アイシン✕立命館大学、 「人とモビリティの未来を拓く」共同研究がスタート

2023.06.05 TOPICS

アイシン✕立命館大学、 「人とモビリティの未来を拓く」共同研究がスタート

立命館大学は、自動車部品、エネルギー・住生活関連製品の大手メーカーであるアイシンと2023年、「人とモビリティの未来を拓く」というテーマを掲げて、「総合知の発揮」に向けた他に例を見ない革新的な共同研究プロジェクトを開始した。
モビリティの未来に向けて手を取り合ったのは、立命館大学副学長の徳田昭雄とアイシン取締役・CSDOの鈴木研司氏だ。 両氏の共鳴する思いから生まれるこれまでにない共同研究について、二人に話をうかがった。

モビリティ社会に向けた課題感を共有するパートナーシップ

立命館大学副学長 徳田昭雄
立命館大学副学長 徳田昭雄

2015年にデザイン科学研究センター傘下に「フューチャーモビリティ研究会」を立ち上げ、大学・企業の垣根を超えてモビリティをめぐる社会課題についての議論を深めてきた徳田。今回の鈴木氏との出会いをこう振り返る。

「自動車がいろいろなものにコネクトする社会に向かっていくなかで、乗り物だけでなく人やお金などさまざまな要素の可動性を高め、血の巡りを良くしていくことが社会の活性化のために非常に重要になるだろうと考えていました。アカデミアの枠を超えてこうした課題感を共有できるパートナーを探していたところ、2022年の夏にアイシンの鈴木さんをご紹介いただく機会があったのです。世界に誇る大企業のナンバーツーということで、どんな方だろうと内心緊張していたのですが、会ってお話ししてみるととてもカジュアルな方で、まずその人柄に惹かれたのを覚えています」

メーカーと大学の共同研究といえば、これまではほぼ理工系分野に限られてきた。鈴木氏はそんな従来型の共同研究では得られない新たな視点を取り入れるために、以前から人文系研究者との協業を模索してきた経緯がある。その鈴木氏にとっても、徳田との出会いは新鮮だったという。

「企業側があるテーマについて共同研究できるパートナーを探そうとしたとき、そこにあてはまるアカデミック人材を見つけるのは簡単ではありません。多くの研究者の方にとってはひとつの方向を定めて論文を書くことが仕事になりますから、どうしても互いのニーズの間にずれが生じてしまうのです。ところが徳田先生とお会いしてみると、じつに多角的に対話ができる。この方となら課題感を共感していけそうだなと直感しました。平たく言えば、お友達になれそうだな、と(笑)」

社会課題への思いで意気投合した両氏。数度の面会を重ねて、今年2月にはプロジェクトの大枠が固まった。徳田の覚悟を決めさせたのは、鈴木氏のある言葉だったという。「『ひとまず4つの研究テーマを進めますが、アカデミアから見て面白くないと思ったら途中で止めてください。また次のテーマを考えましょう』と言っていただけて、心が解放されたというか、これは本気でやらなければならないぞ、と気合が入りました」

あらかじめゴールを定めてその実現に向けて取り組むのが従来の共同研究の姿だが、今回のプロジェクトはそれとは大きく異なると鈴木氏は言う。「スポーツに例えるなら、従来の技術開発はトラックをいかに速く走り抜けるかという目標に向かって進んできました。しかしビジネスの環境が激変する現在、あらかじめ用意した目標に向かって走るのではなく、ゴールが無いなかで時勢の流れをしっかりととらえて乗りこなしてゆく、サーフィンのようなフェーズに入っているといわれています。ですから今回の連携も、どんどん失敗しても、変化していくことを互いに許容しあえる関係でありたいと思っています」

ものづくりと人文社会知のタッグによる「本気の文理融合」

アイシン取締役・CSDO 鈴木研司氏
アイシン取締役・CSDO 鈴木研司氏

アイシンと立命館大学 がタッグを組む理由は、共同研究に対するスタンスの近さだけではない。両者が補い合うことで得られるシナジーがあるからだ。パートナーとしてのアイシンの魅力を、徳田はこう語った。

「世界的に見て、日本の大学は研究力を社会に還元する力が非常に弱いことが長年の課題になっています。ですから、社会から投資いただいたものを社会に還元するという意味でも、大学がバリューチェーンの一部を担い、研究成果を人々の笑顔へと結びつけなければならない。立命館ではこれを『社会共生価値の創造に向けた総合知の発揮』と呼んでいますが、こうした大学像を我々は今まさにめざしています。 パートナーとしてのアイシンさんは、ものづくりの力はもちろんですが、製品の評価に力を入れておられるところも非常に魅力的です。新しい価値を世に問うていくとき、社会的、倫理的、法的な観点を含めた総合的なシステムとしての評価を行い、世の中に実装していくことが必要ですが、アイシンさんにはつくったモノが本当に役に立つのか厳しい目で評価する風土がすでにある。ここに立命館のデザインサイエンス――あるべきものを探求し、そこに絡む利害を調整するための最適解を求めてゆく学問的見地――を組み合わせることで、これまでにない共同研究、本当の意味での文理融合、総合知の発揮が可能になるのではないかと考えています」

