地域を診る専門医

2019.01.24 TOPICS

地域を診る専門医  地域包括ケアセンターいぶき副センター長・医師 臼井 恒仁さん(1994年理工学部卒)

 「専門は地域医療です」と答えるのは、医師の臼井恒仁さん。現在、滋賀県米原市にある「地域包括ケアセンターいぶき」で副センター長を務める。地域包括ケアセンターいぶきでは、地域の高齢者の相談や地域の支援体制づくり、介護予防など高齢者の保健医療の向上と福祉の増進を包括的に支援することを目的としている。臼井さんは同センター内の総合診療所で外来を担当するほか、出張診療所での診察、患者宅への訪問診療、学校の健診や産業医としての活動、他職種と連携し介護予防や健康づくりなどに関わる。「地域医療の専門医制度はないのですが、僕は臓器や疾患別の診療科というよりも、地域全体とその地で暮らすお一人おひとりの専門医でありたいと思っています」と穏やかに話す。 「臼井君、今からお医者さんになって。一緒に地域医療をしようよ」。人と関わる仕事をしたいと地元・岐阜県の保健師と理学療法士に話を聞きに行った3回生の終わりがけのとき、そう誘われた。「2人の熱意が伝わってきて、“地域医療”はきっと素敵なものに違いないと思い、医師になる決意をしました」。そのことを同級生に相談したところ、「絶対なれるからがんばれ!」と背中を押してくれたという。 「仲間の応援がなければ、医師になっていなかった。立命館に通ったからこそ、今、ここに辿り着けたのです」。

 臼井さんは、地域医療を目指す学生や研修医の指導も担当する。病院の研修を終えた研修医から「ここは患者 さんとの距離が近い」と言われることが多い。「診察や薬の処方など医者の役割も大切だけど、その方が笑顔にな るために、それが一番大事かというと必ずしもそうではなくて……。病院は病気を治すところで、ここは病気をケアしながら、一緒に元気になってもらうところだと僕は思っています」。そう話す臼井さんは、昨年、過疎地での医療に励む医師を表彰する「やぶ医者大賞」に選ばれた。「『やぶ医者』とは、本来『名医』を指していたようですが、僕にとってやぶ医者とは、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』のデクノボーのように、東へ西へと奔走し、目の前の患者さんのために誠心誠意を尽くすお医者さんというイメージだったので、選ばれてうれしかったです。でも、立派なお医者さんのように紹介されてしまって、なんだか恐縮です」と照れて笑う。「患者さんが笑顔になるなら、僕ができることは何でもしたいと思っています。寝たきりでコミュニケーションをとることが難しい患者さんに向けて歌を歌うこともあるのですが、聴いているうちに患者さんの表情が緩むことや、一緒に歌おうとしてか口が動くように見えることもあります。その様子をご家族もにこにこと見守ってくださっていて。そんな温かい時間を大切にしていきたいです」。
 健やかに、穏やかに、しなやかに。その人らしく生き生きと元気に過ごしてもらいたい――。そう願いながら、臼井さんは地域の人たちの笑顔や生活を診守っていく。

出典元:校友会報「りつめい」No.274 (2018年10月号)
写真撮影:津久井 珠美

PROFILE

臼井 恒仁さん
1994年理工学部卒
地域包括ケアセンターいぶき副センター長・医師

立命館大学在学中は「人形劇団ふうせんのり」に所属。市内の幼稚園・保育園で人形劇や紙芝居のボランティア活動を行う。2002年に岐阜大学医学部を卒業。神奈川県横須賀市立うわまち病院や沖縄県立南部医療センター・こども医療センター附属座間味診療所での勤務を経て、現職。2017年、過疎地での医療に励む医師を表彰する「やぶ医者大賞」(兵庫県養父市主催)に選ばれた。 ▶地域包括ケアセンターいぶきホームページ

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