パワー半導体材料SiC(炭化ケイ素)の 研磨効率を大幅に向上させる技術を開発
立命館大学理工学部機械工学科 2020年度卒業生 Che Nor Syahirah Binti Che Zulkifle さん、理工学研究科博士課程前期課程機械システム専攻 2回生の巴山顕真さん、および村田順二准教授の研究グループは、パワー半導体材料であるSiC(炭化ケイ素)の高効率研磨技術の開発に成功しました。本研究成果は、2021年11月6日にElsevier社の「Diamond and Related Materials」に掲載されました。
本件のポイント
〇 パワー半導体材料SiCの研磨効率を約10倍(※)に向上させる加工技術を新たに開発
〇 従来技術と比べて、より短い時間で1ナノメートル以下の優れた表面粗さを達成可能
〇 薬液を必要としない研磨液により環境負荷を低減
※従来法の化学機械研磨と同等の加工条件での比較
研究の背景
SiCは、従来のSi(シリコン)を上回る物性を有する半導体材料であり、高電圧・大電流を扱うパワー半導体素子の高性能化に向けた研究が国内外で進められています。その優れた特性から、電気自動車や鉄道車両等に搭載される電力制御装置などへの応用が進められています。しかし、SiCはダイヤモンドに次いで硬い材料であり、さらに、高い耐熱性・耐薬品性を有することから、従来の半導体材料よりも加工が難しい材料です。特に、パワー半導体としての性能を左右する研磨加工では、高品位な表面状態を得るために長時間にわたる加工が必要でした。そのため、SiCやこれを利用した素子の高コスト化の一因となっており、高効率化を実現する新たな研磨技術の開発が求められて います。
研究内容
研究グループでは、電気分解(電解)によってSiCの表面が変質することを利用した研磨法に着目しました。この方法では、まず、SiCを電解によって酸化膜に変化させます。その酸化膜はSiCより軟らかいガラスと似た成分であり、これは研磨粒子によって容易に除去できます。SiCの酸化と除去を繰り返すことで平滑なSiC表面が得られます(図1)。
電解を利用した加工法では、通常、電解液とよばれる薬液が必要となりますが、研究グループは、高分子電解質という特殊な膜が、電解液の代わりに使用できることを見出しました。これにより、薬液を使用せず、水と研磨材粒子だけでSiCの研磨が可能であることを明らかにしました。新たに開発した研磨法を、SiC基板の平滑化に適用したところ、およそ10µm/h(マイクロメートル毎時)の研磨効率が得られました。これは、従来法の化学機械研磨と同等の加工条件で比較して、約10倍の研磨効率となります。また、約10分間の研磨でSiCの表面粗さを約50ナノメートルから1ナノメートル以下にまで低減でき、研磨傷のない表面が得られることがわかりました(図2)。一方で、電気分解を行わずに研磨を行ったところ、表面粗さはほとんど変化しなかったことから、本技術の優位性が明らかとなりました。
社会的なインパクトについて
SiCを利用したパワー半導体素子は、従来のSiに比べて、省電力化や小型化が可能とされ、電気自動車などカーボンニュートラルを実現する機器への搭載が進められています。しかし、材料や機器の製造コストが高いことが飛躍的な普及の妨げになっています。本研究成果は、SiC基板の研磨加工における加工効率を向上するものであり、短い加工時間で優れた表面精度を達成できることから、SiC基板の製造コスト低減に繋がると期待されます。また、SiCの研磨で従来使用されている薬液を必要としないことや、研磨材の使用量も低減できることから、環境負荷の低減も期待できます。
論文情報
- 論文名:High-efficiency wafer-scale finishing of 4H-SiC(0001) surface using chemical-free electrochemical mechanical method with a solid polymer electrolyte
- 著者:Che Nor Syahirah Binti Che Zulkifle1 , Kenshin Hayama2 , Junji Murata1
- 所属:1 立命館大学 理工学部、2 立命館大学大学院 理工学研究科
- 発表雑誌:Diamond and Related Materials (Elsevier), In Press
- 掲載日時:2021年11月6日
- DOI:https://doi.org/10.1016/j.diamond.2021.108700