2023.10.23 TOPICS

【起業家インタビュー】見えない困難がある人を支えるアプリ「Focus on」のリリースに向けて

 「困っていることがうまく人に伝わらない」「疲れていることが自覚しにくい」一見すると“大丈夫そう”だが、実は見えない困難を抱える人は少なくない。得てしてそういう人々が出すSOSは見落とされがちだ。そうした現状を変化させるべく、“普通”を頑張る人を支えるアプリ「Focus on」の開発を続けてきたのが、一般社団法人Focus on代表理事の森本陽加里さん(産業社会学部3回生)だ。

 2023年3月掲載のインタビュー記事で、類まれなる行動力と根気強さでアイデアを形にしてきた彼女のストーリーを紹介した。今回、彼女がその後起業家としてどのような経験を重ねてきたのか、アプリのリリースを約1カ月後に控えた今、話を聞かせてもらった。

※過去のインタビュー記事はこちら

疲労を可視化し、困りごとを周囲に共有できるアプリ「Focus on」

「Focus on」は発達障害などの特性や目に見えない困難に悩む人が、疲れや困りごとを可視化し、周囲に現在の状況を共有できるセルフケアアプリだ。ユーザーの感覚世界を共有する機能や疲労のアラート機能によって、見えない疲れの可視化や自己理解の促進、必要な支援を周囲に求める力を育むことができる。原案となるビジネスプランは、森本さんが高校2年生のときに立案したもので、発達障害の当事者として苦しんだ経験を踏まえて構想を練ってきた。

今年の4月からはβ版(試用版)アプリのUI(ユーザーインターフェース)のヒアリングをスタート。約3カ月をかけて画面から感じるイメージを聞いたうえで、より良いUIにするにはどのようなアイデアが必要か、ユーザーと率直な意見交換を行った。

「ノート形式のデザインについてヒアリングを行った際に『これだと学校を連想してしまい、アプリの起動を躊躇してしまう』という声がありました。私も同じ画面を見たとき、『学校を連想して嫌な子はいるかもしれない』と感じていたのですが、やはり学校で苦しんだ経験がある子どもたちを対象にする場合、一定の配慮が必要だと分かりました。

新たな発見としては、疲労を数字で答える質問項目について「数字と自分の疲労度が直結しない」という反応があったことです。私の場合は数値化して疲労度を捉えることに違和感はないタイプなのですが、自分とは異なる特性を知ったことで、より使いやすさを感じてもらうために必要な視点を学ぶことができたと感じています。 またこのフィードバックのおかげで、過去に体験した発達障害の支援に関する理解を深めることができました。その課題は『自分の感情に合う顔を選んでみよう』というものだったのですが、当時の私は『これって何の意味があるのだろう』と腑に落ちませんでした。しかし、今回の検証のおかげであの課題の意味をしっかりと捉えることができたのは貴重な経験でした」

8月からはアプリのβ版の開発が始まり、委託先企業とともにアイデアを一つひとつ具現化していった。9月に入ると、個人向け支援や東京都と愛知県の高校での導入検証のほか、新たな試みとしてB型就労継続支援事業所での検証にも着手した。

「事業所の要望のなかで印象的だったのは『定期的に通うことが難しい方の状態を知りたい』というものでした。週1回の通所も難しく、直接会う機会が少ない利用者が、今どういった状況にあって何を考えているのか。そういった方とのコミュニケーションツールとしてアプリを期待してくれていました。これまでは家庭や学校という枠で事業を考えていたのですが、今後はそうしたニーズに応えられるようなプランも考えたいです」

ユーザーと支援者がともに正解をつくっていってほしい

新たな事業の展開も見えてきた「Focus on」。以前から進めている教育機関での導入検証は順調に進んでいるが、その一方で教員から「アラートが出たときの適切な対応がわからない」という声が寄せられることもあるという。こうした声に対して森本さんは「ユーザーと一緒に正解をつくっていってほしい」と語る。

「『Focus on』はあくまで、ユーザーの状況を周囲の方に知っておいてもらい、ユーザーがヘルプを出しやすい状態をつくることを目指しています。そのため先生方には、ある“正解”に従って動いてもらうのではなく、むしろヘルプの内容から一緒に適切なやり方をつくっていってほしいのです。そのサポートのために、製品版では個人の特性をより詳細に載せられる仕様にする予定です。具体的には、問題が起こった際に自分で解決したいタイプなのか、誰かと相談をしながら対処していきたいタイプなのか。そういった情報をアプリに散らばせることで、支援者がさまざまな想定をしやすいように工夫しています」

起業はあくまで手段。発達障害に悩む子どもたちの現状を変えていきたい

起業家としての道を歩み始めて約10カ月が過ぎた今、彼女の中で変化したことを尋ねると、ようやく“経営者っぽく”なった気がすると同時に、仕事の捉え方が変化したという答えが返ってきた。

「起業当初は、『とりあえず使ってくれる人がいればよい』という考えでしたが、今は『お金を払ってでも欲しいと思うサービスなのか』『きちんと価値を提供できているのか』ということを考えはじめました。ほかにも人材の採用や育成についても考えるようになり、ちょっとだけ経営者っぽくなったように思います。 それから、実は思ったよりも仕事が好きではないということに気がつきました。起業家の友人のなかには、寝ても覚めても仕事をするのが好きという人がいますが、自分にとって起業や仕事はあくまで“手段”。発達障害の子どもたちが見過ごされている現状で、誰かが何とかしてくれることを待つのではなく、自分がその現状を変えていくためにビジネスをする。その信念を遂げるための手段として仕事を捉えるようになりました」

最後に、「Focus on」の今後の展開について尋ねると、森本さんはこう語ってくれた。

「『トモダチコレクション』のようなイメージでアバターを活用して、温かいつながりや利用者同士の相互理解を育む機会を提供するアプリにできたら良いなと感じています。例えば休養のアラートが出たときに、アバターが“よしよし”としてくれるモーションがあれば、楽しく使ってもらえるはず。『ぜひ使ってみたい!』と感じていただけるようなサービスにしていきたいです」

現在、「Focus on」は12月のリリースに向けてクラウドファンディングを実施中。ぜひ以下のサイトもご覧ください。

クラウドファンディングサイトはこちら

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