生命科学部・堤研究室が結晶の大きさを変えるだけで材料の機能を制御できることを発見

生命科学部の堤治教授、久野恭平助教、及び黒田由紀さん(2019年度 生命科学研究科博士課程前期修了)ほか5名の学生・研究員が新しい金(I)錯体を開発しました。この化合物の結晶に紫外線をあてると非常に強い発光を示すことから、有機ELテレビなどに用いられる発光材料として有望です。同グループで物性を調査した結果、この化合物は結晶中の分子の配置(結晶構造)がわずかに変化しただけで、発光の色が大きく変わるという面白い性質をもつことを発見しました。さらに詳しく調べると、結晶を10 µmよりも小さく粉砕することで、大きな結晶とは全く異なる色で発光することが分かりました。つまり、小さな結晶の中では、大きな塊の中とは結晶構造が異なることを示しています。

有機化合物の結晶を作成する方法の一つとして「再結晶法」があります。これは、化合物を溶媒に溶かしておいて、温度を下げたり、溶媒を蒸発させたりすることで結晶を析出させる方法です。この過程では、はじめに核とよばれる小さな結晶が生成し、この核が成長して目に見える大きさの結晶が得られます。核が成長する過程で結晶構造の変化が起こる例が存在することが知られていますが、実際にその変化を観察することは非常に困難です。今回、堤グループでは、結晶構造のわずかな変化によって発光色が変わる性質を利用して、核成長に伴う結晶構造の変化をその場でリアルタイムに観察することに成功しました。結晶生成過程のさらなる理解に繋がると期待されます。

デバイスの中では、有機材料は薄膜や微粒子状の結晶として使用されます。今回の研究成果は、結晶を薄膜や微粒子のように小さなサイズにすると、大きな結晶とは全く違う性質をもつ可能性があることを意味しています。有機化合物の応用において重要な知見となり、材料設計に対する新しい指針を与えるものです。

本研究の成果は、2020年10月14日にNatureの姉妹誌である「Communications Chemistry」(オンライン版)で公開されました。

論文情報

発表雑誌:
Communications Chemistry

論文名:
Observation of crystallisation dynamics by crystal-structure-sensitive room-temperature phosphorescence from Au(I) complexes
(結晶構造に敏感な金(I)錯体の室温りん光を利用した結晶化過程の観察)

著者:
Yuki Kuroda, Masakazu Tamaru, Hitoya Nakasato, Kyosuke Nakamura, Manami Nakata, Kyohei Hisano, Kaori Fujisawa & Osamu Tsutsumi

掲載URL:
https://www.nature.com/articles/s42004-020-00382-1

DOI:
https://doi.org/10.1038/s42004-020-00382-1

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