分子線エピタキシー法による ScAlMgO4 基板上 GaN テンプレート開発に成功<br>直径 65mm SAM 基板上 GaN テンプレートの評価用テストウェハ供給を開始予定<br>SAM 基板に格子整合する InGaN テンプレート(2 インチ)の開発にも着手

2023.02.13 NEWS

分子線エピタキシー法による ScAlMgO4 基板上 GaN テンプレート開発に成功
直径 65mm SAM 基板上 GaN テンプレートの評価用テストウェハ供給を開始予定
SAM 基板に格子整合する InGaN テンプレート(2 インチ)の開発にも着手

立命館大学理工学部電気電子工学科の荒木努教授、総合科学技術研究機構の藤井高志教授、立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)の出浦桃子准教授らの研究チームと、福田結晶技術研究所(宮城県仙台市、代表取締役社長:福田承生)は、分子線エピタキシー法を用いて ScAlMgO4(SAM)基板上 GaN テンプレートの開発に成功しました。本件に関連する研究成果は、 2023年2月2日に応用物理学会の国際学術誌「Applied Physics Express」にオンライン掲載され ました。また関連特許5件についても申請中です。

【本件のポイント】

  1. 分子線エピタキシー法により ScAlMgO4(SAM)単結晶基板上へ中間層を用いずに GaN 単結晶薄膜を直接成長することに成功。
  2. 得られたSAM基板上GaN単結晶薄膜は、剥離・再利用が可能な窒化物半導体成長用テンプレート基板として期待。
  3. 直径65mmSAM基板上GaNテンプレートを、福田結晶技術研究所と共同して、今春から評価用テストウェハとして供給を開始予定。
  4. SAM 基板に格子整合する InGaN テンプレート(2インチ)の開発にも着手。

研究成果の概要

GaN、InGaN に代表される窒化物半導体は、カーボンニュートラル社会実現に必要不可欠な電子デバイス・光デバイス用材料として利用されています。近年、窒化物半導体結晶成長用の基板として、格子定数・熱膨張係数の不整合が小さく、容易に剥離が可能なScAlMgO4(SAM)基板が注目されています。本研究では、福田結晶技術研究所が開発に成功した直径 2 インチおよび 65mm SAM 単結晶基板上に、超高真空中で低温成長が可能な分子線エピタキシー法を用いて中間層などを用いずに GaN を直接成長することに成功しました。作製した SAM 基板上 GaN 結晶は、剥離・再利用可能な窒化物半導体成長用テンプレート基板としても有効で、ハライド気相成長(HVPE)法により、1mm 厚の GaN を成長し GaN 自立基板を得ることが実証されました。本研究は福田結晶技術研究所との学外共同研究および立命館グローバル・イノベーション研究機構(R-GIRO)の支援によって実施されました。

研究の背景

GaN(窒化ガリウム)半導体は、高周波・高耐圧・高効率で動作する電力変換用トランジスタや高輝度・省エネ・長寿命照明用 LED など、さまざまな電子デバイス・光デバイスに応用されています。これらのデバイスを製造するために必要な GaN 薄膜はサファイアや Si 基板上にヘテロエピタキシャル成長されますが、GaN と基板材料との格子定数差・熱膨張係数差が大きく、GaN 中に欠陥が導入されてしまいます。このような課題を解決するために、GaN をはじめとする窒化物半導体薄膜の結晶成長技術開発は今も精力的に進められています。

ScAlMgO4(SAM)基板は、GaN と格子不整合が約 1.8%と小さく、In 組成が 17%の InGaN と格子整合する特徴があります。福田結晶技術研究所において、チョクラルスキー法を用いた高品質SAMバルク単結晶育成も可能となりました。また SAM 基板は強い劈開性を示すため、成長後の自然剥離による GaN 自立基板作製や、剥離後に SAM 基板の再利用が可能なことも実証されています。このような背景から、近年 SAM 基板上への窒化物半導体結晶成長が注目されています。有機金属気相成長法などを用いた GaN 成長では、SAM 基板が 1000℃近い高温状態に曝されるため、SAM 基板の表面荒れや不純物混入が懸念され、バッファ層など中間層の導入が必要とされていました。

