「健康寿命の延伸に貢献したい」子どもたちの体力・運動能力の向上を目指す前多駿佑さん
立命館大学スポーツ健康科学部の上田憲嗣准教授のゼミに所属し、体育会サッカー部でも活動する前多駿佑さん(スポーツ健康科学部3回生)。プロサッカー選手を目指して中学生で故郷の石川県を離れ、母親とともに京都に拠点を移し、京都サンガF.C.のジュニアユースに入団。高校は「スカラーアスリートプロジェクト」の対象選手として、「京都サンガF.C.U-18」に加入。しかし、高校卒業と同時にプロへの道には進めなかった。現在は、京都サンガF.C.のサッカースクールのAD(Athletic Development)コースのコーチとして、週1回、子どもたちを指導し、スポーツ健康科学部の学びを社会で実践している。
もっと上手くなりたい。小学生で抱いた危機感を持って京都へ。
5歳の頃から幼稚園のサッカースクールに通い、小学生になると地元のサッカー少年団に入団。同世代の子どもたちに比べて身体が大きく、石川県内では有名選手だった。転機が訪れたのは小学校6年生のとき。北信越地域のトレセンに選ばれ、県外の選手と一緒にトレーニングしたが、アルビレックス新潟の選手をはじめ、県外にはうまくて凄い選手がいることに気づいた。「このまま石川県のチームにいても成長できないのではないか」。覚悟を決めた前多さんは、両親と話し合い、高いレベルで学業とサッカーが両立できる京都サンガF.C.の「スカラーアスリートプロジェクト」を知り、京都サンガF.C.U-15のセレクションに参加。セレクションに合格し、中学1年生の前多さんは故郷を離れ、京都での生活をスタートした。
ユースまで昇格するも高卒でプロにはなれず。そしてアスレティックトレーナーとの出会い
拠点を関西に移した前多さんは、当初は関西弁に戸惑うもだんだんと雰囲気にも慣れる日々。中学1年生の夏には、コーチからキャプテンを任され、ユースチームに昇格。しかし、度重なる怪我にも悩まされ、思うような結果には結びつかなかった。高卒でプロの道には進めず、立命館宇治高校から立命館大学へ進学することが決まり、学部を選択するタイミングで頭をよぎったのが、献身的にサポートしてくれたアスレティックトレーナーの存在だ。「アスレティックトレーナーの方にお世話になった際、トレーナーの魅力を感じた。スポーツを支える側のことを学びたいと思い、スポーツ健康科学部を志望した」。アスレティックトレーナーを目指してスポーツ健康科学部に入学した前多さんは、立命館大学の学士号と提携先米国大学院の修士号を取得し米国におけるアスレティックトレーナーの資格取得を目指す学部独自の留学プログラム「GATプログラム」を受講する。しかし、体育会サッカー部との両立は想像以上に厳しく、1年で諦めることとなる。
子どもたちの体力・運動能力の低下を何とかしたい
GATプログラムの学びを断念した前多さんだが、1回生の学びの中で、近年子どもの体力・運動能力が低下しているという現状を知る。その要因として挙げられるのは、子どもたちを取り巻く環境の変化だ。「交通網の発達で歩くことが減ったこと、ゲームの普及で家に閉じこもって外で遊ばない、都市化で遊び場、公園等がなくなってきていることを知り、子どもたちに対して何かアクションを起こしたい」。そう考えるようになった前多さんは、子どもたちの体力・運動能力の向上に寄与するスポーツ健康科学部の上田憲嗣准教授が取り組む「動作コオーディネーショントレーニング」について学びを深めていく。そして、ご縁があって京都サンガF.C.のサッカースクールの一つ「ADコース」のコーチを務めることになる。
スクールコーチの経験が学部の学び、サッカー部の活動にもつながる
ADコースは、サッカーのトレーニングは行わず、ジュニア期に必要な身体的要素、特に基本的動作スキルを発達させることを目的としたコースだ。前多さんは、上田ゼミで学んでいる「動作コオーディネーショントレーニング」をスクールでも導入している。ジュニア期の運動能力を向上させるような基本的動作スキルを高めることが重要で、身体操作スキル(立ったり転がったり)、移動スキル(走ったり登ったり)、物体操作スキル(ボールを投げる、押したり運んだり)の3つの基本的動作スキルの向上に取り組む。
「2回生の春からスクールコーチをやっています。昨年はチーフがプログラムを作成されていて、私はアシスタントとして関わっていましたが、今年からは徐々に自分でプログラムを作成したり、一人で指導することも増えてきました」。スクールコーチの活動で得た経験や疑問は、上田准教授にも相談。学びへと還元されている。また、所属する体育会サッカー部の活動でも、週に1・2回は動作コオーディネーショントレーニングを取り入れている。
スポーツ健康科学部で学び、感じた“健康寿命の延伸”の重要性
子どもたちの体力・運動能力向上のため、動作コオーディネーショントレーニングを実践している前多さんは、“健康寿命の延伸”というキーワードを大切にして日々活動している。「今でもプロサッカー選手になるという目標は諦めていませんが、今後の人生を考えた時にスポーツには長く関わっていきたいと思っています。とりわけ、学部の学びの中でよく“健康寿命の延伸”に向けてどのような取り組みが必要なのかをよく問われます。子どもたちが運動を身近な活動として捉え、結果として人々の健康寿命の延伸に貢献できるような活動をこれからも続けていきたいです」。子どもたちの健康な体づくりのため、自らの目標のため、“健康寿命の延伸”に向けた活動に取り組む彼の活動にこれからも注目したい。