2023.12.27 NEWS

3kt(ノット)の移動速度に対応可能な水中音響通信技術の開発に成功

 理工学部・久保博嗣教授の研究室(以下、久保研究室)は、海洋ロボットの最高速度といわれる3kt(ノット)の水中移動環境における音響通信において、従来に比べて少数の受波器で、良好な通信性能を可能とする技術開発に成功しました。

 近年、資源安全保障の観点から、海洋開発、とりわけ海洋ロボットへの注目度が高まっています。従来、ケーブルでの制御が必要な海中探査ロボットでは、海底の岩などにケーブルが巻き付くなどのトラブルがあり、ケーブルの切断が余儀なくされる場合もあります。そのため、水中音響通信の無線通信方式に関する研究が加速しています。
 しかし、海洋環境での音波の伝搬速度は電波と比較して遅いため、ドップラーシフト(ドップラー効果)と遅延時間の広がりが増大します。その結果、通信品質が大きく劣化してしまいます。さらに、音波が使える周波数帯域幅は、電波の数百万分の1程度に過ぎないため、高速大容量な通信が非常に難しいなど、水中音響通信には課題が山積しています。
 そのため、従来の海洋における水中音響通信では、10個以上の受波器を装備した大規模な通信装置構成、ならびに通信時における最高移動速度の制約が必要でした。

 久保研究室では、上記の課題を克服するべく、シミュレーションを重ね、浅海環境での実験に臨みました。今回の実験では、海洋ロボットを用いず、受波器を船舶に引かせることで代替しました。そのため、海洋ロボットに受波器を設置した場合と比較して、船舶が海面近くで発生させる泡の影響を大きく受けます。つまり、泡が雑音となるために、実運用より雑音が非常に大きな実験環境となります。

 そうした苛酷な環境を勘案し、水中音響通信の重要課題の一つである伝搬環境の時間変動に対応するべく、過去の伝搬環境から現在の伝搬環境を予測する受信方式を開発しました。さらに、地上波デジタル放送等で用いられている直交周波数分割多重方式(OFDM:orthogonal frequency division multiplexing)の対応可能な遅延時間を増加させることで、大きな遅延時間への耐性を高めました。その結果、1, 2本という従来に比べて少ない受波器数で、3ktの移動速度に対応可能な水中音響通信技術の海洋実験に成功しました。
 本研究の成果により、少数の受波器によるコンパクトな水中音響通信実現への道が切り開かれ、無線で制御する海中探査ロボットの行動範囲が大きく広がることが期待されます。

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