多国間連携型高等教育モデルの新しい形(Campus Asia)
日中韓キャンパスアジア・プログラム(1) 文学部 廣澤裕介准教授
東アジアに新風を吹き込む
立命館大学は、これまでさまざまな新しい海外研修プログラムに取り組んできました。そのなかのひとつ、2016年4月から文学部で始まった新しい「日中韓キャンパスアジア・プログラム」について紹介します(全2回)。この取り組みは東アジアの現地型海外学習プログラムとして画期的なもので、学生が4年をかけて本学、広東外語外貿大学(中国・広州)、東西大学校(韓国・釜山)の3つのキャンパスを移動しながら、中国語と朝鮮語(韓国語)の2カ国語を習得し、日中韓3カ国の歴史や文化、社会などを現地で学んでいくものです。2012年度から文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」としてパイロットプログラム(以下、パイロット)が始まり、昨年度末に10人が卒業。この春から文学部の常設化プログラムとして新しいスタートを切りました。第1回目の今回は、3カ国の担当教員である文学部の廣澤裕介准教授、東西大学校(以下、東西大)のジェ・ジョムスク先生、広東外語外貿大学(以下、広外大)のタン・レンアン先生にパイロットの感想、進化したプログラムの特徴や今後の展開などについてお話をうかがいました。
3カ国が共通の趣旨に基づき開発したプログラムを共同で運営
東アジアの仲間と一緒に暮らし一緒に学ぶ
―他の国際・留学プログラムと異なる点、本プログラムならではの特徴についてお聞かせください
廣澤 一般的な交換留学では学生たちは基本的に留学先が用意した既存のプログラムを受講しますが、本プログラムでは、3大学の共通テーマ「東アジア人文学リーダーの育成」に基づいてカリキュラムを作っています。2・3回生で行う「移動キャンパス」では、中国と韓国に1セメスターごとに2回ずつ留学し、広外大では韓国のプログラム学生と、東西大では中国の学生と共同生活をします。同じ目標を持つ海外の仲間が同じ教室・宿舎にいるため、日常的な環境で実践的な語学力が身に付き、一般的な学生が、2つの言語で海外の友人たちと円滑なコミュニケーションができるまで相当な努力と苦労が必要になるのとは環境面からして大きく異なります。また、英語ベースの留学ではなく、大学から始める2カ国語を現地型で学ぶという点も他にはないものです。
ジェ 3カ国のキャンパスを回り、各国の学生たちが共に生活し学びを深める環境が整っているのが本プログラムのポイントです。ひとつの大学単独でグローバルな人材を育成するのは容易ではありません。3つの大学が共同してできるこの恵まれた環境をフルに生かし、国と国を結び付ける重要な役割を果たす人材に育ってほしいと考えています。
また、パイロットでは、3カ国の学生30人が揃ってキャンパスを移動していたので、そのなかでの絆は非常に強いものになりました。常設化プログラムでは学びのシステムが変更になり、中国では日・韓、日本では韓・中の学生が共に生活し、それぞれ現地の一般学生と交流することで学びの輪が広がり、そこで得たネットワークが将来もきっと役立つと信じています。プログラム運営に伴い、教職員の人的交流も増え、広報活動での協力などは相手国における各大学の知名度を高めるなど、副次的なメリットも生まれました。
タン プログラムを通じ学生に期待している点は3つあります。1つは優れた語学力を身に付けること。2つ目が、各国の文化を理解し、強靭な思考力、そして教養を身に付けること。そして3つ目が、東アジアから世界へと向かう視野を磨くこと。広外大からの参加者の多くが、日本や韓国の文化に興味を持つ学生、現地で就職を希望する学生、身に付けた語学力を活かして世界で活躍したいと考える学生です。3カ国の連携が今後も深まっていくと見られるなか、学部生レベルで学びと交流を深める点が大きな特徴ではないでしょうか。
深い相互理解に基づく信頼関係
異文化間調整力を磨く
―今春修了生を送り出したパイロット版を終えての評価、総評をお願いします
廣澤 とにかく学生たちの仲がいい。「移動キャンパス」では、毎日顔を合わせていたので、いろいろなことがあったでしょうが、それを越えてとても仲がいい。SNSでの近況報告などはいうまでもなく、特に距離が近い韓国と日本の学生は休暇期間に相互に行き来して、ますます関係が深まっています。