アイシンにとっても、大学や学問領域の枠を超えて社会課題の解決に積極的に取り組む立命館大学とタッグを組む意義は大きいと鈴木氏は語る。

「アイシンの生産ラインではAIを搭載したロボットをすでに運用しています。しかし、工場という閉鎖空間を飛び出して社会全体でそうしたイノベーションを起こそうとすると、やはり徳田先生のおっしゃるような人文社会科学の視点が必要になる。ものづくりを通して社会課題を解決するには、アカデミアの網羅性、普遍性こそが重要になるのではないかと思います」

技術力と柔軟な発想で時代を先取りする事業を展開してきたアイシンの企業スピリットと、他大学に先駆けて「本気の文理融合」に取り組んできた立命館大学の研究スピリットが共鳴し、日本では例を見ない人文社会科学分野での大規模なプロジェクトは動き出した。「人とモビリティの未来を拓く」というテーマには、日本の自動車産業が今後めざすべき価値を模索し、人を第一において社会課題を解決していく決意が込められている。

共同研究、人材育成、そして拠点形成へ

対談は和やかな雰囲気で、二人の信頼関係がうかがえた
対談は和やかな雰囲気で、二人の信頼関係がうかがえた

モビリティを巡る環境が100年に一度の変革期を迎えている今、今回取り組む共同研究では、アイシンがもつ4つの技術――マップマッチング、ギヤ、PARS(振り子式加速度低減技術)、油圧――に立命館大学のデザインサイエンスの知見をかけあわせて全く新しいモビリティの価値を創造することをめざす。

「最終的なソリューションはものを作るということではなく、人々の暮らしにどう活かされるかが問われる時代になっています。自動車部品で培われたアイシンさんのすばらしい技術を、自動車だけにこだわらずさまざまな製品やサービスにどのように活用・展開していくのか。ユーザーの心理的変化や、社会的・倫理的・法的課題を考慮しながら、あらゆる可能性を一緒に考えていくことになるでしょう」と徳田は語る。

モビリティ社会の未来のために取り組むのは、研究ばかりではない。並行して、デザインサイエンスの考え方をアイシンの社員に根付かせるためのリスキリングにも注力するという。心理学やデザイン、メタバースまで多方面で活躍する一流の研究者をアイシンに招き、全15回のワークショップを実施する予定だ。

さらに研究と教育の先にめざすものは、オープンイノベーション拠点を立ち上げることだ。「たとえば、今はAIが人間の仕事を奪うのではないかという話がありますが、そうではなく、支援が必要な人をサポートしていくためにいかにAIを活用するかというテーマで考えてみるとどうでしょうか。テーマに共感する人が増えれば、研究や技術開発は加速していきます。そのように、会社や大学の垣根を超えて未来の社会のビジョンを共有できる人が集まれる場所ができればと思います」と鈴木氏は展望を説明する。

新しい産学連携のかたちを社会に提示する

アイシン本社コムセンターにて
アイシン本社コムセンターにて

誰もまだ見たことのない未来に向けて走り出したアイシンと立命館大学の共同研究。この取り組みを通して、社会にどんなメッセージを伝えたいのだろう。鈴木氏はこの問いに、今回の共同研究が社会を動かすフラグシップになって欲しいと期待を口にする。

「私たちは価値を社会に提供することで対価をいただいており、アプローチする社会課題が大きければ大きいほど事業の価値も大きくなります。この共同研究ではあえて明確なゴールを定めていませんが、社会課題を解決するという目的と情熱を共有できていれば、自然とみんなが『これがいいね』と思えるところに行き着くのではないでしょうか。多くの方に賛同していただくことで、より大きな課題にアプローチできることを期待しています」

徳田は立命館大学の研究を牽引する立場から今回の挑戦の意義を語る。「立命館では2030年に向けた中期戦略のなかで『社会共生価値の創造』を掲げています。これを実現するために、アイシンさんと一緒にオープンイノベーションのあり方を模索し、社会に対してインパクトをしっかりと出していくのが重要だと思っています。またそのことが、日本の大学、研究者にとって良い刺激になればとも思います。自然科学分野と比較した場合、日本では企業から人文社会科学の研究分野に大きな投資をいただくということ自体があまり多くありませんが、今回のプロジェクトでは、アイシンさんから非常に大きな期待を込めて頂きました。このご期待に応えるべく、総合知を発揮する産学連携の手本となるような成果を残していきたいです」

両者が描くのは、モビリティを通して誰もが笑顔で過ごすことのできる社会だ。「人とモビリティの未来を拓く」ための挑戦が、今始まる。

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