「訪れる前と後で見える世界が変わる」気づきを促すバリア体験型カフェ
飲食店で食事をするとき、店の扉を開いて店員に案内された席へ座り、メニュー表を受け取る。ごく当たり前に感じるこの一連の動作で、着席するまでの距離や段差の数、店員の声の大きさを意識する人はどれほどいるだろうか。無意識に行った動作を意識することで、初めて自分の「当たり前」は誰かにとって当たり前でないことに気づく。
立命館大学の学生団体『feel』は、そんな「気づき」を促すバリア体験型カフェの運営をメインに活動している。団体設立の背景やその取り組みについて、代表の藤枝樹亜さん(経営学部4回生)に話を聞いた。
feel設立のきっかけ
藤枝さんは、中学生の頃に患った病気が原因で、車いす生活を送ることになった。特に飲食店を利用時に、不便を感じることがあったと言う。「自分が不便を感じるなら、同じように困っている人がいるはず」と思い立ち、大学1回生時には京都にあるバリアフリーの飲食店の調査・発信を行った。
ただ、活動する中で、バリアフリーを求める誰かの明日を支えることはできても、バリアフリーを必要としない多くの人々の意識を変えることは難しいと実感した。そこで藤枝さんは視点を変え、社会全体がユニバーサルデザインやバリアフリーの重要性に気づくことを目標とする活動を模索した。3回生の時に、アントレプレナーシップ・起業をテーマにした経営学部・林永周准教授のゼミに所属し、ゼミ内で立ち上げた団体がfeelだった。仲間と話し合いを重ね、バリア体験型カフェの企画が生まれた。
社会や環境のあり方によって、何がハードルになるかが変わる
feelは「ユニバーサルな社会の実現」を理念に掲げ、京都や大阪で開催されるイベントにバリア体験型カフェを出店。さまざまなマイノリティの人々がバリアと感じる(当事者にとってはそれが当たり前の場合もある)体験を提供することで、「日常生活に潜む不便」に気づいてもらおうというのがfeelのコンセプトだ。ここでいうバリアとは、「障がいの社会モデル」と同じ見方をしている。
「例えば、私が『大学の大講義を前方の席でしか受けられない』ことに対して、私が歩いて後ろの席に行けないことではなく、階段しかない構造を問題視する見方です。 社会や環境のあり方によって、何がハードルになるかが変わるという考え方が基になっています」と藤枝さんは話す。
「カフェを訪れる前と後で、見える世界が変わることを目指して、ユニバーサルデザインやバリアフリーに関心のない人々にも気づきを持ってもらいたい」と語る藤枝さん。最終的に、意識の変化が建物の構造に反映され、街中で困っている人を助ける行動につながっていくことを目指している。
立命館大学「校友会未来人財育成奨励金」制度
feelの活動を広げる上で大きな助けになったのは、「立命館大学校友会未来人財育成奨励金(団体支援)」 という支援制度だと藤枝さんは話す。校友会未来人財育成奨励金は、立命館大学の校友(卒業生)からの寄付を原資にした支援制度。昨年度は、アイデアを実現するための初期費用として、バリア体験の道具や、イベントでコーヒーを提供するための器具購入などに利用したそうだ。
「今年度の大学入学式で放映された、課外活動に取り組む上回生を紹介する動画にもfeelとして出演させていただきました。その際、『あなたのアイデアは形にすることができます』『まず行動してみましょう』とコメントさせていただきましたが、私たちのアイデアを実現できたのは支援制度のおかげだと感じています」。
すべての人が暮らしやすい社会へ
昨度末には茨木市で「ユニバーサルフェスティバル」という主催イベントを開催したfeel。今年度は、ユニバーサルデザインやバリアフリーへの関心の有無に関わらず、すべての人々にアプローチするため、新たなステップを踏み出そうとしている。より街に溶け込む形で、11月末頃に数日間カフェを運営することを目指しており、現在その準備に追われている。
また、多くのメンバーが4回生ということもあり、卒業後のfeelのあり方についても話し合いを進めている。「私たちが大切にしているのは理念であり、手段や形が変わっても、ゴールに向かって行動し続けたいです」と話す藤枝さん。
バリア体験型カフェを訪れた人の気づきが、新たな変化を生み、よりよい社会の創造につながっていくことをこれからも期待したい。