カイアポイモの血糖値抑制メカニズムを解明~甘藷を食べると血糖値が下がる?!~

立命館大学生命科学部の向英里教授らの研究チームは、ブラジル原産の白甘藷であるカイアポイモが四国の一部の地域で糖尿病の民間治療薬として用いられてきたことに着目し、 富士産業株式会社との共同研究でカイアポイモの血糖値に対する効果を研究しました。その結果、カイアポイモが食後血糖値上昇を抑制することを明らかにし、 その有効成分や血糖値抑制メカニズムについても示しました。本研究成果は、2023 年3 月23 日に米科学雑誌「Heliyon」へ掲載されました。

ポイント

  • 食事前にカイアポイモを摂取することで食後血糖値上昇を抑えることができる
  • 食べ続けることで血糖値を抑えることは以前から知られていたが、急性的な効果は初めて示された
  • カイアポイモがもつ複数の血糖値抑制メカニズムを解明した

研究成果の概要

カイアポイモを食べ続けることで糖尿病が改善することは以前から知られていたが、その血糖値制御メカニズムは長らく不明でした。 そこで今回、カイアポイモの血糖値制御を解明するために、カイアポイモの単回摂取による血糖値変動を調べました。 カイアポイモ粉末の懸濁液を摂取すると、食後の血糖値上昇が抑制された。 その効果は膵臓からのインスリン分泌ではなく肝臓や筋肉でのインスリン感受性の亢進によるものでした。 また、そのインスリン感受性を亢進する成分は、カイアポイモ粉末に含まれる10000 以下の分子量をもつ物質であることが明らかとなりました。 さらに、50000 以上の分子量をもつ物質は食後ではなく空腹時の肝臓からの糖の放出を抑制することも明らかとなりました。

研究の背景

糖尿病患者は年々増え続けており、世界レベルで考えなければならない大きな問題です。 2021 年では5 億3700 万人の成人患者数であるが、2030 年には6 億4300 万人、2045 年には7 億8300 万人になると予想されています。 糖尿病は食事や運動などの生活習慣に大きく影響される。糖尿病になる前には食後高血糖がみられることから、食後高血糖を防ぐことは糖尿病発症の予防につながる。 したがって、食後高血糖を抑える食事方法や食品を明らかにすることが期待されている。

研究の内容

カイアポイモの長期摂取による効果はこれまでにもみられていたが、単回摂取による急性的な血糖値上昇抑制効果を示したのは今回が初めてである。 また重要なのは、それが糖尿病動物ではなく健常動物においてみられたことだ。 さらに、カイアポイモの有効成分についてもほとんど報告がなかったが、今回その有効成分は10000 以下の分子量をもつ物質であることが明らかとなった。 さらに50000 以上の分子量をもつ物質は空腹時の血糖値を抑える可能性があることも示された。 普通の甘藷(サツマイモ)ではこのような明らかな効果は認められないことから、カイアポイモには血糖値を制御する複数の成分が含まれており、それらが総合的に効果を発揮していると考えられる。

図1 カイアポイモによる血糖値制御

社会的な意義

生活習慣の改善が糖尿病の悪化防止や予防に重要であることは周知の事実であるが、その対策として運動を行うことより食事を工夫することの方が日々の生活に取り入れやすい。 今回の研究でカイアポイモの血糖値抑制効果が明らかになったことから、糖尿病予防に有効な機能性食品として開発が進み、サプリメントなどで広く普及されることが期待される。

論文情報

  • 論文名: White-skinned sweet potato (Ipomoea batatas L.) acutely suppresses postprandial blood glucose elevation by improving insulin sensitivity in normal rats
  • 著者: Akito Kinoshita, Takuma Nagata, Futoshi Furuya, Mikio Nishizawa, Eri Mukai
  • 発表雑誌: Heliyon
  • 掲載日: 2023年3 月23 日(木)(日本時間)
  • 掲載URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844023019266
  • DOI: 10.1016/j.heliyon.2023.e014719

用語説明

カイアポイモ:ブラジルのミナス・ゼライス州カイアポ山地が原産地とされる芋で、 その発見者の息子の名前をとってシモン芋とも呼ばれている。また、その白い外観や果肉の白さから白甘藷とも呼ばれている。 一般的なサツマイモに比べ、ビタミン類やミネラルの含有量が異常に多く含まれ、健康食品として注目されている。

単回摂取:通常、食品や栄養素の効果は食餌や飲料水に混ぜ長期的に与える検討をすることが多いが、 今回の検討は一回の経口投与で行っている。すなわち急性的な効果をもつかどうかの検討になる。

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