産業社会学部創設60周年記念プレ企画講義「現代社会と裁判所」を開催
来年の産業社会学部創設60周年を前に、「現代社会と裁判所」と題した特別記念講義が6月14日(金)に衣笠キャンパスで開催されました。京都地方裁判所の裁判官、事務官、書記官と京都家庭裁判所の調査官が憲法週間行事の一環として講師を務め、総勢約420名の学生が聴講しました。
産業社会学部の学びの目的は、社会問題を解決する力を身につけること。社会において実際に問題解決が行われている場の一つである裁判所では、どのように諸問題が解決されているのか、また学生や市民としてどのように関わることがあるのか、という視点からの講義でした。
講義の第一部では、京都地方裁判所の増田啓祐裁判官が、今年で開始から15年を迎えた裁判員制度について、その概要や裁判員に選ばれるまでの過程、選ばれた後の仕事内容や一日のスケジュール、守秘義務や裁判員へのサポート体制などについて詳細な説明を行いました。裁判官と裁判員の意見の重みは同じであること、裁判員として参加した人たちは、学生などの若い人も含めそのほとんど(約96%)が参加してよかったと考えていることなども紹介されました。裁判員裁判は、抽選で当たらない限りチャンスが回ってこないが、年齢や職業などバックグラウンドの異なる人々が集まって真剣に議論するめったにない機会であり、立命館大学は裁判員として裁判に参加する場合は公欠となるので、もし選ばれることがあれば積極的に参加してほしいと語りました(立命館大学では、裁判員の任務を果たす学生は授業を休んでも欠席扱いとならず、成績評価に不利にはならないことが規定されています。詳細は学修要覧をご確認ください)。
第一部の後半は、京都地方裁判所の人事課・関卓也さんの司会で、書記官の中洲正隆さんと総務課広報係の田下真理さんのトークセッションが開催されました。中洲さんからは、裁判手続きのプロフェッショナルである書記官の仕事内容や書記官になるまでの研修、令和5年度裁判所事務官一般職採用試験(大卒程度区分)の合格者のうち法学部以外の出身者が55%を占めることなどが紹介されました。また、田下さんは、裁判所と報道機関の関係について、取材の窓口は広報事務を担当する総務課所属の職員であり、報道関係者が事件を担当する裁判官や書記官に直接取材することはないこと、公平性・中立性の観点から裁判所が事件関係者の記者会見を開くことはなく、報道で目にする会見は記者側が別の場所で開催していることを説明しました。
第二部では、京都家庭裁判所の調査官である畠中由美子さんが、2022年に発足100周年を迎えた調停制度の概要を解説しました。民事調停と家事調停の2種類があること、法律の特別な知識などは必要なく弁護士を付けずに申し立てている人も多いこと、訴訟とは異なり勝ち負けが決まるのではなく柔軟で円満な解決法を探る非公開の手続きであること、少額の申立手数料で利用できる制度であることが説明されました。続いて、両親が離婚した家庭の子どもの親との面会交流について架空のケースを用いながら、家裁調査官の具体的な仕事内容が示されました。
司法制度については、産業社会学部の授業で普段なかなか学ぶことはありませんが、参加した学生が提出したアンケートからは、「裁判員制度について小・中・高等学校でも学んだことはあったが、今回はより具体的な内容やプロセスについて裁判官から直接説明を受け理解が深まった」「裁判員に選ばれることがあったらぜひやってみたいと思うようになった」、「書記官や調査官などの仕事もキャリア選択の一つとして考えてみたい」といったポジティブな感想が多くみられました。産業社会学部の学びと司法とのつながりを知り、裁判所を身近な存在としてとらえることができる良い機会となりました。
本企画が成功裏に終わった背景には、学生たちの取り組みと貢献もありました。この講義の学内広報では、メディアリテラシーを学ぶゼミに所属する産業社会学部3回生が作成したポスターとチラシが使用されました。ゼミ担当教員から、この講義の企画概要や目的についての説明を受けた後、どのようなデザインやキャッチフレーズ、情報を組み込めば、より多くの学生が興味関心を持ってくれるかを考え、ゼミ生がポスター案を作成しました。コンペ形式で最終候補に残った2点が、それぞれポスターとチラシとして採用され、学内で掲示・配布されました。日頃のメディアに関する学びを実践に活かすよい経験になりました。今後も、学生の積極的な学びと行動力に期待したいと思います。
(文=産業社会学部教授 浪田陽子、写真=産業社会学部職員 植田聖哉)