2024.02.09 NEWS

銅のマイクロ・ナノパターン構造を簡易的かつ高速に形成する加工技術の開発 ~電子機器製造の低コスト化・環境負荷低減に期待~

 立命館大学大学院の辻淳喜氏(理工学研究科 博士前期課程2回生)と同理工学部村田順二教授らの研究グループは、同理工学部滝沢優教授らの研究グループと共同で、銅の微細パターンを簡易的かつ高速に形成する加工技術の開発に成功しました。本研究成果は、2024年1月17日に、Wiley社の「Advanced Materials Interfaces」に掲載されました。

【本件のポイント】

  • 銅のマイクロ・ナノパターンを直接的に形成する加工技術を新たに開発
  • 薬液等を一切必要としないことにより環境負荷の低減と費用対効果の向上に期待
  • 特殊な装置や複雑なプロセスが不要であることから産業への導入が容易

概要

 近年、銅の微細なパターンは金属配線をはじめとする電子機器への応用が進んでいます。銅表面にパターンを形成させる加工技術にはフォトリソグラフィ※1とよばれる方法が一般的ですが、高価な装置を用いた複雑な工程であることから、コストが高くなることや、環境負荷が大きいことなどが問題とされています。本研究では、簡易的な方法で銅のパターンを形成する方法として、固体高分子電解質膜(PEM)※2を用いた新たな加工技術を開発しました。PEM表面にパターンを持たせた“PEMスタンプ”を用い、銅の表面との接触部における電気化学反応※3により、数百ナノメートルの精度のパターンを一工程で形成できることを明らかにしました。本研究の加工技術はフォトリソグラフィで使用されるレジスト※4や薬液を一切必要としないため、環境負荷の低減および費用対効果の向上が期待されます。

研究の背景

 銅は、その優れた電気特性から半導体素子の配線に広く使用されています。銅の微細パターンを形成するため、フォトリソグラフィなど様々なパターニング技術が開発されています。フォトリソグラフィは半導体素子の主たる製造技術ですが、レジストや薬液を必要とする複雑なプロセスによる加工コストの増大が課題となっています。そのため、マイクロ・ナノレベルのパターニング精度を低コストかつ簡易的に達成できる加工技術の開発が求められています。

研究の内容

 研究グループでは、電気分解(電解)によって銅がイオン化することを利用した加工技術である電解加工に着目しました。この技術では、電解により銅をイオン化して液体に溶出させることで加工を行います。銅表面の意図した部分にのみ加工を生じさせることで任意のパターン構造が得られます。電解加工は、高精度パターンの加工が難しいことや、多量の薬液を用いることなどが課題でした。
 研究グループでは、電解加工で使用される薬液の代わりにPEMという特殊な膜を使用することを着想しました。このPEMの表面上にパターンを有する“PEMスタンプ”を用いることで、銅とPEMの接触点のみで加工を進行することを見出しました。これにより、銅の表面にスタンプを押すように、簡易的かつ高速 にパターンが形成できることを明らかにしました(図1)。また、電解によりイオン化した銅イオンはPEM中を移動し、陰極表面において再び金属として析出されることを明らかにしました。この新たに開発したパターニング技術により、数マイクロ~数百ナノレベルの銅の微細パターン形成を実現しました(図2)。

新しいパターニング技術のイメージ図 図1 新しいパターニング技術のイメージ図 (右下)使用後PEMの断面顕微鏡像と元素分析(紫色が銅の存在を示す)

本技術により加工された銅表面の顕微鏡像(左)鮫肌構造、(中)ホール構造、(右)Line&Space 構造 図2 本技術により加工された銅表面の顕微鏡像(左)鮫肌構造、(中)ホール構造、(右)Line&Space 構造

社会的な意義

 銅の微細パターンは、半導体素子の金属配線をはじめとして、様々な応用が進められています。しかし、高精度かつ低コストで微細パターンを得ることは困難であり、加工コストの高さがひとつの課題となっています。本研究成果は、銅表面の微細パターン加工において、複雑な工程や特殊な装置を必要とせずに、簡易的に高精度パターンを形成できることから、加工コスト低減に繋がると期待されます。従来の微細パターン加工で使用されていたレジストや薬液を一切必要としないことから、環境負荷の低減およびさらなる費用対効果の向上も期待できます。また、非常に簡易な加工技術であるため、産業への導入も容易であると期待されます。

論文情報

  • 論文名: Cu Direct Nanopatterning Using Solid-State Electrochemical Dissolution at the Anode/Polymer Electrolyte Membrane Interface
  • 著者: Atsuki Tsuji(立命館大学 理工学研究科), Eita Morimoto(立命館大学 理工学研究科), Masaru Takizawa(立命館大学 理工学部), Junji Murata(立命館大学 理工学部)(責任著者)
  • 発表雑誌: Advanced Materials Interfaces
  • 掲載日: 2024年1月17日(水)
  • DOI: 10.1002/admi.202300896
  • 掲載URL: https://doi.org/10.1002/admi.202300896

謝辞

 本研究は、JST 創発的研究支援事業 JPMJFR222P、JSPS 科研費23K17725、23H01320 および三豊科学技術振興協会の支援を受けて行われました。

用語説明

  • ※1 フォトリソグラフィ
    写真現像技術を活用した微細加工技術。半導体素子の製造に多用されている。
  • ※2 固体高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane; PEM)
    固体の状態で液体のようにイオンが電気伝導を担うフレキシブルな膜。燃料電池等に用いられている。
  • ※3 電気化学反応
    溶液中に浸漬された金属等の電極間に電気を流すことによって生じる化学反応。電気分解や電池などに応用されている。
  • ※4 レジスト
    リソグラフィなどの微細加工技術において、加工したくない部分を保護する高分子膜。

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