【本研究のポイント】

  • 高エネルギー密度で長寿命のコバルト・ニッケルフリーの電池材料の発見
  • 高フッ素含有Li過剰型Mn系酸フッ化物材料の合成に世界で初めて成功
  • 濃厚電解液を用いることで電圧低下の抑制と実用的な長寿命作動を実現

研究成果の概要

 横浜国立大学 藪内直明教授、パナソニック エナジー株式会社 研究開発センター、立命館大学らの研究グループは、新しいリチウム過剰型マンガン系酸フッ化物酸化物材料を開発し、本材料がコバルト・ニッケルフリーでありながら、高エネルギー密度・長寿命の電池正極材料となることを発見しました。 これまで、酸フッ化物材料は電解液に溶けやすいためサイクル寿命に課題がありましたが、濃厚電解液と組み合わせることで特性が劣化しないことも見出しました。これはリチウムイオン蓄電池の高性能化・低コスト化の両立実現に繋がる研究成果です。
 本研究成果は、米国の科学雑誌 「ACS Energy Letters誌」(インパクトファクター 23.991 ) に2023年5月25日にオンラインで掲載されました。

研究成果と社会的な背景

 世界的に脱炭素社会実現への動きが加速しており、電気自動車などに用いられているリチウムイオン蓄電池の市場が急拡大している。同電池のさらなる高エネルギー密度化と低コスト化を目指して、世界中で活発な研究開発競争が行われている。近年、電気自動車の販売台数が世界中で増えているが、電気自動車の価格低下を実現するためにはリチウムイオン電池のさらなる高性能化・低コスト化の両立が求められている。現状、欧米や日本で販売されている電気自動車では少量のコバルトを含むニッケル系層状酸化物が正極材料として広く用いられている。一方、電気自動車の販売台数が急増加している中国ではエネルギー密度がニッケル系層状酸化物と比較して低いものの、低価格な鉄系材料が電池正極材料として広く採用されており、欧州でも市場拡大が進んでいる。高エネルギー密度と低価格を両立する電池材料は電気自動車の低価格化とさらなる市場拡大に不可欠な存在である。 近年、電気自動車用途でニッケルの需要が急拡大していることから、世界的なニッケル資源獲得競争が激化しており、ニッケル系材料と同等以上の性能でありながら、鉄系材料と同等のコストを実現する材料の開発が求められていた。
 本研究成果はグループが独自に開発した岩塩型構造を有するリチウム過剰マンガン系酸フッ化物正極材(Li2MnO1.5F1.5) に関するものであり、鉄と同様に資源埋蔵量が豊富で安価なマンガンを利用することで、コバルト・ニッケルフリーの構成でありながら、従来ニッケル系層状材料と同程度のエネルギー密度を実現することに成功している。 一方で、マンガン系酸フッ化物材料は電解液に溶出するため、サイクル寿命の向上が課題であった。本研究成果では電解液としてリチウム塩濃度が高い、濃厚電解液を利用することで電池材料の電解液への溶解を抑制できることを見出し、高エネルギー密度と優れた寿命特性の両立に世界で初めて成功している。また、電池材料としての特性は鉄系材料を大きく超えるものであり、マンガンの多電子酸化還元反応により優れた電池特性を実現していることを立命館大学のSRセンターにおける実験によって明らかにしている。

今後の展開

 これまで、フッ素を含まないリチウム過剰型マンガン系酸化物 (Li2MnO3) 系材料が高エネルギー密度の電池材料として広く研究されてきた。しかし、同材料は充放電時に酸素が酸化された結果として酸素分子として脱離するため、充放電時に電圧が低下する、という問題が知られていた。 高濃度のフッ素を含有させたリチウム過剰型マンガン系酸フッ化物(Li2MnO1.5F1.5)ではマンガン酸化数の低減効果により酸素が酸化されないため、高エネルギー密度でありながら電圧低下も生じないことが確認された。 本研究ではコバルト・ニッケルフリーの材料を用いても高エネルギー密度化と低コスト化の両立が可能であり、サイクル寿命に優れた実用的な電池材料として使える可能性を初めて立証した。今後の研究の進展により、鉄系材料と同程度のコストで、より高性能な実用的マンガン系材料を用いたリチウムイオン蓄電池の誕生が期待できる。 本研究は横浜国立大学、パナソニック エナジー株式会社、立命館大学の産学連携共同研究成果である。

横浜国立大学・パナソニック エナジー (株)・立命館大学の研究グループにおけるリチウム過剰型マンガン系酸フッ化物に関する研究成果の概要図
横浜国立大学・パナソニック エナジー株式会社・立命館大学の研究グループにおけるリチウム過剰型マンガン系酸フッ化物に関する研究成果の概要図

論文情報

  • 論文名: Durable Manganese-Based Li-Excess Electrode Material without Voltage Decay: Metastable and Nanosized Li2MnO1.5F1.5
  • 著者: Asuka Kanno(横浜国立大学理工学部 化学・生命系学科), Yosuke Ugata(横浜国立大学 大学院工学研究院), Issei Ikeuchi(パナソニック エナジー株式会社), Mitsuhiro Hibino(パナソニック エナジー株式会社), Kensuke Nakura(パナソニック エナジー株式会社), Yuka Miyaoka(横浜国立大学 理工学部化学・生命系学科), Izuru Kawamura(横浜国立大学 大学院工学研究院), Daisuke Shibata(立命館大学 総合科学技術研究機構), Toshiaki Ohta(立命館大学 総合科学技術研究機構), Naoaki Yabuuchi(横浜国立大学 大学院工学研究院)
  • 発表雑誌: ACS Energy Letters
  • 掲載日: 2023年5月25日 オンラインで掲載
  • DOI: 10.1021/acsenergylett.3c00372
  • 掲載URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsenergylett.3c00372

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