学生のAIスタートアップがロボットの世界に進出

 AIを使ったシステムで動くロボットが、空港、大型ショッピングセンターなどの複合施設内で、あらゆるものを指定の場所にデリバリーしてくれる――。そんな独創的なデリバリーサービスを実現させようとしているのが、スタートアップ「Kanaria Tech(カナリアテック)株式会社」を創業した瀧下奎斗さん(情報理工学部4回生)とオルハン・イブラヒムさん(同)だ。Kanaria Tech社は、複雑な社会の問題を解決するべく、ロボットの高度なAIシステムの開発を行っている。このAIシステムと社会のアダプテーションとなる最初のターゲットがロボットデリバリーだ。

 「祖父と父が非常用発電機の会社を経営していて、幼い頃から会社を作ってみたいと思っていました。高校生で進路を考えたときに、AIを使った発電機を管理するシステムを事業にしてはどうかと思い付き、AIを学ぶため立命館大学情報理工学部に入学しました」と話す瀧下さん。父親がアメリカで働いていたこともあり、「グローバル」な事業展開も念頭に置いていたため、英語で学びを深める情報システムグローバルコース(ISSE)が自身にぴったり合ったという。
 入学当初は英語を話すことはもちろん、なかなか理解することができなかったが、ISSEの授業、日常生活を通して、TOEIC®990点(満点)を取るほどにまで成長することができた。Kanaria Tech社では、唯一の日本人として常に英語で業務を行っている。
 3回生の時には厳しい関門をくぐりぬけ、NASAで行われたGlobal Education Programにも参加した。アメリカヒューストンにあるNASAの研究所を訪れ、火星探査ロボットの開発コンテスト、耐熱シールド制作コンテスト、月面住居デザインコンテストなどに果敢に参加し、高い評価を受けた。同時期にヒューストン大学にて宇宙工学についても学んだ。また、ロボットにも興味のあった瀧下さんは、小学生の頃からロボットコンテストに参加をしていた。これらの経験を踏まえて、AI × ロボットのスタートアップの立ち上げを決意した。

NASAの表彰台での瀧下さん
NASAの表彰台での瀧下さん
アメリカで学んでいた時のオルハンさん
アメリカで学んでいた時のオルハンさん

 トルコ出身のオルハンさんは、高校時代には生物学の道を歩んでいた。合成生物学を学び、高校時代の半分を医学大学で学んだ。マサチューセッツ工科大学(MIT)から複数の賞を受賞し、高校卒業前に3つの学術論文を発表した彼は、アメリカで教育を受けることを決意し、プログラミングとAIの使用が非常に重要なバイオインフォマティクス・プロジェクトに携わることになった。しかし、経済的な問題でアメリカでの教育を続けることができず困っていたところ、日本の特別奨学金の情報を見つけた。大阪の語学学校を卒業後、コンピュータ・サイエンスとAIの世界に没頭したいという思いから、立命館大学のISSEに入学した。
 実は立命館大学入学前にアメリカのAIスタートアップに入社し、コアメンバーとして2年間経験を積んだこともある。しかし、このスタートアップは日本での活動を停止してしまった。この経験を経て、自らのスタートアップの立ち上げに挑戦することを決意した。

 元々起業を視野に入れ、ISSEでAIについて学んでいた2人。その2人がクラスメイトとして出会い、将来の話をしたところ、「AIで会社を作ろう」と意気投合。さらにもう1人、オルハンさんの友人であるAIに精通した共同創業者を招いた。彼は、プログラミングオリンピックで優勝したり、経済産業省からAIにおいて表彰されたりした経験を持つ。こうして2022年7月に「Kanaria Tech株式会社」が生まれた。
 設立後は、5人のエンジニアと4人のアドバイザーと共にチームを組み、AIコンサルティング会社として事業をスタート。徐々にビジネスアイデアを練り上げ、企業や専門家にアイデアをピッチし始めた。「スタートアップは非常に繊細なものです。次に進むべき時が来たと悟ったら、いつでも路線変更できるように準備しておくべきですが、一方で自分のビジョンを心から信じているのであれば、それを貫くべきだとも考えます。すべての責任を負わなければなりませんが、だからこそスリリングでおもしろいんです」とオルハンさんは言う。

創業時の記念写真
創業時の記念写真

 2人は大学に通いながら、世界最大のプレシード・スタートアップ・アクセラレーターであるFounder Instituteの日本コースに参加し、卒業率25%の中、2023年夏にFounder Instituteを無事卒業してもいる。「世界中の大手企業で経験を積んだ方々や、企業オーナー、投資家など、さまざまなメンターからフィードバック受けました。その経験からより多角的な視点でビジネスを見つめ直し、洗練されたビジネスアイデアやビジネスモデルを構築する機会を得ることができました」と瀧下さんは振り返る。

 今後について、「LLM(ChatGPTのようなAIがサポートするチャットシステムに使われる大規模言語モデル)の開発が世界を変えました。同様にAIがロボットをサポートするシステムに大きな可能性を感じています」とオルハンさんは語る。瀧下さんは「現在開発しているロボットの高度なAIシステムを実現させることで、ロボットは強力なAIと連携して、従来のプログラミングに頼って動くロボットではなく、ロボット自身が考えて行動できるようになります。まだ日本では、ロボットを動かすということに対し、安全面など多くの懸念点が存在しますが、これらの懸念点をすべて突破し、AI × ロボットでより良い社会の構築を目指します」と力強く語った。



 現在、資金調達中のKanaria Tech社は、今後時間と資金を注ぎ込み、デリバリーロボットをはじめとするロボットの高度なAIシステムの開発に取り組む。すでに空港やアウトレットの業界と話を進めているKanaria Tech社の製品を体験できる日は、そう遠くないだろう。ロボットがデリバリーのため忙しく動き回る未来を思い描きながら、彼らの今後を応援し続けたい。

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