概要

 兵庫教育大学の小倉拓郎准教授、滋賀県立琵琶湖博物館の島本多敬学芸員、片山大輔元専門員、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの水野敏明専門研究員、立命館大学衣笠総合研究機構の山内啓之准教授、筑波大学生命環境系の八反地剛准教授らの研究グループは、ドローンを用いた地形測量、村絵図の読図、住民へのインタビュー調査、フィールドワークの4つの手法を組み合わせ、滋賀県愛知川流域の河辺いきものの森(滋賀県東近江市建部北町531)で、住民の記憶から忘れ去られていた伝統的治水施設「猿尾(さるお)」を再発見しました。
 本研究成果は、地球惑星科学系の国際英文誌『Progress in Earth and Planetary Science』に掲載されました。

本研究のポイント

・猿尾は伝統的な水制工(水の流れをコントロールして、洪水被害を抑える機能)の一種で、木曽川では伝承されているものの、滋賀県東近江市での現況の詳細は知られていなかった。

・愛知川流域の河辺いきものの森の河畔林には猿尾が1基あると伝承されてきた(図1)。

図1
図1 河辺いきものの森で従来から地域住民に伝承されていた猿尾
(図3(a)の猿尾①-1)2024年7月8日 小倉拓郎 撮影

・河畔林の林床を対象としてドローンを用いたレーザ測量を行い、高精細な地形情報を取得した(図2左上)。

・明治初期の村絵図とドローン測量の結果を比較すると、村絵図に猿尾と表記されている場所と地域で伝承されている猿尾の場所が合致しており、江戸期~明治期の遺構であることが明らかとなった(図2右上)。

・これらの成果をもとに、猿尾のことについて知っている建部北町の70~90歳代の住民を対象としたインタビュー調査と現場踏査を行ったところ(図2左下・右下)、河辺いきものの森西側に、住民に伝承されていなかった新たな猿尾1基を再発見できた(図4)。

・自然地理学(地形学、地理情報科学)、人文地理学(歴史地理学)、生態学、河川工学などの多様な分野の研究者や実務家による共同研究によって、本研究の成果をおさめた。

図2
図2 本研究で用いた4つの手法
図3
図3 本研究で明らかにした河辺いきものの森における猿尾の分布を示した地図
(a)猿尾の位置を記載した地図(国土地理院発行地理院地図を利用)
(b)ドローン測量をもとに作成した標高図
(c)1874年に作製された村絵図
(滋賀県立公文書館蔵、明ヘ5編次51、同館デジタルアーカイブより)
図4
図4 河辺いきものの森で再発見した猿尾(図3(a)の猿尾②)
2023年7月20日 小倉拓郎 撮影

今後の展開と展望

 本研究成果から、猿尾を通して地域住民が河川の氾濫とつきあう歴史を明らかにすることができ、水害との歴史や人々の暮らしを改めて可視化することができました。今後は、猿尾が存在すること(存在していたこと)をもとに、地域の環境や防災に興味を持ってもらうことができるよう、博物館や学校において教育普及活動を行うことで、記録と記憶を私たちの次の世代へ受け継いでいきたいと考えています。

本研究の発表雑誌

Progress in Earth and Planetary Science
オンライン掲載日:2025年6月6日
DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-025-00715-5

論文タイトル

Identification of traditional flood control facilities concealed in the riparian forest: a case study of the Echi River, central Japan

著者

Takuro Ogura*, Kazuyuki Shimamoto, Toshiaki Mizuno, Daisuke Katayama, Hiroyuki Yamauchi, Tsuyoshi Hattanji (*は責任著者)
著者所属:小倉 拓郎*(兵庫教育大学学校教育研究科)、島本 多敬(滋賀県立琵琶湖博物館)、水野 敏明(滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)、片山 大輔(元・滋賀県立琵琶湖博物館)、山内 啓之(立命館大学衣笠総合研究機構)、八反地 剛(筑波大学生命環境系)

謝辞

 本研究の遂行には、令和6年度河川情報センター研究助成、JSPS科研費(JP21H00627, JP21K13163, JP22K13777, JP22H00750, JP24K00171)を使用しました。また、東京大学空間情報科学研究センター共同研究( JoRAS:No. 814)、滋賀県琵琶湖環境科学研究センター第7期中期計画政策課題研究2、立命館大学アート・リサーチセンターARC-iJAC プロジェクト(課題番号:D16)の一環として行われました。本研究は、河辺いきものの森のスタッフの皆様、東近江市と市民の皆様のご協力のもと、調査を実施させていただきました。

猿尾のことについて知ることができる展示やイベントを行います

本研究の内容をわかりやすく発信するために、猿尾に関する展示やイベントを行います。
詳細については、関係機関のウェブサイトをご覧ください。

―展示―
①滋賀県立琵琶湖博物館:第33回企画展示「川を描く、川をつくる―古地図で昔の堤を探る―」
開催期間:2025年7月19日(土)~11月24日(月)
内容:17~19世紀の琵琶湖集水域・淀川流域を中心に、災害の状況や土木工事の計画を描いた地図、治水の歴史に関わる道具や文書などを展示します。また、古い地図から歴史を研究する方法を紹介します。
担当:島本多敬(滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員)
②東近江市近江商人博物館:企画展 「猿尾(サルオ) 自然と生きる先人の知恵」
開催期間:2025年7月26日(土)~10月13日(月・祝)
内容:愛知川周辺に現存する水制施設・猿尾の痕跡を追った研究者たちの挑戦と多様な工法を組み合わせて水害の防災・減災に取り組んだ先人の知恵を紹介します。
担当:小林亜美(西堀榮三郎記念探検の殿堂)

―イベント―
①愛知川に眠る猿尾をVRでさぐろう! in 琵琶湖博物館
開催日:2025年7月26日(土)・27日(日) 両日とも13時00分~16時00分
場所:滋賀県立琵琶湖博物館(主催:滋賀県立琵琶湖博物館)
②愛知川で川渡り
開催日:2025年8月23日(土)
場所:河辺いきものの森(主催:西堀榮三郎記念探検の殿堂)
③研究者と一緒に愛知川の猿尾VR体験
開催日:2025年9月6日(土)
場所:近江商人博物館(主催:西堀榮三郎記念探検の殿堂)
④東近江学「猿尾って何?研究者たちがご案内します」
開催日:10月11日(土)
場所:河辺いきものの森(主催:東近江市文化・スポーツ部博物館構想推進課)
⑤愛知川に眠る猿尾をVRでさぐろう! in 河辺いきものの森
開催日:2025年10月12日(日)13時00分~16時30分
場所:河辺いきものの森(主催:滋賀県立琵琶湖博物館)
⑥愛知川に眠る猿尾をVRでさぐろう! in 近江商人郷土館
開催日:2025年10月25日(土)13時00分~16時30分
場所:近江商人郷土館(主催:滋賀県立琵琶湖博物館)

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