語学学習の効果に関しても、各種検定の上級レベル*で、しかも中韓の仲間と生活しながら覚えたもので、聞き取りや会話は検定試験などで測りきれないものがあります。
学生が一番成長した点は「異文化間調整力」です。上手に自分の意見を認めさせ、また上手に相手の意見を取り入れ、融合させていました。3カ国の学生が混在するグループ作業でも、どこから始め、どの時期にどこまで作り、最終的にどうまとめるか、相手の考え方や重視しているポイントを見極め、その判断、行動が徐々に迅速かつ合理的になっていました。文化や習慣の違いを受け入れ、対立を前提とした上での議論を通じ、精神的にもかなりたくましくなりました。これらは実際に社会に出ても重要な部分であり、語学力などと合わせ学生自身の強みになると思います。
そうした学生の成長、それを促したプログラムの教育や運営などが認められ、文部科学省の中間評価でもS評価をいただき、卒業後の進路もグローバル企業や海外での日本語教員など活躍の場が広がっています。
―パイロット版からの進化した点や今後の展開などについて教えてください
ジェ パイロットでは人文学専攻の学生ばかりでしたが、新プログラムではデザイン、建築、映画など、多様な学生が参加しています。パイロットでは入学時に日本語、中国語ができる学生が3人おり、卒業時にはそれぞれの語学検定などで全員が最高レベルに達し、合わせて英語も上達しました。今年から、立命館大学や広外大から来ている大学院生がTAとして学生のサポートをし、彼らと共同生活をして日常生活でも外国語を学べる環境を作っています。
今後は、キャンパスアジア・プログラムに合わせた新たな学科の新設も視野に入れています。また、プログラム修了生が十分に能力を発揮できる進路先の開拓など、3大学間の協力の幅をさらに広めていきたいと思います。
タン プログラムの常設化を機に大学内に東アジアの研究拠点を作る準備を始め、来年度以降に「中日韓研究センター(仮称)」を開設する予定です。そのなかに研究所、教育センター、社会サービスのそれぞれの機関を設けるなど、東アジアの発展に向け幅広い展開を考えています。
廣澤 新プログラムの参加者は、AO入試や推薦入試、一般入試などの合格者、所属も東アジア研究学域、国際文化学域、コミュニケーション学域と、幅広いメンバーです。そのAO入試は、中国語と韓国語の既習者を対象にしたもので、高校時代から東アジアの言語を学ぶ生徒やその先生からも「目標や選択肢のひとつになった」などの声が聞かれました。これにより、英語以外の外国語で、「高校→大学→留学」とつながる、長期的、段階的学習の橋渡しが可能になりました。将来はアジアを舞台に働きたいと望む高校生には格好のプラットフォームになるのではないでしょうか。
今後は、本プログラムの教育効果などを多言語教育や国際教育などアカデミックな視点で研究・分析を進めていく予定です。高等教育のあり方も大きな変化の時期を迎えています。専門的な知見を踏まえた3カ国共同の「高等教育の国際モデル」として広く内外に提唱し、波及効果を生み出していければと考えています。
来春には、中韓の学生が本学で学びます。彼らの学びや生活を支援するサポートリーダー組織を立ち上げ、さらに来春からはキャンパスアジア・カフェ(衣笠、啓明館1階)をランゲージエクスチェンジの場として提供する予定です。さまざまな学生が共に学び、交流を深めることで学内の国際化がますます浸透していき、そのなかで培った力を社会に出たあとに、職場や地域コミュニティー、国際的な環境の中で発揮してくれることを期待します。このプログラムにさまざまな学生がつながることで、立命館大学が基点の1つとなる、東アジアの次世代を担う若者たちの輪が大きく発展していくと思います。
*パイロットでは入学時に中国語・朝鮮語の学習暦のない学生がほとんどで、4年間でHSK(中国語)、TOPIK(朝鮮語)などの各語学検定で上級レベルを取得。中国、韓国の学生たちも日本語能力検定試験JLPT(N1)などで、それぞれ同様の成果が見られた。
第2回https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=247