研究の内容

研究チームは、従来の SAM 基板上 GaN 成長における課題解決のために、超高真空中で比較的低温での GaN 成長が可能な分子線エピタキシー法に注目しました。福田結晶技術研究所が分子線エピタキシー装置((株)エピクエスト製)を立命館大学に新規導入し(図 1)、SAM 基板上窒化物半導体結晶成長技術を共同開発しました。結晶成長温度、原料供給比、成長初期過程などの成長パラメーターを最適化することで、SAM 単結晶基板上へ中間層などを用いずに GaN 単結晶薄膜を直接成長することに成功しました。断面透過電子顕微鏡観察により、GaN が SAM 基板上に原子レベルで急峻な界面を形成して成長していることを確認しました(図 2)。また直径 2 インチ(図 3)および 65mm の SAM 基板上にGaN 薄膜を均一に成膜することも可能となり、剥離・再利用が可能な窒化物半導体成長用テンプレート基板としての利用が期待されます。分子線エピタキシー法は有害なガスを使用せず排ガス処理が不要など環境に優しい手法としても期待されています。この SAM 基板上 MBE 成長 GaN 薄膜をテンプレートとして評価用テストウェハ供給を開始することとしました。また、SAM 基板に格子整合する InGaN についても 2 インチ SAM 基板上テンプレート開発に着手しました。SAM 基板上に成長した GaN 薄膜の非破壊・非接触電気特性評価に関して、テラヘルツ時間領域分光エリプソメトリを用いた技術開発も進めています。

キャプション
図1:SAM基板上窒化物半導体成長用分子線エピタキシー装置((株)エピクエスト製)
図2:SAM 基板上直接成長 GaN 界面の断面透過電子顕微鏡観察像
図2:SAM基板上直接成長GaN界面の断面透過電子顕微鏡観察像
図3:2インチ SAM 基板上 GaN テンプレート
図3:2インチSAM基板上GaNテンプレート

社会的な意義

本研究で作製した SAM 基板上 GaN テンプレートを用いて、HVPE 法などにより GaN 厚膜成長を行うことが可能です。SAM 基板の劈開性を活かした GaN 厚膜自然剥離や剥離後 SAM 下地基板の再利用によって、パワーデバイス応用自立GaN 基板作製のプロセス簡素化、歩留まり向上、コスト低減につながることが期待されます。また本研究成果を活用して、格子整合する InGaN を SAM 基板上に直接成長することで欠陥の少ない高品質 InGaN テンプレートが実現できれば、緑・赤色領域の InGaN 系窒化物半導体発光デバイスの発光効率が向上できるため、フルカラーマイクロ LED ディスプレイなどへの応用も期待されます。また近年、海外からのパワーデバイス用や高周波デバイス用としての関心も高まり、直径 4 インチ~6 インチ SAM 基板への要望が強くなってきています。福田結晶技術研究所は宮城県の補助事業により、直径 3 インチの SAM 単結晶インゴットの量産技術開発を進め大口径化へ着手しています。

論文情報

  • 論文名:Direct growth of GaN film on ScAlMgO4 substrate by radio-frequency plasma-excited molecular beam epitaxy
  • 著 者:Tsutomu Araki, Seiya Kayamoto, Yuuichi Wada, Yuuya Kuroda, Daiki Nakayama, Naoki Goto, Momoko Deura, Shinichiro Mouri, Takashi Fujii, Tsuguo Fukuda, Yuuji Shiraishi, Ryuichi Sugie
  • 所属:Department of Electrical and Electronic Engineering, Ritsumeikan University,Ritsumeikan Global Innovation Research Organization (R- GIRO), Fukuda Crystal Laboratory Co., Ltd., Toray Research Center, Inc.
  • 発表雑誌:Applied Physics Express
  • 掲載日:2023 年 2 月 2 日(オンライン)
  • DOI:10.35848/1882-0786/acb894
  • URL:https://iopscience.iop.org/article/10.35848/1882-0786/acb894

用語説明

  1. ScAlMgO4 (SAM) 単結晶:YbFe2O4 構造に属する三方晶構造を有する酸化物結晶。GaN、 InGaN の成長用基板として期待され、チョクラルスキー法による高品質大口径単結晶基板開発が進められている。
  2. 分子線エピタキシャル法:超高真空状態のチャンバー内で、原料を分子線の状態で基板上に供給し、薄膜を成膜する方法。シャッターコントロールによる原子層レベル膜厚制御、電子線回折を用いた結晶成長のその場観察などの特徴を有する。
  3. テンプレート:単結晶基板上に半導体薄膜を成膜した構造。テンプレートを基板として用いて半導体薄膜を成膜することで LED やトランジスタなどの半導体デバイスを作製することが可能。
  4. チョクラルスキー法:シリコン単結晶や SAW デバイス用の LiTaO3 単結晶製造に用いられている結晶製造方法で、大口径ウエハ作製、低コストウエハ作製に適した方法である。
  5. 透過電子顕微鏡:電子線により物質構造の解析や原子レベルでの情報を得る電子顕微鏡の一種。電子線を観察対象試料に照射し、試料中を透過した電子を電磁レンズで結像することで、数百~数百万倍の高倍率で観察することが可能。
  6. テラヘルツ時間領域分光エリプソメトリ:テンプレートを非接触・非破壊で電気特性と膜厚を計測可能な手法。立命館大学と日邦プレシジョン株式会社(本社:山梨県韮崎市)と共同で開発している。

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