異文化交流体験から学ぶ「異文化交流科目区分」(教養科目B群)
「Cross-cultural Encounters」 立命館大学国際教育推進機構 堀江未来准教授<第3回>
交じり合って学ぶ
国際教養、異文化交流、海外留学の3つの科目区分からなる新しくなったB群。ここでは異文化交流科目区分のクラスのひとつ「Cross-cultural Encounters (STAGE 1)※」(堀江未来准教授→以下、堀江先生)にスポットをあて、先生、学生の声を交えながら、その特徴などについて紹介します。
多様な文化的背景を持つ学生が交じり合って学び合うことで、多様性理解の基礎的な知識を身に付けると共に、異文化間コミュニケーションの楽しさを発見し、今後の学習につなげていくことを目標とする多文化共修科目の「Cross-cultural Encounters」。考え方や習慣の違いなど文化的多様性を理解することはもちろんのこと、日英両言語を駆使したグループディスカッションを通じ、多文化・多言語環境での発言の仕方や意見の聞き方、話の進め方について学びを深めます。
授業自体は、1980年代にアメリカで開発されたIntercultural Communication Workshop(Kolbの経験学習理論やAllportの社会接触仮説などに基づいて開発された多文化間共修方式の一つ)をベースに設計されており、多文化で構成される小グループにおいて文化比較に関するディスカッションを行う一方、そのプロセスで何が起こったかを観察・分析し、次の行動変化につなげることが柱となっています。堀江先生が受け持つ衣笠キャンパスのクラス(前期)には1・2回生を中心に4回生まで国内学生25人、アメリカやスペインなどからの正規・短期を含め留学生12人の37人が学んでいます。
※STAGE 1:英語・日本語とも、語学要件の設定なし。ステージ4まであり、徐々に語学レベルが高く設定されている。
入り口を広く設定し、多様な学生のコミュニケーションを重視
「国際・異文化交流に語学力は関係ない」
「異文化・国際交流となるとどうしても言語のハードルが高いイメージを持たれがちです。それをあえて取り払い、入り口を広く設定しました」と堀江先生が話すように、語学レベルを問わないのが最大の特徴となります。
「授業では日英両語を使うことが前提です。国内学生は英語を、留学生は日本語を共に学んでいる最中であり、ともに外国語学習者としての平等な立場を認識した上で、まだお互いに完璧には話せないけれども、工夫を凝らしながらコミュニケーションを深める点がポイントです。国際交流や異文化交流に必ずしも語学力が必要ではないということを学生に分かってほしかった」とクラス立ち上げの経緯を説明します。
母語も文化も異なる学生が集うこうしたクラスの運営にあたり大切になるのが、「多様な学生がともに安心して共に学べる場、信頼と協力が前提となったコミュニティを形成していくこと」。そこで、最初に行ったのが共通の価値観の浸透だと言います。「たとえ間違ったり変なことを言ってしまっても、誰も馬鹿にしたり笑ったりしないこと。自分だけでなく相手にとっても貴重な経験となるよう、一緒に考え協力し合いながら学ぶ大切さ」を訴え、クラスの結束力を高めてきました。また、授業中のルールなどもグループディスカッションを通じ学生たちが設定。「(たとえ、たどたどしくても)人の話は最後まで聞く」「分からないことは、分からないと素直に言う」「しゃべっていない人がいれば進んで声をかける」など、「当たり前のことのようで、多文化・他言語環境においてとても重要でありながら、意外にできていない部分。それを学生が自ら気付き、仲間と共に成長していこうと決めたこと自体に大きな意味があります」と堀江先生は話します。
文字通り最初の頃は、「英語を話すのが怖い」、「今回もまったく発言できませんでした」「日本人の学生と話せるのはうれしいが、なかなかうまく伝わらない」などの感想をもらしていた学生たちも、「3~4週目ぐらいから徐々に雰囲気も変わり出し、自分たちでいろいろ工夫する姿が見えるようになりました」と堀江先生。当初は、語学力向上など自己中心的だった学びが、回数を重ねるにつれて「相手が理解しているかどうかを思いやる気持ちや、自分の母語をわかりやすく使うことの難しさに気づく学生がでてきました。この気付きや配慮こそがグローバルコミュニケーションにはとても大切な部分」と力を込めます。
語学、国際交流に対するモチベーションがアップ
さまざまな気付きを通じて互いに成長
英語は苦手だったものの留学に興味がありこの授業を選択したという廣瀬翔さん(産業社会学部1回生)は、「最初は戸惑うことばかりでしたが、どうにか工夫して伝えようと努力できるようになりました。英語力はまだまだですが、もっと勉強したいと思うようなりました」と気持ちの変化を口にします。姉川昌暉さん(法学部1回生)は、「留学生の考えなどが聞けて視野が広がりました。もっといろいろな国の人たちと話してみたくなりました」、秋からウェスタンミシガン大学(アメリカ)への交換留学が決まっている横田萌音さん(国際関係学部2回生)は、「留学生と深くディスカッションする授業は少ないので、とてもためになった。文化や習慣、考え方の違いなどに触れ、毎回、新しい発見がありました」と感想を話します。日本語を学び始めて3年目だという短期留学生のノア・ミッチェルソンさん(ミネソタ大学3年生・アメリカ)は、「たくさん日本人の学生と話せるので、(日本語など)学んだことをアウトプットしたり、確認するいい機会になりました。(他のクラスは留学生ばかりなので)日本人の友だちもたくさんできて良かった」と振り返ります。このように当初、堀江先生が掲げた目標は着実に実を結びつつあります。
「今回の授業の経験を、次のステップに生かしてほしい」と、堀江先生は学生たちの今後に期待を寄せます。さらに「こうした授業を通じ、言語、文化をまたいで活躍できる学生をもっと増やしていきたい。異文化交流・国際交流には語学ができるだけでなく協力や気遣いができる学生が不可欠。留学して環境が変われば自分も変われると思っている学生を多く見かけますが、必ずしも正しくありません。自ら一歩踏み出して、自分の行動を変える姿勢がなければ、どこに行っても同じです。逆に、国内に居ながらにして変われる、成長できるきっかけはたくさんあります。B群の学びが、そのひとつになれば」とも。コミュニケーションの基本でもある「伝える」ことに苦労した分、成長も大きいはず。「今後につながるよう、教授法やステージ2~4のクラス展開なども含め、さらに進化させていきたい」と力強く話しました。
第1回https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=297
第2回https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=309