立命館大学理工学部の木内真人助教、千葉工業大学惑星探査研究センターの岡本尚也研究員、東北大学大学院理学研究科の長足友哉研究員、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の長谷川直主任研究開発員、 神戸大学大学院理学研究科の中村昭子准教授と山口祐香理さん(博士前期課程)の研究チームは、低重力下で超高速度衝突実験を行える装置を開発しました。 加えて、乾燥した粒状物質への超高速度衝突によって形成されるクレーター直径に対して、重力と標的粘着力の影響が逆転する領域を初めて実験的に観察しました。 本研究成果は、2023年7月5日13時(日本時間)に、米科学雑誌「Icarus」に掲載されました。

【本研究のポイント】

  • 地球重力よりも低い重力下で超高速度衝突実験を行える装置を開発した。
  • 様々な粒状物質への超高速度衝突実験を行った結果、クレーター直径に対して重力が影響する領域と標的粒子層の粘着力※1が影響する領域がそれぞれ観察された。
  • 本研究結果は、小惑星表層のような微小重力下での衝突現象の詳細な理解につながることが期待される。

研究成果の概要

 本研究では、地球重力の0.04~0.07倍の重力条件を模擬し、かつ秒速数kmの超高速度衝突実験を行える実験装置を開発しました。本装置を用いて、様々な粒状物質に対して低重力下での超高速度衝突実験を行った結果、粒径が大きい標的試料ではクレーター形成において重力の影響が支配的であるのに対し、粒径が小さい標的試料では粘着力の影響が支配的となることが明らかとなりました。重力と粘着力の影響が逆転する領域を実験的に観察し、その境界条件を定量的に決定しました。

研究の背景

 小惑星や彗星などの小天体には太陽系形成初期の情報が保存されているため、小天体の形成過程や進化史を理解することは太陽系の歴史を紐解くことに繋がります。 小天体を含む太陽系天体の表面では外部天体の超高速度衝突(秒速数km~数10km)が継続的に起こっており、表面地形の変化や物質の混合、天体破壊などが引き起こされます。
 このような宇宙空間で起こる衝突現象を理解するために、室内実験や数値計算をもとにした多くの研究が行われてきましたが、重力が衝突現象に与える影響については詳しく理解されていません。 その理由として、異なる重力下で衝突実験を行える施設が世界的に見てもほとんどなく、重力の効果について調べた実験例が限られていることが挙げられます。 小惑星表面は地球と比べて微小な重力環境であるため、小惑星表層での衝突現象を理解するには「低重力下での超高速度衝突実験データ」を数多く取得する必要性がありました。

研究の内容

 今回、研究チームは低重力条件を模擬できる小型の落下システムを開発し、宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所の超高速度衝突実験施設内に設置することで低重力下での超高速度衝突実験を行いました(図1)。 実験チャンバー内に設置された標的容器が落下中(つまり標的にはたらく重力が模擬的に小さくなっている間)に弾丸を衝突させる仕組みです。標的にはたらく重力※2は0.04~0.07Gの範囲に収まりました(1Gは地球表面での重力とする)。

図1 低重力実験装置のセットアップ

図2 高速度カメラで撮影した低重力下でのクレーター画像の一例

図3 最終クレーター直径と重力加速度の関係

 標的試料には一般的な砂(粒径:~425μm)、微小ガラスビーズ(粒径:~44μm)、アルミナ粒子(粒径:~40μm)、ガラスビーズ(粒径:~220μm)の4種類を用いました。 直径1mmのガラス球弾丸を秒速1.2kmで低重力下および1G下で衝突させ、クレーターの形成過程を高速度カメラで観察しました。 実験はすべて真空下(約500Pa)で行いました。高速度カメラで撮影した低重力下でのクレーター画像の一例を図2に示します。
 図3に示した実験結果より、砂やガラスビーズ標的では、重力が小さい方がクレーター直径が明らかに大きくなっていることがわかります。 一方、微小ガラスビーズやアルミナ標的では、クレーター直径に対する重力の影響があまり見られません。 粒状物質が標的の場合は地球上では「重力に逆らって」クレーターが形成されるのが一般的であり、砂やガラスビーズ標的の実験結果でクレーター直径に重力の影響が見られたのはそのためです。 しかし、粒径が細かい粒子(微小ガラスビーズとアルミナ)の標的で重力の影響が小さいのは、粒子層の粘着力が影響しているからだと考えられます。 粒径が小さい粒子層の方が粘着力が強くなることが知られており、これらの標的の低重力下では「粘着力に打ち勝つように」クレーターが形成されたことを実験結果は示唆しています。 乾燥した粒子層において、このように重力と粘着力の影響が逆転する領域を実験的に観察したのは我々の研究が初めてとなります。 地球よりも小さい重力環境を模擬し、かつ粘着力の大きい標的試料を用いたことにより、上記の実験結果を得ることを可能としました。 実際の小惑星表面の大部分は粒子層で覆われていますが、重力が微小な小惑星表層で形成されるクレーターサイズは粒子層の粘着力に依存する可能性があります。 本研究成果は、地球とは異なる重力下でのクレーター形成メカニズムの理解を進歩させることが期待されます。

社会的な意義

 太陽系小天体が太陽系形成初期の情報を持つことから、近年小天体の直接探査が日本を含め世界各国で活発に行われています。 本研究のような地上実験データと直接探査で得られたデータを組み合わせることで、小天体および太陽系の形成過程の研究が進展することが期待されます。 また、地球への小天体の衝突を回避する手段として、宇宙機を小天体に衝突させることで小天体の軌道を変化させる方法が近年検討されていますが、この点においても重力が衝突現象に与える影響の理解が不可欠です。 加えて、本研究は地球とは異なる重力環境下での粒子層のふるまいにも関わるテーマであり、探査機の着陸ミッションや将来的な宇宙インフラの整備などにおいても知見を与えるような進展を展望しています。

論文情報

  • 論文名: Impact experiments on granular materials under low gravity: Effects of cohesive strength, internal friction, and porosity of particle layers on crater size
  • 著者: Masato Kiuchi(立命館大学理工学部), Takaya Okamoto(千葉工業大学惑星探査研究センター), Yuuya Nagaashi(東北大学大学院理学研究科), Yukari Yamaguchi(神戸大学大学院理学研究科), Sunao Hasegawa(宇宙航空研究開発機構), Akiko M. Nakamura(神戸大学大学院理学研究科)
  • 発表雑誌: Icarus
  • 掲載日: 2023年7月5日 13:00(日本時間)
  • DOI: 10.1016/j.icarus.2023.115685
  • 掲載URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0019103523002622

用語説明

※1 粘着力:圧密応力を作用させない状態で粒子層をせん断させるときに必要なせん断応力で、単位はPa。

※2 標的にはたらく重力:標的容器は姿勢安定のためガイドレールに沿わせて落下させているため(図1参照)、模擬できる重力の大きさには容器取り付けのベアリングとレールの摩擦が影響している。

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