大学の英語授業でAI自動翻訳サービスを試験導入−新しい英語教育の可能性とは

2022.11.28 TOPICS

大学の英語授業でAI自動翻訳サービスを試験導入−新しい英語教育の可能性とは

 立命館大学では、「プロジェクト発信型英語プログラム」の正課の英語授業において、約5,000人の学部生・大学院生を対象に、AI自動翻訳サービス「Mirai Translator®」(以下、みらい翻訳)の試験導入を実施している。インプット型から「使えるアウトプット型英語」へと進化を図るという取り組みとはどういったものなのか。薬学部の英語授業で実際にAI自動翻訳サービスを活用している様子を取材した。

実社会で使える英語スキルを学生自身が能動的に体得

 2022年11月15日、びわこ・くさつキャンパス(BKC)で薬学部2回生を対象する「英語 Project 4」の授業が行われた。受講生14人は、各自がパソコンを持参し、それぞれの画面に、執筆中の英語論文を映し出す。他の英語授業と異なるのは、学生たちがAI自動翻訳サービス「みらい翻訳」の画面を表示していることだ。授業中、学生らは文法や文と文のつなぎ方など、近藤雪絵准教授(薬学部)からの問いかけを受けながら学習を進めている。

 この取り組みは、AI自動翻訳ツールを大学の英語授業で利用することで、学習成果や学習態度、学生の心理面などにどのような変化が生じるかを検証するもの。自信やスキル不足による英語学習への不安感を払拭させ、本来習得すべきプレゼンテーション能力の向上や、アウトプット精度の向上など、社会で使える英語運用スキルを、学生自身が能動的に体得することを目指している。2022年5月、立命館学園の中期計画「学園ビジョンR2030チャレンジ・デザイン」で掲げる「テクノロジーを活かした教育・研究の進化」を体現するために実施した「教育開発DXピッチ」で優秀賞を受賞した取り組みだ。

 この日の授業では、まず、AIによる発音矯正サービス「ELSA Speak」を活用し、10分程度の発音練習からスタート。その後、近藤准教授から各自の英語論文に対するフィードバックを行い、いよいよAI自動翻訳ツールの出番。課題は「あるパラグラフには文と文をつなぐ言葉(接続語)が不足している。AI自動翻訳を活用するチームと、自力で翻訳しながら言葉をつなげるチームに分かれて、文章の加筆修正を行い、パラグラフを完成させよう」というもの。それぞれ2チームずつに分かれた学生たちは、文全体の論理構造や意味的つながりを意識しながら、検証を進める。それぞれ加筆した文章は、4チームとも異なる結果となったが、それぞれのチームがこだわりポイントを説明するなどオリジナリティある内容となった。

プレエディット・ポストエディットの重要性

 近藤准教授は、「みらい翻訳」の導入前から、AI自動機械翻訳ツールの活用にあたっては作成した英語を自分のものにしてから発信することの重要性を唱えていた。「みらい翻訳」を利用する学生にも、抑えるべきポイントを伝えているという。今回のみらい翻訳を大学の正課の英語授業で利用することについて近藤准教授は「機械翻訳を授業に導入するにあたって、どのように扱うべきか教員間で議論がありました。これまでは学生から提出された文章をみて『これ機械翻訳?』と聞くと躊躇する様子を見せる学生もいました。学生にも少し遠慮があったんですよね」と述べるとともに「プレエディットやポストエディットを授業中にしっかりと説明し、機械翻訳は英語力の向上のために使い、産出した英語を自分のものにすることを目指す中で機械翻訳を活用することを認めれば、学生は、機械翻訳を使うことへの抵抗感もなくなり、心理的にも安心できます」と期待を込めた。

近藤雪絵准教授(薬学部)
近藤雪絵准教授(薬学部)

 受講した学生らも、AI自動翻訳ツールの利用を好意的に受け止めている。三輪佳蓮さん(薬学部2回生)は「自分の英語が言いたいことが伝わる文章なのかを常に確認しながら進めることができる」と分析。松本純平さんと望月優音さん(ともに薬学部2回生)は「ボキャブラリーが増えたことで、会話の幅が広がった」と好意的だ。また、宮﨑円華さん(薬学部2回生)は「(逆翻訳を利用することで)自分の書いた文章がしっかりと日本語に適用できているのかを確認できるので、自分の英文を、自信を持って使うことができる。翻訳から英文法やフレーズが学べる点もうれしい」とコメントしている。

 一方で、学生たちはAI自動翻訳ツールを活用することによって、英語表現のバラエティが広がったが、普段日常ではあまり使わない言葉を使ってしまうケースも出ているという。「自分が使い慣れない言葉を用いた際に、オーディエンスの理解が追いつかないケースも出てきました。機械翻訳を活用して作成した英語を自分が理解する、つまり自分のものにすることはもちろんですが、発信する上ではオーディエンスを意識した英語を使うことにも注意を払い、相手に伝えようとすることも重要な視点です。ツールをただ提供するのではなく、学生と教員が授業中に一緒に使いながら活用方法や利用目的を確認し、授業に組み込むことが大切だと思います」(近藤准教授)

 まだまだ進化を続けるプロジェクト発信型英語プログラム。技術の進歩とともに言語習得の手法や考え方も変わる中、本取り組みがこれからも新しい英語教育の形を模索し、改善し、成長し続けることを期待したい。

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