吉田悟さん

 映画館で専用のメガネをかけることで、映像を立体的に楽しめる3D(3次元)上映は、今や当たり前のように楽しめるようになった。近年では専用のメガネをかけることなく、3次元映像を映し出すことができる、3次元ディスプレイの開発が進んでいる。
 最先端のディスプレイ開発プロジェクトに携わる吉田悟さん(生命科学研究科博士課程後期課程2回生)を取材した。

目次

3次元ディスプレイ開発の難しさ

 吉田さんは、光科学技術のなかでも近年注目されている「円偏光発光(CPL:Circularly Polarized Luminescence)」についての研究をしている。CPLは、3次元ディスプレイの光源だけでなく、光通信技術、高度なセキュリティ印刷、植物の生長促進など、さまざまな分野での応用が期待されている。
 円偏光とは、左向き、右向きのらせん状に進む光のこと。映画館の3D上映の場合、光の回転する向きで、メガネ(偏光レンズ)が光を透過させるかどうか左右に振り分けることで左目と右目に別々の映像を見せ、脳の錯覚によって立体的に見えている。従来の円偏光は、円偏光板(フィルター)で変換することで作り出しているが、フィルターによる輝度の減少や装置の小型化が極めて難しい。そこで、フィルターなしで円偏光を作り出そうというわけだ。ただ、現状のCPL材料では発光強度(円偏光性・輝度)などに課題があり、今はまだ実用化に至っていない。

概念図写真

3次元ディスプレイ開発に必要な「光」の創成を目指して

 吉田さんは、ミクロの分子レベルからマクロの材料レベルに至るまでのさまざまな階層で構造を制御し、CPL材料の発光強度を極限まで向上させようとしている。新たな有機CPL材料を生み出すことができれば、実用化に向け大きく前進することになる。
 さらに、革新的な有機CPL材料を開発するにあたり、その生成コストは相当なものとなっている。そこで、それら材料を如何にして効率的に生成できるかも重要な研究テーマだ。
 「例えば、内視鏡の手術時、現在は2次元の画面を見ていますが、3次元化して見ることができれば、より精度の高い施術が可能になります。また、危険な場所でロボットが作業する際も人が立体的な画面で操作すれば、安全な場所から正確に作業することができるようになるでしょう。3次元ディスプレイが実現すれば、さまざまな分野で大きな進展が見られると思います」と吉田さんは語る。

吉田さん

大型プロジェクトとの出会い

 CPL有機材料研究との出会いは、大学院生になってから。CPLに関する基盤技術創成を目指す大型プロジェクト「円偏光発光材料の開発に向けた革新的基盤技術の創成」(国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による戦略的創造研究事業(CREST)採択事業)がきっかけだった。複数の大学から研究者が集まり、分担して研究を進める大型プロジェクトだ。
 「当初、生命科学研究科の花﨑知則教授の研究室に配属されましたが、プロジェクト代表の赤木和夫教授が立命館大学に来られたことがきっかけとなり、赤木教授とともにプロジェクト、そして自身の研究を進めることになりました。CPL研究のパイオニアである赤木教授と一緒に研究を進められたのは、本当に貴重な経験でした」。大型プロジェクトの研究と自身の研究を両立させるため、寝食以外は全てを研究に打ち込んだという。その後、吉田さんは「博士課程後期課程でしか味わうことのできない経験を通じて、さまざまなスキルを身に着け、企業の研究開発職に就きたい」と考え、博士課程後期課程への進学を決めた。

実験している様子
機材

マネジメント能力の重要性と今後のキャリアプラン

 博士課程後期課程になり、後輩を指導する立場になった吉田さん。その経験が自身を大きく成長させたと語る。「研究プロジェクトはチームワークだけではなく、個々研究者の力量向上が不可欠です。そのため、研究者個人の力量の向上に適した指導とは何かを常に意識しています。また、プロジェクトには多くの人が関わるので、人間関係を構築し、よりよい環境でチームが研究できるようにすることにも心を砕かないといけません。こうした経験を積み重ねて、マネジメント能力を含め、論理的思考力、指導力など、人間的な面で大きく成長できたと感じています。これらの能力を高めることができたのは、博士課程後期課程の大きな財産です。残りの研究生活でも、専門知識に加え、こうした人間的な面でもっと成長できればと思っています」。
 現在、吉田さんは「立命館大学NEXT フェローシップ・プログラム生」に採択されている。立命館大学では、優秀で意欲の高い博士後期課程の大学院生を「立命館大学NEXT フェローシップ・プログラム生」に採択し、先端的な研究を行う多様な分野の研究人財と協働しながら、自らの専門性を深め、幅広い研究視点の獲得を目指すプログラムを実施している。
 「大学がキャリア支援をしてくれるのは、本当に助かります。自分の研究やプロジェクトで忙しいなか、就職活動に割ける時間は限られています。親身に、そして博士課程後期課程に特化して支援してくれるのはありがたい」とプログラムの意義を語ってくれた。
 吉田さんは博士課程後期課程修了後、民間企業の研究開発職を目指している。研究プロジェクトの運営を通じて、身に着けた専門知識や人間性を以って、近い将来、社会に革新をもたらす製品を彼が生み出すことに期待したい。

吉田さん

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