水トノ共生作法 針江集落のカバタの集積による失われた水との暮らし・集落拠点の再建

2022年3月、せんだいメディアテークで開催された「せんだいデザインリーグ2022卒業設計日本一決定戦」にて、饗庭優樹さん(理工学研究科博士課程前期課程1回生)の作品が全国3位にあたる「日本三」に選ばれました。

「せんだいデザインリーグ2022卒業設計日本一決定戦」は、建築デザインや都市計画などを学ぶ大学4回生の卒業設計作品を集め、日本一を決める大会です。全国から400作品以上が集まり、プロの建築家やデザイナーが審査員を務めます。

饗庭さんの受賞作品「水トノ共生作法 針江集落のカバタの集積による失われた水との暮らし・集落拠点の再建」では、滋賀県高島市針江集落のカバタの文化をテーマに、水との共生作法を通して、失われつつある水との暮らしや、集落拠点の再建を提案しました。

高校入学時には建築の分野に興味を抱いていたという饗庭さんは、立命館大学では理工学部建築都市デザイン学科に所属。学部ではデザインや意匠について学びを深めつつ、建築にはデザインだけではなく構造、設備、外部環境、照明といった複合的な要素が不可欠である点についても魅力を感じてきたといいます。

「今回の卒業設計では、私が生まれ育った滋賀県のアイデンティティを考えた際、『水と暮らす豊かさ』や『水と人が暮らす風景』が思い浮かびました。しかし土地開発が進むなか、水路は暗渠化されるなどして、人と水との間には心理的な距離が生まれているように思っていました。そこで公共建築を通し、失われつつある“水と暮らす豊かさ”を再提案したいと思ったのがこの卒業設計の始まりです」。作品では、培われてきた滋賀県の歴史と文化を現代的に再編し、学部4年間の集大成を創り上げました。

制作を進めるにあたって、針江集落で調査を行うなか、饗庭さんは多くの学びを得たといいます。「カバタで使われた水は一本の水路へ出ます。川上に住んでいる人は、川下の人を気遣って水を使用しており、また、川下の人は、川上の人を信頼したうえで水を使用している様子がみられました。その姿に、水は一つの“コミュニケーションツール”として機能していることに気づいたのです。本作品でも、川上と川下の存在を強く意識し、水を通したコミュニケーションが誘発されるように設計しています。使った水が流れていく先、そして、そこに住む人たちの『人を思いやる』という日常を美しい空間体験としてみることができます」と本作品に込めた思いを述べました。

本大会では、作品の思いでもある「地域の歴史や文化を重んじる責任感」「建築のトータリティ」が大きく評価され、見事「日本三」を受賞。今後は、大学院でさらなる研究を深める饗庭さんは「建物は奇抜なデザインや、フォトジェニックなものが注目されがちですが、私は、刹那的な関係ではなく、人がその魅力を感じて何度でも繰り返し訪れたくなる建築をつくりたいと常に考えています。そのためには、地域の文化やコンテクスト、人の思い、アイデンティティを尊重し、それらをどう読み解くかが重要です。その意識を大切にした制作に努めていきたいです」と今後の抱負を語りました。

饗庭優樹さん(理工学研究科博士課程前期課程1回生)のコメント

この度、「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」で「日本三位」という賞をいただきました。このような賞をいただくことができましたのも、指導してくださった平尾先生をはじめ、熱い議論を交わした研究室の同期や先輩、敷地調査を快く引き受けてくださった針江集落の方々、模型作りを手伝ってくれた後輩に恵まれたおかげだと思っています。この卒業設計に関わり支えてくださった方々、本当にありがとうございました。この卒業設計を通して得られた経験を糧に、大学院でもさらに学びを深めていきたいと思います。

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