を用いた全組成範囲におけるr-GexSn1-xO2薄膜の合成と物性の解析を行いました。組成の変化によって格子定数およびバンドギャップを変調できることを明らかにするとともに、r-GexSn1-xO2混晶薄膜の各組成における格子定数とバンドギャップの値が、後述する第一原理計算から算出した値ならびに傾向と一致することを確認しました。加えて、0≤x≤0.57(x:薄膜内のGe組成)におけるn型伝導性を実証しました。

続いて、理論的な手法として、第一原理計算を用いてr-GexSn1-xO2、r-GexSi1-xO2混晶のバンドアライメント解析を行いました。r-GexSn1-xO2ではGe組成の増加、r-GexSi1-xO2混晶ではSi組成の増加によるバンドギャップの増大が予測されました。さらに、各組成における伝導帯と価電子帯の挙動から、r-GeO2ならびにGe含有量の高い組成のr-GexSn1-xO2におけるp型ドーピングの可能性、また、r-SiO2ならびにSi含有量の高い組成のr-GexSi1-xO2の障壁層注5)としての有用性が示唆されました。

図:今回提案した新規混晶系(GeO<sub>2</sub>-SnO<sub>2</sub>-SiO<sub>2</sub>)におけるバンドギャップと格子定数(a軸)の関係
図:今回提案した新規混晶系(GeO2-SnO2-SiO2)におけるバンドギャップと格子定数(a軸)の関係

社会的な意義

AlGaNやGa2O3、ダイヤモンドをはじめとする超ワイドバンドギャップ(UWBG)半導体(バンドギャップ>3.4 eV)は、極めて大きな絶縁破壊電界値を持つことから、低損失かつ高耐圧のパワーデバイスを実現する次世代半導体材料として期待されています。注1)一方、従来のUWBG半導体では、基板が高価であること、pn両型伝導の制御が困難であることなどの問題がデバイスの開発や応用において大きな障壁となっています。その中で昨今、新規UWBG半導体としてルチル型構造注2)のGeO2(r-GeO2)が、大きな注目を集めています。その理由として、r-GeO2が、①β -Ga2O3と同程度の大きなバンドギャップ(4.7 eV)を有すること、②pn両型伝導の可能性ならびに高い電子/正孔移動度が理論的に予測されていること、③β -Ga2O3を超える熱伝導率を有すること、④安価な手法でバルク結晶が合成可能であることなどが挙げられます。加えて、2020年からr-GeO2薄膜の成長も報告されており、現在、パワーデバイス応用を目指したr-GeO2の研究が加速しています。

研究者のコメント

  • GeO2薄膜の合成に続いて、混晶系作製の報告に至った事は大変嬉しく思います。長く辛い道のりになると思いますが、酸化ガリウムのように、いつか花開く事を夢見て頑張ります。(金子健太郎)
  • 今回の成果が、今後の当該分野における研究・開発の一助となれば幸いです。自分自身も、さらに精進し、今後の研究に取り組んでいきたいと思います。(高根倫史)
  • r-GeO2系混晶の報告に携わることができ嬉しく思います。今後の酸化物半導体の実用化に向けて研究に取り組んでまいります。 (若松岳)
  • 超ワイドバンドギャップを持つ新たな酸化物半導体薄膜が合成できたことは大きな成果だと考えています。今後は電気特性の向上と実用化が期待されます。(田中勝久)
  • 本研究成果は新しいp型半導体の端緒を切り開くものだと期待しています。社会実装が実現できるよう研究開発に取り組んでまいります。(太田優一)
  • 「材料を制するものは世界を制す」 新しい半導体材料の研究開発を通じて社会に貢献できるよう、これからもチームで力を合わせ、切磋琢磨していきます。(荒木努)

論文情報

論文名 Band-gap engineering of rutile-structured SnO2-GeO2-SiO2 alloy system(ルチル型構造をもつSnO2-GeO2-SiO2混晶系におけるバンドギャップ制御)
著者 Hitoshi Takane, Yuichi Ota, Takeru Wakamatsu, Tsutomu Araki, Katsuhisa Tanaka, and Kentaro Kaneko
発表雑誌 Physical Review Materials
DOI 10.1103/PhysRevMaterials.6.084604
掲載URL https://doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.6.084604

用語説明

注1:パワーデバイスとは、主に電力変換を行う半導体デバイスのことを指します。パワーデバイスにおいて、低い損失および高い耐圧(強電界印加時のデバイスの壊れにくさ)が求められますが、これらはトレードオフの関係にあります。一方で、損失と耐圧はそれぞれ絶縁破壊電界値の-3乗、3/2乗に比例するため、絶縁破壊電界値が大きな材料ほど低損失かつ高耐圧のデバイスを実現できると言えます。ここで、絶縁破壊電界値とは、絶縁破壊を起こすことなく印加できる最大の電界で、バンドギャップのおよそ1.5~2.6乗に比例する物質固有の値です。そのような背景から現在、極めて大きなバンドギャップを有するUWBG半導体が新たなパワー半導体として注目を集めています。

注2:ルチル型構造とは、正方晶系(空間群P42/mnm)に属し、陰イオンがゆがんだ六方最密充填構造をとり、その八面体位置(酸素6配位)に陽イオンが配置した構造です。ルチル型構造をとる代表的な化合物としては、光触媒や顔料・着色料として用いられるTiO2、透明導電膜やガスセンサ、ガラス被膜材として用いられるSnO2、磁気テープとして用いられるCrO2などが挙げられます。

注3:混晶とは、一般的に同じ結晶構造をもつ二種類以上の金属、半導体、絶縁体などが、ある比率で混じり合って一つの結晶を作り上げたものであり、固溶体とも呼ばれます。組成比や元素の種類を変えることにより、格子定数や電子構造(バンドギャップなど)を制御することができます。半導体デバイス分野では、13族元素と15族元素から成るIII-V族半導体(GaAs系や窒化物半導体)の混晶が発光デバイスや高周波デバイスなどに活用されています。

注4:ミストCVD法とは、化学気相成長(CVD)法の一種であり、酸化物半導体薄膜の合成などに用いられている薄膜成長手法です。前駆体を溶かした原料溶液を霧(ミスト)化し、酸素や窒素などのキャリアガスを用いて基板上に搬送することで、薄膜を合成します。主な特徴としては、水や有機溶媒に溶ける物質であれば前駆体として用いることができること、比較的低温かつ大気開放下で合成できるため、準安定相物質の合成に向いていること、装置が簡便で安価であることなどが挙げられます。

注5:障壁層とは、電子デバイスにおいて、キャリアを閉じ込めたり、分離したりするための領域です。バンドギャップやバンド端の位置が異なる材料などに用いられます。

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