2024.12.20 TOPICS

産業社会学部創設60周年記念企画 ポン・ジュノ監督講演会が実施されました

 産業社会学部は学部創設60周年記念企画の一環として、韓国の映画監督ポン・ジュノ氏の講演会を2024年11月20日(水)にZ00Mによるオンライン開催で行いました。

 本企画は、2024年度から産業社会学部の客員教授として教育・研究に携わっている韓国ジャーナリスト・孫石熙先生と権学俊先生が担当する「専門特殊講義Ⅰ(SB)」の第8回目授業「メディアと大衆文化―ジャーナリズムの拡張」の一環として実施した講演会でした。同企画には映像学部授業「映像社会論」(担当・経営学部 張惠英先生)の受講生も授業として参加し、衣笠キャンパスといばらきキャンパスの両教室をメイン会場として、科目の受講生を含めて約300人の学生・院生、教職員の参加のもと行われました。

講演に熱心に聞き入る受講生
講演に熱心に聞き入る受講生
OIC会場での様子
OIC会場での様子

 ポン・ジュノ監督は、名実共に韓国映画界を代表する監督で、韓国を超えて世界映画界でも革新的な先駆者として位置づけられた映画監督です。特に、彼が制作した映画『パラサイト 半地下の家族』は、2019年5月の第72回カンヌ国際映画祭で韓国映画史上初めて、最高賞のパルム・ドールを受賞しただけでなく、2020年第92回アカデミー賞で作品賞・監督賞をはじめ6部門にノミネートされ、外国語映画としてアカデミー賞史上初めてとなる作品賞のみならず、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞を受賞しました。また、2020年には『パラサイト 半地下の家族』がギネスブックに登録(アカデミー賞最多受賞外国語映画)され、ニュース雑誌『タイム』誌が選定した「世界で最も影響力のある100人」にアーティスト部門でポン監督が選出されるなど、彼ならではの独創的なスタイルで、韓国だけでなく世界の映画界にも大きな影響を及ぼしている映画監督といえます。

 講演会が始まる前に孫石熙先生から企画趣旨と講演内容に関する簡単な説明があり、本科目の受講生で当日通訳を務めてくれた産業社会学部4回生のキム・ソヨンさんが制作したポン監督の映画に関する紹介映像が上映されました。そしてポン監督の挨拶から始まった講演で、監督は自分自身も同じ社会学を勉強して社会学科を卒業した(延世大学社会学科卒)人であり、産業社会学部創設60周年記念企画にお招きして頂いたことに対してお礼を述べながら、「映画に表れた時代像と社会性」というテーマで本格的な講演を始めました。

 ポン監督はこれまでの代表的な映画作品を取り上げながら、これらの映画の制作動機やその内容、映画に込められている社会性と時代像について語りました。スリラーの緊張感と面白さに加え、1980年代の韓国社会の不条理・社会的時代像と人間本性の内面を映し出した『殺人の追憶』(2003年)、韓国社会の無気力さを風刺した『グエムル―漢江の怪物』(2006年)、母性愛と複雑な人間心理・本性、道徳的混乱を探求した『母なる証明』(2009年)、多国籍プロジェクトで初ハリウッド進出作として2031年に氷河に覆われた地球を背景に階級問題と人類の姿を描いた『スノーピアサー』(2013年)、資本主義システムと環境問題、動物と人間の関係を探求した『オクジャ』(2017年)について説明しました。そして鋭い社会的メッセージと複合的な感情をリアルに描写するとともに、興味深いキャラクターで世界の観客に大きな印象を残した映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)について語られました。

 ポン監督が講演の中で強調したのは、観客が共感できる面白い映画が制作したい、映画そのものの「美しさ」や「芸術性」を追求していくという映画制作に関する彼の思想・哲学でした。映画が最初から政治的目的を持つプロパガンダ映画になってはいけないことや映画がある政治的狙いを持ってメッセージを発信する道具に転落してはいけないことを強調していました。

 ポン監督が何よりも強調した映画制作の基準は、社会や歴史よりも私たち一人一人の「個人」でした。「最も個人的なことは最もクリエイティブなこと」というマーティン・スコセッシ監督の言葉を語りながら、常に時代の底辺に置かれ、為政者の完全な搾取の対象にされた時もあったが、ある時は政権をも揺るがす大きな存在となったその時代を生きていく「個人」と映画の芸術性に集中すると、自然にその映画には社会や歴史の諸問題と社会的メッセージが表れると強調し、多くの受講生から共感を得ました。

 講演が終わってからは、両キャンパスの受講生から数多くの質問が出されました。質問は、これまでの作品に表れている現代社会が抱えている問題に対する批判と階級に対する関心に関する問題意識、全世界の観客に共感を呼び起こす「一つのジャンル」と呼ばれるほど独創的な映画世界を構築した映画テーマと主題の選定とその基準、そしてユーモアと批判的メッセージを適切に配合する映画に関する内容、俳優たちへの思い、公開予定CGアニメーションやハリウッド映画『ミッキー17』など今後の作品に関することでした。

 全ての質問に対してポン監督は丁寧に答えましたが、質問に答える過程で、黒澤明監督の『天国と地獄』(1963年)、宮崎駿監督の『もののけ姫』(1997年)などについて触れながら、日本を代表する映画監督たちとその作品から大きな刺激を受けたことを語りました。また、映画『パラサイト 半地下の家族』の中に登場するニュース報道映像は、実際孫石熙客員教授がJTBCメインニュース『ニュースルーム』を進行した時に孫先生の協力を得て撮影したことを語り、孫先生とのご縁についても紹介しました。ポン・ジュノ監督の講演は、映画という媒体を通じて現代社会に生きる人々が直面している諸問題について活発な意見交換が行われた大変貴重な時間となりました。

 アメリカの映画批評メディア「インディワイヤー」は、「ポン·ジュノはついに一つのジャンルになった」と話しています。彼が演出する映画のジャンルを一つに定義することが難しいし、また、脱ジャンル的な彼の作品からジャンルを区分することは不要かもしれません。

 これまでポン·ジュノ監督の作品は、映画の芸術性・作品性を追求しながら、いつも私たちに社会の不便な真実について、観客たちと社会に向けてそれぞれ違う質問をしてきました。すなわち「ポン·ジュノ」というジャンルの映画は、現実に絶えず問題提起をする「一つの言語」ではないでしょうか。今後、ポン監督は作品を通じて社会にどのような「質問」を投げかけてくれるでしょうか? そして、私たちはその「質問」の答えを通じて現代社会の不便な真実に向き合って変えることができるでしょうか?

(文=産業社会学部教授 権学俊、写真=産業社会学部職員 植田聖哉)

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