DNA二重鎖切断修復を制御する新たな脱ユビキチン化の仕組みを解明

2018.12.17 TOPICS

DNA二重鎖切断修復を制御する新たな脱ユビキチン化の仕組みを解明

生命科学部の西良太郎助教、木村祐輔(大学院生)、松井美咲(大学院生)、中村圭佑(大学院生)らは、ケンブリッジ大学のTom L. Blundell教授、オックスフォード大学のBenedikt M. Kessler教授との共同研究で、DNAの傷(DNA損傷)の一種であるDNA二重鎖切断(DNA double-strand break: DSB)(※1)の修復に重要な脱ユビキチン化酵素UCHL3を同定し、その機能を明らかにしました。

生物のゲノムDNAは外的、あるいは内的な要因により常に傷(DNA損傷)を受ける危険に晒されています。DNA損傷を発生させる要因は様々ですが、抗がん剤や電離放射線(※2)によって生じるDSBは最も重篤なDNA損傷の一つです。ヒト細胞においてDSBは主に、非相同末端結合(non-homologous end-joining: NHEJ)あるいは、相同組換え修復によって修復されます。NHEJではKuと呼ばれるKu70-Ku80のヘテロ二量体タンパク質がDSB部位に結合し、修復反応を開始することが知られています。Kuはドーナッツ型の形状をしており、ドーナッツの穴にDNAを通す形でDNAと結合します。NHEJが完了したのちはKuがDNA上に取り残される形になるため、Kuは主にKu80のユビキチン化及び、プロテアソームによる分解を介してDNA上から除去されることが示唆されています(図1)。これまでにKu80のユビキチン化を担う酵素が複数知られていましたが、どのようにしてKu80のユビキチン化が制御されているかは不明なままでした。そこで、本研究ではユビキチン化が可逆的な反応であることに着目し、Ku80のユビキチン化を除去する酵素、脱ユビキチン化酵素、を明らかにすることにより、NHEJ反応の全体像を明らかにすることを目指しました。

図1.KuによるDSBの認識と、ユビキチン化を介したKuの除去
図1.KuによるDSBの認識と、ユビキチン化を介したKuの除去

これまでに当研究グループでは脱ユビキチン化酵素によるDSB修復の制御機構の解明をUCH(ubiquitin carboxyl-terminal hydrolase)ファミリーと呼ばれる脱ユビキチン化酵素のサブファミリーに着目して行って来たことから、このサブファミリーに属し、DSB修復における機能が不明であったUCHL3によるKuの制御について検討しました。本研究では、分子生物学的、細胞生物学的及び、生化学的な手法により1)UCHL3がDSB部位に集積すること(図2)、2)UCHL3はKuと相互作用し、直接的にKu80を脱ユビキチン化すること、3)UCHL3はKu80のDSB部位への集積を正に制御すること及び、4)UCHL3を欠損した細胞は電離放射線に対し高感受性になることを示しました。これらの結果はUCHL3が新規のNHEJ関連因子であることを明らかにしたものです。さらに興味深いことに、UCHL3はDSB及び、下流のNHEJ因子依存的にタンパク質翻訳後修飾の一つであるリン酸化を受け不安定化することが示されました。すなわち、NHEJ反応の完了に伴うKuのユビキチン化は、脱ユビキチン化酵素が基質(今回の研究ではKu80)から解離することが引き金になって起こる可能性が示唆され、従来にない新しいユビキチン化制御機構を明らかにしたと言えます。

図2. UCHL3はDSB部位に集積する。図中のRFP-53BP1で示された部分がDSBが生じている部分である。RFP-53BP1と同じ部分にGFP-UCHL3の集積が認められる。
図2. UCHL3はDSB部位に集積する。
図中のRFP-53BP1で示された部分がDSBが生じている部分である。
RFP-53BP1と同じ部分にGFP-UCHL3の集積が認められる。

放射線に対する細胞の応答を明らかにすることは、がんの放射線治療の改良につながります。今後の展望としては、本研究によりUCHL3が新たな抗がん剤の標的として提示されたことから、特異的な阻害剤の開発等が考えられます。
本研究成果は2018年12月17日に英国科学誌の「Scientific Reports」にて公開。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、持田記念医学薬学振興財団、第一三共生命科学研究振興財団、上原記念生命科学財団、武田科学振興財団、立命館大学研究推進プログラム(若手研究)の支援を受けて行われました。

用語の説明
※1 DNA二重鎖切断:DNA二重鎖の両方の鎖(骨格)が切断されること。電離放射線や抗がん剤によって生じることが知られている。
※2 電離放射線:X線管やウラン化合物などから放射される電離作用を持つ電磁波あるいは、粒子線。

論文題目
論文タイトル:The deubiquitylating enzyme UCHL3 regulates Ku80 retention at sites of DNA damage
(脱ユビキチン化酵素UCHL3はDNA損傷部位におけるKu80の維持を制御する)
著者:西良太郎(立命館大), Paul W. G. Wijnhoven(ケンブリッジ大学, AstraZeneca), 木村祐輔(立命館大学), 松井美咲(立命館大学), Rebecca Konietzny(オックスフォード大学), Qian Wu(ケンブリッジ大学), 中村圭佑(立命館大学), Tom L. Blundell(ケンブリッジ大学), Benedikt M. Kessler(オックスフォード大学)
雑誌: Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-018-36235-0

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