スポーツの現場と研究をつなぎ、スポーツがもつ価値を高めたい

2022.05.09 TOPICS

スポーツの現場と研究をつなぎ、スポーツがもつ価値を高めたい  和田由佳子・スポーツ健康科学部講師の研究と新たな挑戦

 ジャパンラグビーリーグワン DIVISION1に所属する「静岡ブルーレヴズ/SHIZUOKA BlueRevs」を運営する「静岡ブルーレヴズ株式会社」の社外取締役に立命館大学スポーツ健康科学部の和田由佳子講師が2022年1月1日付で就任した。スポーツマーケティングやスポーツビジネスを専門とし、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会(以下「日本協会」)の評議員も務めている和田講師は、理論をスポーツビジネス最前線で体現し、地域に愛されるスポーツチーム作りに取り組んでいる。
 小学校から大学まで女子校で過ごし、スポーツやラグビーという言葉とは縁遠い環境で育った和田講師が、なぜ、研究者としてスポーツの価値を高める活動に奮闘しているのか。

和田由佳子・スポーツ健康科学部講師
和田由佳子・スポーツ健康科学部講師

関西ラグビー協会の会長との出会い

 小学校から大学まで女子校で過ごし、もともとスポーツとは無縁の世界で生きてきた和田講師。大学を卒業した時期は、いわゆる就職氷河期の時代で、就活は思うように進まなかった。
「なんとか入社した企業で1年ほど働いていたある日、会長に呼ばれ『僕の秘書にならないか』とお誘いを受けたました。勤務していた会社の会長は関西ラグビーフットボール協会の会長(日本協会副会長)職にも就いており、その流れで秘書としてスポーツに関わることになりました。前任の秘書から引き継いだことの1つに『会議中でもラグビー関係者からの電話は必ず引き継ぐように』というものがあったことを覚えています」(和田講師、以下同じ)
「『そんなに大事なラグビーって一体どんなものだろう』と、一人で試合を見に行くってみたがよくわからず、3度目の試合観戦に行く際、『会長、一緒に試合に連れて行ってください』と言ってみました。そこから約7年間、会長が出席する国内外のラグビーの試合にはほぼすべて同行することになり、さまざまなラグビー関係者と直接お話をする機会に恵まれました」

 日本のスポーツ界は、1990年後半から2000年初頭にかけて、企業が保有するスポーツチームを休廃部にする流れが起こっていた。
「複数のラグビー部も休廃部の対象となり、企業にラグビー部の存続を願い出る会長に同行した際、耳にしたのは『チームを保有する意義が薄れている』『他の社員に示しがつかない』というもの。企業の経営悪化だけが休廃部の原因ではないんですよね。試合に勝つだけでは、企業がチームや選手を評価できないことを実感しました」

 秘書を務めていた会長が協会長を引退するのに合わせて、ラグビーからはいったん離れた。時を同じくして、プロ野球の大阪近鉄バファローズが2004年のシーズンを最後に事実上消滅した。
「ラグビーよりも人気があると思っていたプロ野球チームですら存続できないことに驚いたことを覚えています。その後まもなく、ご縁があって大阪近鉄バファローズの最後の監督であった梨田昌孝さんが起業した事務所に誘っていただきました。変革期を迎えたプロ野球界において、梨田さんが北海道日本ハムファイターズや、東北楽天ゴールデンイーグルスといった地域密着を掲げるプロ野球チームの監督を歴任されたことは、社会や地域におけるプロスポーツチームの存在意義を考えるきっかけになりました」

「なぜこんなことが起きるの?」現場で抱いた疑問を解決したいと思い、研究の道へ

 なぜこんなことが起こるの?という疑問を、ラグビーやプロ野球の世界で経験した和田講師。その疑問を解決したいと思って、スポーツマネジメントを学ぶために、仕事をしながら立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科の大学院生になり修士号を取得したそうだ。その後、引き続き梨田さんがわがままをきいてくださったこともあり、早稲田大学で博士号を取得するに至った。

「スポーツの現場は、これまで手探りで進められ感覚的な経験値で語られてきたことが多く、理論ベースで物事を整理して、実践することが少ないんです。現場にはどんな人材が必要かと問われたら、“即戦力”と答えるチームが多く、まだ組織の中で人を育てる余裕もない。目の前の試合に人を集め、スタジアムをとにかく満員にすることが優先され、検証などは二の次です。だから、私の使命は、研究から導いた成果をスポーツビジネスの現場に落とし込むとともに、現場での潜在的な課題を見つけ、学術的にも新たな知見をもたらすことだと思っています。そのためには、現場の方々との信頼関係やコミュニケーションはもちろん大事ですし、学生たちも巻き込みながら、研究とスポーツビジネスの現場との橋渡しを担っていきたいと考えています」

静岡ブルーレヴズ社外取締役としてできること

 和田講師が静岡ブルーレヴズの社外取締役になるきっかけは、立命館大学とヤマハ発動機株式会社とが連携して取り組む共同研究「感動(KANDO)を科学する」に、ブランディンググループのグループリーダーになったことが関係している。

「共同研究のミーティングで、ヤマハ発動機の柳弘之取締役会長(当時)に初めてお会いして、緊張感の中、唯一自らできる話題がラグビーでした。その後、柳会長からお電話をいただいて、ヤマハ発動機のラグビー部を独立させ(100%出資会社)チームを作るので、社外取締役としてチームをサポートしてほしいと打診がありました」
「世界一のプロラグビークラブになるというビジョンを掲げる静岡ブルーレヴズは、日本のスポーツ界の新たなモデルになる可能性を感じています。そこには、静岡という地域も要素の1つ。2019ラグビーワールドカップの試合開催地そして合宿地として世界最高峰のラグビーチームを迎え入れた経験や設備があり、観光資源がある。新幹線で首都圏や関西圏からのアクセスも容易です。地域メディアを持ち、何よりサポートする企業そのものが地域に根差していています。私自身がどういった貢献をしていくのかはまだまだ模索しながらですが、しっかりと役割を果たしていきたいです」

大漁旗に魅せられて

 静岡ブルーレヴズのホームゲームでは、ヤマハ発動機ジュビロ時代から受け継がれる伝統の応援アイテム「大漁旗」が選手入場の花道を飾る。選手が在籍するヤマハ発動機の従業員の皆さんが有志で制作した、思いのこもった大漁旗が、選手をピッチで迎えるそうだ。選手一人一人の名前が入った大漁旗は選手が“社員に認められた証”。長い歴史の中で、企業スポーツとしてのラグビー部を取り巻く環境は時代とともに変わってきたが、チームもまた挑戦を繰り返しながら自らの価値を高めていく必要があるだろう。

「この街にブルーレヴズがあってよかった、過去も含めわが社にラグビー部があってよかったというチーム作り・組織づくりに貢献できればうれしいですよね」

 スポーツの現場と研究をつなぎ、スポーツがもつ価値を高めるために取り組む、和田講師の挑戦に目が離せない。

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