2019.02.05

難解な日本語人称

みなさんは、自身の固有の名前(固有名詞)以外に自分を指す代名詞があることに気づき、その用法を身につけていったかを説明できますか?たぶん、多くの人が「自然に」と答えるのではないでしょうか。そうなんですよね。自然にというよりは、誰もきちんとは説明できないと言った方が正しいんですよね。

幼いころ、周囲にいる人たちは、「Aくん」と呼びます。呼ばれたAくんは、自分がAくんであると認識します。こどもはまず、自分の存在と固有名詞(自分の名前)の関係を獲得します。この固有名詞は、自分がそこにいてもいなくても、どんな相手であっても、絶対的に揺らぎません。そこから、一人称代名詞の獲得は簡単ではないのですが、わたしたちは漠然と身につけていきます。周囲の大人が「わたし」「ぼく」などのことばを使う環境の中、絶対な「誰」ではなく、誰の名前の代わりもしうる一人称代名詞に触れます。徐々に、一人称代名詞が自分自身の名前の代わりをすること、それはまた他の人も同じように用いることばであることに気づいていきます。

漠然と一人称代名詞を身につけた後、二人称代名詞が浮上します。「Aくん」と呼ばれていたものが「あなた」「きみ」などと呼ばれるようになります。あるいは、「わたし」「ぼく」と言っていた大人が「あなた」「きみ」と呼ばれていることに気づきます。いったい何が起こっているのだろうか?と子どもはパニックにならないのか、今考えるととても不思議です。

こうやって、主体である「Aくん」は、「Aくんは〇〇が食べたい」から「ぼくは〇〇が食べたい」と変化し、客体である「Aくん」は、「Aくん、△△ほしい?」から「あなたは、△△ほしい?」と訊かれるようになり、絶対的な「Aくん」が、「ぼく」でもあり、「あなた」でもあると認識していきます。

ただし、日本語の人称は難解。いろいろな意味で難解なのですが、人称が省略されるという意味でとても難しいと思います。上の例でいうと、実際は、Aくんが「あなたは、△△ほしい?」と訊かれることはなく、「△△ほしい?」とだけ訊かれるでしょう。多くの言語では、人称が省略されることはほとんどありません。

また、日本語の文化では、親は子どもに話しかけるとき「パパ(お父さん)はね」「ママ(お母さん)はね」と言うことが多いですよね。親が子どもに二人称代名詞を使うことが少ないため、子どもも、成長してからも「とうさん」「かあさん」「とうちゃん」「かあちゃん」と使う人が多いと言われています。両親に対して「あなた」と言う人はあんまりいませんよね。

こうやって、ことばで書くと簡単なようだが、なかなか高度なことをわたしたちはやっているんですよね。
人称の獲得やことばの獲得、あるいは、どうやって場の空気を読めるようになるのか、などなど、わたしたちが「なんとなく」としか説明できないことがほとんどで、ひとの発達については、ほとんどが未解明です。みなさんは、どうやってことばの獲得を説明しますか?