光合成色素からなるナノリングの構築に成功~新しい光機能材料への展開に期待~

生命科学部の民秋均教授と生命科学研究科博士課程前期課程の石井辰磨さん、名古屋工業大学大学院工学研究科の松原翔吾助教は、共同して、ナフタレンで連結したクロロフィル誘導体分子(数ナノメーターサイズ)が、多数規則正しく自己集積することで、自発的に大きな(数百ナノメーター)サイズのリング状構造体を形成することを発見しました。本研究成果は、2023年1月26日 に、英国化学雑誌「Chemical Communications」に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 光合成色素(クロロフィル)分子の誘導体が自己集積することで、数百ナノメーターサイズの環状(リング)構造が自発的に形成されることを発見した。
  • 今回の分子の自己集積体は繊維(ヒモ)状構造からリング状構造に変化することが明らかとなり、外部刺激によってこの構造変化を制御することも可能にした。
  • 自然界にはクロロフィル分子をリング状に並べることで機能する光合成アンテナ器官※1が 存在しており、今回の物質は人工光合成や太陽光発電の効率化に貢献できる新規材料への展開に期待できる。

研究成果の概要

自然界にはリング構造の分子および分子集積体がよく見られます。例えば、LH2と呼ばれる光合成アンテナは、タンパク質をテンプレートとして用いてクロロフィル分子をリング状に配列させることで、光合成器官として機能しています。しかし、リング状の分子および分子集積体を人工的に構築することは決して簡単ではありません。今回、ナフタレンで連結したクロロフィル誘導体を用いることで、自発的に分子が集積してリング状のナノ構造が形成していくことを発見しました。

図

自発的にリング状分子集積体が形成していくこと自体も非常に珍しい現象であり、リング構造を構築するための新たな指針になると予想されます。さらに、今回はクロロフィルという光機能性分子を用いていることから、今までにない機能性材料へと展開できる可能性があり、人工光合成や太陽光発電の効率化が期待されます。

研究の背景

自然界には分子が集積することによって形成したリング構造がよく見られ、これは長い進化の中で得た最適解であると言えます。例えば、細胞中の微小管はタンパク質がリング状に集積・積層することで形成し、柔軟かつ強固な構造を構築しています。また、紅色細菌の持つLH2と呼ばれる光合成アンテナ器官では、環状構造のタンパク質をテンプレート(鋳型)としてクロロフィル分子をリング状に配列させることで、効率的に光合成を行なっています。つまり、この“リング”というカタチに重要な意味があると考えられ、人工的にリング状の分子集積体を構築することは、新たなソフトマテリアル構築につながると考えられます。

研究の内容

今回、研究者らは光合成色素分子の誘導体(数ナノメーターサイズ)が多数自己集積することによって、大きなリング状分子集積体(数百ナノメーターサイズ)を構築することに成功しました。生物は卓越した分子システムを用いて、いとも簡単にリング状構造体を作り上げます。リング構造を構築するにはヒモ状構造の始点と終点を繋げる必要があり、人工的にこのようなことを行うのは非常に難しいとされています。ヒモ状の分子集積体は成長したとしても、ただ単に伸長することが一般的です(図1, 左ルート)。しかし、新しく作ったナフタレンで連結したクロロフィル誘導体は自己集積することで、自発的にナノサイズのリング構造体を形成することを発見しました(図1, 右ルート)。

図1 分子集積体が形成される経路の概要図
図1 分子集積体が形成される経路の概要図

このクロロフィル誘導体を低極性溶媒中で自己集積させた直後は、波打ったヒモ状のナノ構造体が多く見られましたが、時間が経過することでファイバー状構造はリング状構造に変化していくことがわかりました(図2)。また、サンプル濃度が低い方がリング構造を作りやすいことや、加熱によってリング構造の形成を促進できることが明らかとなりました。さらに、様々な大きさで形成されるリング状分子集積体ですが、フィルターを用いてろ過することによって、小さめのリングのみを回収することにも成功しました。

図2 ヒモ状分子集積体(左)とリング状分子集積体の原子間力顕微鏡画像(右)
図2 ヒモ状分子集積体(左)とリング状分子集積体の原子間力顕微鏡画像(右)

研究の内容

天然光合成においてクロロフィル分子は、光エネルギーの捕集・光エネルギーの伝搬・電気化学エネルギーへの変換を行なっている非常に有用な分子です。今回はそのクロロフィル分子を原料に、リング状の分子集積体を構築していることから、人工光合成アンテナや光貯蔵物資のような次世代の光機能材料に応用されることが期待されます。具体的には、人工光合成アンテナを使った集光デバイスが完成することで、天気の悪い日でも効率的に発電できるような太陽光発電システムへの活用が期待できます。また、光貯蔵物質ができれば、昼間に光エネルギーを蓄え、夜間にそのエネルギーを使うということが可能になると予想されます。

さらに、今回の分子集積体のように“ヒモ”と“リング”という2つの構造変化を活用することで、外部刺激に応答して2つの異なる物性を使い分けることができるスマートマテリアル※2への活用にも期待できます。

論文情報

  • 論文名:Ring-shaped self-assembly of naphthalene-linked chlorophyll dimer
  • 著者:Tatsuma Ishii, Shogo Matsubara, Hitoshi Tamiaki
  • 発表雑誌:Chemical Communications
  • 掲載日:2023年1月26日(木)
  • DOI:10.1039/d2cc06368a
  • 掲載URL:https://doi.org/10.1039/d2cc06368a

用語説明

※1 光合成アンテナ器官:光合成において太陽光エネルギーを効率的に集めるための光合成器官。
※2 スマートマテリアル:周辺の環境変化や外部刺激に応答し、構造・物性を変化させる最先端の材料。

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