大きな映画館ではなかなか出会うことができない、芸術性の高い作品から社会派の作品まで幅広い作品を扱う「ミニシアター」。こだわりの空間と厳選された作品のラインナップに根強いファンも多いが、コロナ禍の深刻な影響で数多くの劇場が閉館に追い込まれてしまった。そうした苦境に立つミニシアターを救う存在として、注目を浴びる学生団体が存在する。その名も「映画チア部」。関西を拠点に、若者を中心とした幅広い世代にミニシアターの魅力を届ける活動を行っている。そんな団体の活動について、映画チア部に所属する東真優さん(文学部3回生)に話を聞いた。

「ドライブ・マイ・カー」濱口竜介監督(写真右)との記念撮影 写真左:東真優さん(文学部3回生)

結成のきっかけは、劇場スタッフの呼びかけ

 2015年、神戸・元町の「元町映画館」で結成された映画チア部。「若者がミニシアターに来ない」という悩みを抱えた劇場スタッフのSNSでの呼びかけをきっかけに、元町映画館を拠点として結成された。現在は、「元町映画館」を拠点とする神戸本部と「シネ・ヌーヴォ」の大阪支部、「出町座」の京都支部で活動している。東さんが在籍する神戸本部では、自主上映会の企画やYouTube Liveでのラジオ番組の放送、短編映画の製作から映画監督へのインタビュー記事など、幅広い活動を展開している。

 東さんが映画チア部に入部したのは、「映画に関わる活動がしたい」という思いが決め手だった。高校生のときに、好みの有名人が勧める映画をチェックするうちに、海外の映画で描かれる日本人の描写に興味を持ち、大学で専門的に学ぶ道を選択した。「特に関心を持ったのは、『ティファニーで朝食を』でした。登場する日本人がとても滑稽に描かれていたので、その背景を詳しく知りたいと思ったのが大きなきっかけでした」と当時を振り返る。さまざまな映画の情報を収集していくなかで、ミニシアターを拠点として活動する映画チア部の存在を知り、その活動に関心を持ったことから入部を決意した。

 しかし、入部直後はコロナ禍で活動が制限されたことに加え、映画のサブスクリプションサービスの浸透で映画館離れに拍車がかかり、団体の活動は苦境に陥っていた。「特に若い世代では『TikTok』や『Instagram』などで短い動画が流行したことによって、長時間映像を見ることへのハードルが上がりました。そのような状況でミニシアターに来てもらうのは非常に難しいと感じていました」と東さんは語る。
 それでも部員たちは諦めることなく、映画を通したコミュニケーションの機会を作るために奮闘した。ミニシアターで上映される作品を手掛けた監督へのインタビュー記事や、作品のレビュー記事の連載を「note」で開始。また、「YouTube Live」でラジオ番組「ホンネでシネマ」の配信をスタートした。コロナ禍ならではの方法で、映画が好きな人々のコミュニケーションの場を創出することに力を注いだ。

若い世代を中心に、多くの人々がミニシアターを楽しむ機会を

 2021年には東さんが中心となって開催した、活動写真弁士と楽士の生演奏とともに、無声のホラー映画を楽しむ「怪奇と狂気の無声ホラー」も好評を博した。団体として初の無声映画企画だったが、若者の姿も見られ、「カツベン(活動写真弁士)上映を初めて見たけれど、普通の映画とは違う迫力があってとても面白かった」、「また企画してほしい」といった声が寄せられた。東さんは「初の試みで上映会のノウハウもなく、当日まで企画が成り立つか不安でしたが、予想以上に若い世代も多く、ミニシアターで観る映画の魅力を伝えることができたのはとても嬉しかったです」と喜びを語った。

 2022年春には、地道な取り組みが評価され、全国7シアターがタッグを組んで小中高校生向けの上映イベント「夏休みの映画館2022」への企画オファーが届いた。1週間の開催期間のうち、1日分の作品選びからトークイベントまで企画を任された。全国デビューとなる舞台に緊張感は高まったが、部員たちは一致団結。直前まで悩み抜いた作品選びは、子どもが楽しめるストーリーや美しい映像と音響を重視して、「夜明け告げるルーの歌」を上映。企画したトークイベントは好評を博し、劇場は子どもたちの笑顔で溢れた。

ミニシアターをもっと身近に

 現在東さんは、海外映画における文化的なイメージをもとにした人物描写に関する研究を進めるため、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校に留学中。帰国後は留学で学んだ知見を生かした新たな活動にも思案を巡らせている。「ミニシアターは格式が高くてコアな映画ファン以外は行きにくいという印象を持たれがちですが、そうした心理的ハードルを低くするような企画を進めたいと思っています。ミニシアターの文化を絶やさないようにこれからも貢献していきたい」と意気込みを語ってくれた。

 最後に、東さんに一押しの映画を聞いてみた。「『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が手掛けた『ハッピーアワー』です。濱口監督が神戸に3年間住んで撮影をされたことから、毎年12月末に元町映画館で上映して舞台挨拶をするのが恒例なんです。ぜひ元町映画館で楽しい年末を過ごしてほしいです」。今年の年末は、ミニシアターで一味違う映画体験を味わってみてはいかがだろうか。

関連情報

NEXT

2023.01.01 NEWS

立命館理事長・総長新年のごあいさつ

ページトップへ